次の一手
『作戦を次の段階へ移行するよ。君達三人はそのまま南下して、一部東の地区を経由して南地区へ行ってほしい』
最終防衛ラインを無事に守りきった天汰達の脳内に、鈴木の声が響いてきた。
最終防衛ライン戦のMVPクラリアは鈴木の指示に対して少し引っ掛かる所を感じる。
「ん? 鈴木さん、そのルートはまっすぐ南に下りるのではなく西側に迂回して、つまり中央地区を通らずに南地区に行けと言うことですか?」
『そうそう。ちょっと回りくどいとは思うけど、つまりはそういうことだよ。というよりも、どうやら中央地区はこの非常事態で一切の通行を禁止したみたいだ。具体的には、全長二十メートルの城壁で囲まれている八つの入口の扉を塞いだらしい』
鈴木はギルドが手にいれた情報をそのまま天汰達へと教える。
伝達用の早馬なんかよりもずっと早い。
もっとも、ギルドではこのような不測の事態に対応するために精霊使いに分類される魔法使いを囲っていて、風精霊で言葉を伝えるという手段があるのだが、あと数分もしたら鈴木が教えた情報も風精霊が運んできてみんなの知る所となるだろう。
『まあ元々、敵さんの狙いは中央地区のハズだから、そこが自主的に守りを固めてくれたんだ。敵さんもこれくらいは予想できているとは思うけど、悪手を打たないだけこっちもやりやすい』
そう鈴木は強がる。
本当は地図上では真っ直ぐ南下した方が早く南地区へ行けるのだ。
『ギルド側はこのまま東地区の制圧に行くみたいだけど、わざわざそれに付き合う必要もない。まあ、協力体制っていう体裁を保つために誰か一人くらいは東側に行ってほしいんだけどな』
「我々三人を分けるということですか?」
クラリアの指摘は鋭い。
『まあ、そういうことだね。という訳で、アイリスちゃん、頼めるかな?』
「わたしですか」
アイリスは急に呼ばれてびっくりした。この子は話は聞くけど自分のこととして捉えられないことが多いと鈴木は気が付く。今はそれは置いておいて、アイリスと会話する。
『うん、まあちょっと考えがあってね。天汰とクラリアを黒石にぶつけたい。ギルドの情報では西地区で目撃されたみたいでさ、西地区は敵の陣地になった訳だけど、次動くとしたら多分南に行くと思うんだ。そこでうまーく天汰とクラリアを黒石にぶつけたい訳よ』
「根拠は、あるじが黒石さんが南に行くと思った根拠を教えてください」
『んー、勘。まだ敵の行動パターンが読み切れてないから何とも言い難いんだけどね、次の敵の行動は大きく分けて三つ。
ひとつは完全制覇した西に居座ること。
もひとつは北地区に戦力を集めてギルドに攻撃を仕掛けること。
最後に南地区に戦力を持っていき、南の冒険者を無力化すること。
この三つが考えられるんだけど、一つ目の居座りはメリットがないのでとりあえず候補から外れる。
二つ目の北地区攻撃だけど、今し方最終防衛ラインをこちら側が取ったので敵はこれ以上無駄な損失を招きたくはない、よってこれも候補から外れる。
で、最後、南側へ戦力を集中させて、冒険者とギルドを結び付けられないようにする。消去法と言われればそれまでなんだけど、可能性が一番あるのはコレ。
黒石はなんかAランク相当の戦力らしいから黒石が南地区に出てきてもなんら不思議ではない。でも確実とは言えないからね、リスク回避の意味合いも込めて、単騎で攻撃をひゅんひゅん避けれるし、プレゼントで火力も上がっているはずのアイリスちゃんを東地区にというわけさ』
フー疲れたと、鈴木は額をぬぐう。しかし映像で観ているわけではないので天汰たちにはこの苦労は伝わらない。
「あるじ、つまりどういうことですか?」
アイリスは眉間にしわを寄せて、小首をかしげる。鈴木の話は全く伝わらなかったらしい。
『キミねぇ、自分から説明しろと言っておいて……』
鈴木はため息をつく。
(まあアイリスは冷静な観点から物を見ることはできるが、学はないからな)
そんなものかと思いなおす。
『えっとね、敵が一番やると効率がいいのが南側の冒険者を潰すこと。俺たちはそれを邪魔するために南へいく。敵が来なかったとしても最初の目的である南の冒険者との合流ができる。これで分からなかったらもう知らん』
鈴木はできるだけわかりやすく噛み砕いた説明をアイリスに伝える。
「なるほど、理解できました」
『君が行くのは南じゃなくて東だからね?』
「わかってますよ!」
そんな感じで、天汰達は二手に分かれた。
・ ・ ・
『北地区の強襲作戦はどうやら失敗したようだ』
水晶玉を通してジルはクラブの報告を聞く。
『パワーはあるのだが、所詮はオークだったみたいだ』
そういうクラブは、しかし作戦失敗を嘆いている風ではない。
『まあこの作戦は、フロイターの作戦じゃなく私があわよくばと思って考え付いたものだ、失敗したとてフロイターの計画には響かないよ、そこは安心してくれ』
「はあ、しかしあのハーフオーク、倒されたのですか。あのパワーはオレも一目置いていたのですが」
ジルは倒されたのが意外だと思った。
あの混乱のさなか、ギルド側や冒険者側にあの場所の重要性を即座に理解して防衛に行ける戦力があったことも、フロイターの計画になかったとしても、クラブの作戦で動いた部隊を倒す実力者がいたこともジルには意外だった。
『なんでも、おかしな恰好をしている女性にやられたらしい』
「おかしな恰好?」
『冒険者の学校の制服みたいだが、こちらではみたことのないような制服だったな。銀髪の凛々しい女性だったらしい』
クラブの報告を聞いて、ジルはすぐにクラリアのことだと分かった。
「そう、ですか」
思うところはあった。天汰とクラリアのことは常に頭の片隅にあった。もしかしたら『アルファリエンス』の計画にとって躓きになりえるとも少なからず考えていた。
そして実際に、こうして『アルファリエンス』の前に障害として立ちはだかってきたのだ。
(オレも少なからず思うところはある。せめてアイツらは『クナスナイル』が討ち取る)
思考の中にいるジルにクラブは呼びかける。
『まあジル君は西の支配を盤石のものにしてから、南に進撃してくれ』
「ハイ、この後準備が整い次第、南地区の冒険者を殺しに行きます」
ジルは水晶玉の連絡を切った。




