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異世界冒険記  作者: 九重九十九
ペルウィーン国編
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モヤシ系貧弱男の本気

 ペルウィーン南地区の関所の扉を、黒石の爆発魔法と脳筋共を酷使してぶっ壊した鈴木たち。開けっ放しになった関所から悠々とペルウィーンを脱出することに成功した。


「いいいいいっヤッホー!!」

 遠ざかる関所を背に、鈴木は笑顔だ。


「いいいいい嫌やあああああああああああああ!!」

 対するギルド嬢は、両手を頬にあてて、ムンクの叫びみたいになっていた。


 火事場泥棒の時はその性格から一つのことに熱心になっていたのだが、こうしてペルウィーンの外交と守りの要である関所の扉を破壊した時から、自分のしでかしたことの重要性に気が付いたようで、ビクビクとおどおどを合わせたような反応をしている。


「わ、わた、私はなんてことに加担してしまったのでしょう、こ、これでもうペルウィーンはおしまいです」

 青ざめながらギルド嬢は呟く。


「ハン、元々内戦でほとんど終わってるようなものだったろう?」

「そ、そんなことはありません! 確かに、敵性勢力に不意を打たれましたが、ギルドが負けるはずがありません!」

 ギルド嬢が力強く言い切るが、

(でも、あのままいけばソーマさんが言ってた通りに、ジルさんが革命を成功させるんだよなぁ)

 黙って聞いていた天汰はひっそりとそう思う。


 ジルのことを知らないギルド嬢(と、黒石)に言ったところでわからないだろうからわざわざ伝えることでもないが。


 さて現在、大和(と、クラリア)が操る馬車は、ペルウィーンを囲む国壁をなぞるように馬車を走らせている。馬車のスペース的に金壺を乗せるとどうしても無理が出てくるのでクラリアは操縦席に座り、二人で馬を操ることとなった。


 鈴木の計画では、このまま壁伝いで北地区の関所周辺までいき、ペルウィーンから非難する住民が乗る馬車群に紛れて『ラナーシャ』へと向かう手筈になっている。もちろん、わざわざ北地区の関所周辺までいかなくても、馬車群の方を先に見つけられればそれに越したことはない。


「でもさ、すーさん。俺らが『アルファリエンス』への妨害をやめちゃうと、ジルさんが革命起こす未来になっちまうんじゃない?」

 天汰が問いかける。


「うーん、そこ俺も結構考えたんだけどね、まあ、あんだけジルさんらの計画狂わせればあとは何とかなるでしょう。それに、関所ぶっ壊して南地区は空きっぱなしになれば、モンスターが入ってきて内戦どころじゃなくなるはず。ここまですれば少なくとも『アルファリエンス』が革命を成功させる未来は回避できたでしょう。最悪それでも『アルファリエンス』が革命を成功させたとしても俺にはどうでもいい」


 鈴木のどうでもいいという、とんでも発言にアイリスは少しだけ目を見開く。

「あんなに頑張ってたのに、どうでもいいんですか? あるじ」


「アイリスちゃんよ、目的をはき違えちゃいけないぜ? そもそも、異世界人である俺らにとって、この国の決まった筋書きとか割とどーでもいいんだよ。そりゃ、決まった未来が外れるのは大変かもしれない、けど、ソーマみたいな特例みたいな奴を除いて、ほとんどの人にとって未来は未定なんだよ。決まっていないのに決まったルートから外れると騒いでいるのはソーマ一人なわけ。正直放っておいてもよかったんだけど、馬車を操ることしか能がない脳筋と、正直何の役にも立たない魔法使いが敵方に操られていたからそいつら助けるために参戦しただけ」


「あ。あるじ……」

「あの、すーさん?」

 鈴木はしたり顔で説明したが、この説明で鈴木はミスを犯した。


 年の割には聡明なアイリスと、友人のことでは意外と気が付く天汰はすぐに鈴木のミスに気が付く。

「ん、なんだよお前、ら……あ、そうだった」


 やっちまったという顔になる鈴木を、黒石がガン見してくる。

「すーさん、今の話ほんと? 僕、操られていたの?」

 今までに類を見ないほど、黒石は鈴木を真剣に見つめる。

 黒石には操られていたことは内緒。最初にそう決めたのは鈴木で、最初にそれを破ったのも鈴木だった。


 しばらく固まっていた鈴木だが、この場をしのぐ画期的な方法を思いつく。

「忘れろパーンチ!」

 鈴木にしては珍しい暴力的手段だった。


「痛い! ちょっと、いた、や、やめ、ヤメロッ!!」

 二発、三発と殴られると、流石の温厚派の黒石もこれにはキレる。そしてぐーで殴り返す。

「イッテ、ちょ、黒石!? ま、マジすか! いつの間にそんな力つけた――グフ、いいぜ、やってやろうじゃねーか! モヤシ系貧弱男の本気見せてやるよ!」

 まさか反撃されるとは思いもよらなかった鈴木、久々にアドレナリンが沸き上がる。


 狭い馬車のなかで突然起こった殴り合い。非戦闘員と魔法使いの肉弾戦、不毛すぎる。

「……唐突な肉体言語はNG」

 これには天汰も呆れて、肩代わりをかける気にもなれない。


「おーい、そろそろ馬車を止めるぞ!」

 外から大和の声が聞こえる。そろそろ夜になる頃だった。

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