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異世界冒険記  作者: 九重九十九
ペルウィーン国編
38/69

人をおちょくるのは楽しい

 東地区での戦いは割と楽なものだったとアイリスは思った。


 スラム街の人との戦いはまるで戦いにならず、ギルド冒険者側のワンサイドゲームのようだった。


 途中、ギルバートと大和が現れて冒険者たちをばっさばっさと倒していったのは脅威だったが、鈴木が念話でアイリスに指示を出し、地形を利用したトラップで嵌めたのが決め手となって二人とも倒すことはできた。


 最終的に動けない二人を何十人の冒険者が囲んでボコっていた。数の暴力は怖いとアイリスは幼いながらもそれを理解した。


 どうやら大和は意識改ざんの魔法が掛けられていることが分かり、数人がかりで『打消しの魔法』を掛けると、大和は意識をもどしたのだが。

 しばらく自分のしたことにショックを受けていたようだ。


「頼む、何か俺に罰を、何か免罪を!」

 と非常に面倒臭いのを拗らせてしまったので、鈴木はアイリスに腹パンを指示。

 するとダンマリに動かなくなったとアイリスから返事が返ってきたで、多分満足したのだろう。


『アイリスちゃん、アレちゃんと持ってる?』

「はい」

『じゃあそれを大和に渡しておいて』

「はい、あるじ」

『さあ、もう東地区は放っておいてもギルド側が勝つだろう。次は南地区の黒石を回収しに行くぞ』


 ・ ・ ・


 鈴木が手配した馬に揺られて、鈴木、アイリス、そして馬を操る大和が南地区へと向かっていた。馬車はもう使えなかったらしい。

 風を切る感覚は馬車では味わえないが尻が痛くなるのが嫌な鈴木は、ちょっと微妙な気分だった。

「急げ大和、ホーリィを騙し打ちするためにちょっと遠回りな道を通っているんだ。いつまで天汰が持つかわからんぞ!」

「分かってる!」

 大和は真剣な表情をして、手綱を更に強く握る。


(まー、命の保証はあるからそんなに急がなくても死にはしないんだけどねー)

 と、急かす割には余裕がある鈴木。

 目の前のアイリスに抱きつきながら今後の行動をまとめる。


(あの二人からの念話で大体の位置関係はもうわかったし、ホーリィの能力と南地区の地図を暗記してるからどの辺で狙撃しているのかもわかる。クラリアにも作戦は伝えたから……)


 鈴木はポーチから久しぶりにスマホを取り出す。電源を入れ直してカメラを起動する。

(うわ、こっちに来てからずっと電源切ってたはずなのにもう12パーセントしかない。まあ、使えるだけでも御の字か)


 ズームしてホーリィがいると思われる場所をみてみると、

「いた、あの弓もってるキザったらしいイケメンはホーリィで間違いない」

 ホーリィからして斜め後ろから鈴木たちは近付いている。もちろん、ホーリィは鈴木達に気が付いていない。


「大和、馬はここで止めて。これ以上接近すると馬の音で気が付かれる。この後の段取りはわかってるか?」


 大和は馬を止める。

「うん、大丈夫。ホーリィを俺が押さえる、弓の糸を斬れそうなら狙ってみる、でしょ?」


「パーフェクトだ。できるだけ気付かれないように接近して、ホーリィを倒すぞ。タイミングを合わせるから攻撃する時には俺に念話を使えよ」

「うん、わかった」


 そう言って大和は馬を降りる。

「行ってくる」

 大和は素早く、しかしできるだけ音を立てずにホーリィに近付いていく。


「さてアイリスちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんでしょうあるじ」


「……馬から下ろしてくれない?」

「……」

 アイリスは振り返ってジト目で鈴木を見上げた。


「そろそろ馬くらい乗り降りできるようになりましょうよ」

 その後、落馬という方法で馬から下ろされた鈴木はクラリアに念話を送る。


「クラリア? 今大丈夫?」

 すぐに返事が返ってきた。

『はい、天汰さんがうまく時間を稼いでくれています』


「もうすぐ――そうだね、あと三分くらいで状況を覆してあげるからもうちょっと待ってて」

と、クラリアに伝えた所、丁度天汰から念話が入る。


『おいすーさん! これいつまで時間稼げばいいんだよ! そろそろ割ときつくなってきたんだが!?』

「まだまだ、いま早馬で東地区に早馬で南地区に援護を向かわせろと伝えたばかりだ」


『それ到着までかなり時間かかるじゃん!!』

「うん、だから時間稼ぎをしろって言ってんじゃん」

 さも当然の事を言うように鈴木は天汰に返す。


 一瞬言葉に詰まる天汰だが、

『できるわきゃねーだろが! アホか!』

 とキレられた。解せぬ。


「出来なきゃお前らが死ぬだけだぞ。それこそ死ぬ気で頑張るか死ぬかの二択だ、まあ頑張れ、生きてまた会えたら一食くらい奢るから」

 軽口を返してあげると、『死ねッ!』と感謝の言葉をもらった。


 天汰の雰囲気が変わったことに気が付いたクラリアが鈴木に疑いをぶつける。

『鈴木さん、天汰さんに何か言いました?』


「うん? まあね、応援はまだ時間がかかるから死ぬ気で頑張れっておちょくった」

『鈴木さん、さっき私にはあと三分ほどだと言ってましたよね……』


「うん、それはほんと。いやー、天汰アイツがキレるところ初めて見たかも、いや見えてないんだけどね。何となく言いたいことは分かるでしょ?」

『それは別にいいんですけど……』

 と、歯に衣を着せたような、何か言い足りないような言い方だったが、このタイミングで大和から念話が入ってくる。


『すーさん、これ以上接近すると多分気付かれる。でも何とか不意打ちできそうな距離まで近づけた』

「おっと、大和から念話が入った。準備オッケイみたいだ」

 ひとまず大和にはそこで待つように念話を返す。


『え、大和さんってどういうことですか!?』

 クラリアが驚いたように食いついてくるが、別に言うまでのことでもないなと思って無視する。


「んじゃあ、そろそろ反撃と行きますか。んー、なんかカッコつけたいな」

『いや、カッコつけるとかそういうのは良いですから、大和さんもう救出したんですか!?』


「あ、いいフレーズ思いついた。それじゃあ正々堂々嘘騙し裏を搔かして嵌めさせていただきますか」

鈴木はドヤ顔でそう言った。


「大和、ホーリィに不意打ちを仕掛けろ。クラリア作戦通りによろしく」

指揮官気取りで鈴木は二人に指示を出す。


『了解!』

大和は素直に従ってくれたが、


『――もう! これが終わったらちゃんと説明してくださいね!』

クラリアはちょっと怒ったように念話を切った。

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