舌先三寸口八丁
俺に考えがある。鈴木は悪い顔でそう言った。
「鈴木さん、一体どうするつもりですか」
クラリアは問う。
「まずは、ギルドを味方につける」
そう大言壮語してみせた。
・ ・ ・
ペルウィーンギルド支部副長、アイワナ・ギルスは全体像の分からぬ事件の対応に追われていた。
「あーあ、なんでこんなことしなきゃならねーんだ」
元々、いいかげんな性格と、今の地位に無理やり上げられたやるせなさから、ギルスはあまりモチベーションが高くはない。
そのくせ、ギルスの能力は無駄に高いので、ギルドはアイワナ・ギルスを手放すことができない。
「ギルスさま、ひとつ良いでしょうか」
ソバカスのギルド嬢が駆け足でギルスに寄ってくる。
「はい、なんでございましょーうーか」
「露骨に嫌そうな顔するのやめてください、ギルスさま。ええと、ギルスさまに面会が来ています」
「面会だぁ? 今の状況分かってるのか、追い返せ」
ギルスは手で追い払う仕草をする。
「それが、その、普通の人ならそうするんですけど――とにかく見てみるのが一番だと思います」
「はあ?」
ギルスには珍しく、訳が分からないといった声が出た。
仕方がないのでギルド嬢の案内に従って、問題の面会者の所に向かうことにした。
・ ・ ・
鈴木達四人はギルドの、おそらく応接間のような部屋で待たされていた。
ふかふかのソファーに座らせられている天汰はどうやら緊張しているようだ。
「お、おいすーさん、一体何をどう話したんだ」
天汰は記憶を探る。
数分前の鈴木は、ギルド登録証明書(ギルドが発行する見分証明書のこと)も持っていないと言うのに受付のギルド嬢と何か話をしていた。
その後、ギルド嬢は慌てた様子で鈴木と、鈴木に手招きされた天汰たちを応接間に通した。
「んあ? ああ」
鈴木は何か別のことを考えていたのか、聞かれた瞬間の反応が遅れた。
「うん、この状況ね。舌先三寸口八丁ってね」
少し決め顔で鈴木はそう言う。
「うん、うん?」
天汰はまた意味が分からなかったが、クラリアは(ああ、意味はわかりかねますが、またいつものように人を騙したんでしょうね)と思った。
しばらく待たされて、鈴木が二度目の紅茶のおかわりを頼もうとしたところだった。
「いや、待たせてしまいまことに申し訳ない」
ソバカスのギルド嬢と一緒に、えらそうな雰囲気の男が入ってきた。
鈴木は席を立つ。
「いえ、お忙しい所をこちらこそ申し訳ない」
「はは、なら来るなよ」
相手の男は接待顔のままそう言った。
(――は?)
これには鈴木も吃驚、驚きを隠せない。
(コイツ、エライ失礼なやっちゃわ)
完全なる『おまいう』状態だったが、当事者というのは存外気が付かないらしい。
「まあ座ってくれや」
男はそう言って鈴木達の向かい側のソファーに座る。
鈴木達も男が座った後でソファーに座る。
「ええと、実は俺、あまりの忙しさに誰が来たのかもわかっていないんだが……正直に言おうかな。お前さんら、誰だ」
不信感マックスで、男は鈴木達をみる。
「現在我々は、極秘裏に行動をしていてそうそうと名前を明かすことはできない。だが、今回この騒動について、あなた方の力を借りようとこうして訪ねてきた次第です。本来明かさない名前なので、どうかこのことは内密にお願いした」
「名前を広がらせるなと言いたいのか」
「ご理解が早くて助かります」
「よし、いいだろう。お前ら不審者の名前を広めない。ギルド支部副長の名を持って宣言しよう」
「ありがとうございます」
鈴木は腰の二挺拳銃、その一挺を銃口がこちらに向く形でテーブルに乗せる。
「我々はキリシキ・スーサンと従者のメレニー・アイリス。メレニー・テンタ。メレニー・クラリアというものです」
「これは、銃? しかし、見たことのない珍しい形だな」
「これは私の家に十挺しかない家宝の銃です。どうかこれで私達が本物だということを認めていただきたい」
「うーん」
男の方は難色を示すが、一緒に入ってきたギルド嬢は目を見開き「ああ!」と反応を示す。
「ギ、ギルスさん! この人、あのキリシキの一族ですよ! 勇者の仲間の子孫、ギルド創設に関わり、現在は極秘で世直し隊をしているという、あの! キリシキさまですよ!」
ギルド嬢は両手を縦に振って少し興奮した様子で男――ギルスに語る。
(へえ、クラリアってそんなことしてたんだ。てか、勇者の仲間の子孫ってなんだ? もうそれただの一般人じゃねーかよ!)
さて、ここに行きつくまでの鈴木の考えを教えておこう。
ソーマとの会話で(あれ、キリシキってまあまあスゴイ家なんじゃね?)と思い付き(そんな家に十挺しかない拳銃を俺は持っています)と確認し(この銃を持っているってことは、イコール付けでそいつはキリシキだと言える)と発想が生まれ(コレ、俺らは影響力があるキリシキ家だと周りを騙せるんじゃね?)と天才的な事を思いついたのだ。
受付でも今と同じように、銃を見せてキリシキだと名乗ったにすぎない、そしてここの偉い奴に極秘の話がある、とそれっぽいことを言ってギルスに取り次いでもらったのだ。
もともとのキリシキ・スフィアの世直し隊という鈴木の予想外の良い影響もあってか、話しはスンナリと通り、こうしてギルスと面会できた訳だ。
「――ああ、うん、思い出した。まさか、あのキリシキがこんな、その、なんというか、こんなにも胡散臭そうな奴だったとは思いもよりませんでした。気が付くのが遅れてしまい、誠に申し訳ない」
会釈程度に、ギルスはペコリと頭を下げる。
事実、胡散臭いというより、ギルスの直感は当たっていて、鈴木達はニセモノな訳だが。
「ええと、それで、お話は我々ギルドに協力を仰ぎたいという訳でしたね。ええ、いいですよ」
ギルスは答える。鈴木は内心でよしとガッツポーズをした。
「ただし、高みの見物をされてあれやこれや聞かれるのは面白くないです、というわけで、交換条件です。ギルド側は貴方達キリシキ側に協力をする。そのかわり、キリシキ側はギルド側に戦力提供を行う。これでどうでしょう」
ギルスは真っ直ぐ鈴木の眼を見詰めてくる。
ギルスの視線を正面から受けつつ、鈴木は考える。
(チッ、やっぱりこういう流れになったか。最高はギルドを操作して『アルファリエンス』と正面からぶつけて、その間に大和と黒石を助けることが作戦だったんだが、まあ、そうだな。考えるうちに二番目くらいに良い結果だということにしよう。もうこれは戦闘バカ共に祈るしかない)
そんな運否天賦に祈るような気持ちで鈴木は口を開く。
「ええ、それは当然です。我々も『最初から』そう言おうと思っていました。持ちつ持たれつの平等な関係としてギルドにこの話を持ちかけたのですから」
鈴木の発言にギルスは眉をひそめたが、その隣のギルド嬢の黄色い声に対しての反応だったのかもしれない。
「キャー! キリシキさまステキ!」
「いやなに、当然のことを言っているまでの話です。それでは、こちらからは私の従者三人を戦場に出しましょう」
「おや、スーサンさんは戦わないので?」
ギルスのもっともな質問に実は鈴木、答えを前もって考えてきてある。
「ええ、実を言うと、私は戦いはからっきしなのです。大層にこんなもの持ち歩いていますが、実はまだ一度も撃った試しはないんですよ」
ハハハと、痛い所を突かれたと、露骨な親しみやすさを植え付ける。正直、こんなところで戦えると嘘をついていざ戦場に連れて行かれて大怪我をするなんてシャレにならない。
ソーマは運命が守っているなんて言ったが、それは『死ぬことはない』だけであって、おそらく『怪我をしない』ということではないだろう。
それに、嘘というものは大きな嘘の中に小さな真実を入れた方が本当のようにみえるのだ。
「ははー、その腰のものはただのお飾りという訳なんですな」
(――イラッ☆)
ギルスの一言一言が的確に鈴木をムカつかせる。多分とぼけた顔をしているギルスに自覚はないのだろう。
(落ち着け、落ち付こう。こんなところでボロを出す訳にはいかない。こんなのはまだゲームでいうとセーブデータのロードみたいなもんんだ。読み込みが長いだけでイライラするな俺)
そう自分に言い聞かせる鈴木。
かくして、『(偽)キリシキ一行』とギルドの協力が約束された。
解説のコーナー!
今回サブタイにもなって、鈴木が言っていた言葉『舌先三寸口八丁』について、
まあこんな言葉はなく、造語なんですが、まずは元となった言葉を見てみましょう。
舌先三寸
口先で相手をあしらうこと。言いくるめたり、煙にまいたりすること。
口八丁
口が達者なこと、そんな感じの人のこと。
で、それを合わせた造語が『舌先三寸口八丁』となります。意味は、まあ、口が達者で、騙したり、煙にまいたり嘘をつくのが上手い、みたいなところですかね?
考えるな、ニュアンスで感じろ。の方向でお願いします。
ではこれからも異世界冒険記をよろしくお願いします。




