見抜き
スラム街の、他の家からある程度離れていて、尚且つ一人暮らしの家で、鈴木、天汰、クラリア、アイリスの四人は偶然的に合流していた。
かたや強襲して、かたや堂々と不法侵入と言い切って、とにかくこうして合流できた訳だ。
「はー、ジルさんがお前らをねぇ」
鈴木とアイリスは、まず天汰たちが何でこんなところにいるのかを聞いた。
「正しくは、ジルさんが狙ったのはクラリアさんの十手だけどね」
と、天汰が注意する。
「つーか、その十手そんなスゴイ能力持ってたんだ、全然気付かなかった」
「一応、前の国でも使っていますよ。ほら、一緒に適性試験受けたじゃないですか、あの時に弓の男が魔法を使ったのでそれを打ち消しています。ですよね天汰さん」
クラリアは天汰に相槌を求めるが、
「俺、あの時は周りを見る余裕なんてなかったからな。全然気が付かなかった」
だそうだ。
「ふうん、まあ、ジルさんがその特異な十手のために女子高生に襲い掛かったのは分かった。じゃあ次の話題」
鈴木は忘れ去られたように佇むこの家の家主の方を向く。
「そんで、おっさんはさっき何を嘘ついて知らないって言ってた訳? 嘘つくならもうちょっと平常心でつかなきゃすぐバレるよ」
鈴木に言われて家主のオッサンは体をビクつかせる。
「な、何のことですか」
「天汰、俺が来る前このオッサンに何を聞こうとしてた訳?」
「えっと、クラリアさんが街の雰囲気が少しおかしいっていうから、何か変わったことはないかって聞いていた所」
「クラリアさんが? ほう、なるほど」
鈴木は感心したようにうんうんと頷く。
(違和感を感じていたのは俺だけじゃなかった訳か、んで情報収集までしていたと。戦闘も探索もできる万能キャラだなクラリアさんは)
鈴木は自分の中のクラリアの評価を上方修正しておく。
(クラリアの探索能力をみたいけど、まー今回は手っ取り早く俺が聞きだすか、他の人からある程度聞き込みしているから嘘の合否もザックリわかるしな)
鈴木はオッサンに見えるようにニヤリと嗤う。
「さーて、じゃあオッサン、知ってること洗いざらい話してもらうぜ」
「知らない! 俺は何にも知らない!」
「嘘はよくないなぁ、さっきも言っただろう? 嘘を吐くときは平常心、もっと言えば呼吸を整え、視線を逸らさずにってね。もう一度聞こうか、何を知っている?」
敢えて指摘して、呼吸や視線をオッサンに意識させる。オッサンは呼吸を整えて視線を鈴木に真っ直ぐ向けようとするが、意識した途端にそれが自然な感じでできなくなる。
「これ以上嘘を吐くとアレだ、アイリスちゃん」
「はい」
「俺が合図したら、そこの壁を全力で蹴り飛ばしてみて」
「え、でも……」
「いいから、いいから」
何か言いたげなアイリスを制し、鈴木は再びオッサンへと振り向く。
「さぁて、一人暮らして尚且つ近くには他の家もない例えば叫んでも助けが来ることはない非常に残念な所に住んでいるオッサンよ、もう一度聞こうか。ああ、言い忘れてたけど、人体の一番痛みを感じる所って顔らしいね、あんまりだんめりだと、分かってるよね?」
かくして、四人はこの家の家主から『アルファリエンス』の計画の一部を聞くことができたのだが……。
・ ・ ・
スラムでは最近、おかしな動きがあった。
ルールなしがここのルール。
いつもどこかで自分の為の理屈と自分の為の動機で自分しか得をしないようなことをする人達の集まりがここ東部方面、通称スラム街だ。
だが、ここ最近のスラム街は、どういう訳か息をひそめるように静かだった。
「だけど、それも今日までだな。フロイター、お前がどこまで読んでいたのかは知らないが、丁度ジル達が帰ってきたぞ。しかも勝手にやり始める始末だ」
部屋で独り言を言うのはクラブだ。
彼はこのスラムの中心人物であり、ここしばらくスラムの住人に対して『行動を自重するように』と通達した人物だ。
「これがお前の筋書き通りなら、スラムの住人も参加せざるを得ないだろうな」
・ ・ ・
「――『アルファリエンス』、今回北と西東の根回ししてた組織――最悪だ、これ普通に下手したら死にそう。俺一抜けた」
オッサンから聞き出せた計画はこうだ。
まず、『アルファリエンス』という組織が主軸となって制圧状態の東と西、そして北のギルドに奇襲を仕掛ける。スラム街の人はその混乱に乗じて北と南つまりギルド制圧の支援と南の冒険者の街の制圧を担当するらしい。
完全なる下剋上、その成功のための布石も打ってあるときた。
鈴木の気分としては、知らぬ間に地雷原に足を踏み入れていたようなそんな気分だ。
(わたしは最初にあるじの身に余ると言ってましたし)
と、一人だけそんなどうでもいいことで少し得意げになっている幼女もいたが、鈴木はアイリスの頭をなでるだけで特に何の反応もしない。
「目的は――天汰、確かジルさんは体制とか腐敗とか言ってたんだよな」
「え、うん。確かにそう言ってた」
「て、ことは、それにこの布陣なら……まさかな、そんな無謀な事しないだろう」
「なんですか鈴木さん、何か分かったんですか」
クラリアが聞く。
「――最初に言っておくけど、これは俺が勝手に想像したもので、実際の『アルファリエンス』が俺の言ったように動くか分からない、俺の言ってることは全部的外れで、『ナニ言ってるだコイツ』状態になるかもしれないっていう前置きをしておくぞ」
「お、おう、保身はいいから早く分かった事話せよ」
天汰が急かす。
「まず、大前提に今回の敵組織『アルファリエンス』があるが、多分敵はこいつだけじゃなくあと二勢力。スラム街と『クナスナイル』だ」
「え、でも」
「ストップ、質問は今は受け付けない。ややこしくなるからね。話をつづけるよ」
鈴木は脳内で話を組み立てつつどういう順番で説明するかを考える。
「多分、『クナスナイル』だけど、元々ここの国の出身なんだよ。これは絶対だ、だってジルさん達が話しているのを盗み聞きしたもん」
クラリアはいつぞやの『クナスナイル、全員の秘密ノート製作作戦』を思い出す。
(アレ、役に立つんですね)
「クナスナイルは多分『アルファリエンス』と近しい組織だったはず、もしかしたら元は一緒の組織だったのかも。何の理由で『クナスナイル』がキャラバンしてるのかまでは憶測でしか語れないけど、これは多分いろんな国を見るためじゃないかな。はい、そして話は天汰達が襲われた所に飛びます」
ビシッと天汰とクラリアに対して指を向ける。
「あるじ、人に指ささない」
無視して、
「さて、いろんな国を見てきたジルさんは、故郷に帰ってきて何を思ったか。現状の体制を維持すれば近いうちにこのナンチャラ連合国は――」
「クロウ連合共和国」
「それそれ、さすがアイリスちゃん。えー、現状の体制を維持すれば、近いうちにこのクロウ連合共和国はギルドに乗っ取られるだろうな。そして、タイミングがよかったのか悪かったのか偶然か必然か、『アルファリエンス』の計画が始まろうとしている時にちょうど『クナスナイル』は帰ってきた訳だよ。そうなれば当然『クナスナイル』は『アルファリエンス』の手伝いをしたくなる訳ですよ。その結果が十手の件」
「成る程、ジルさん、あの裏では色々と思う所もあったのですね」
クラリアは神妙な表情をする。
「よし次、この『アルファリエンス』の計画と目的について。多分この計画は何重もの段階を踏んでいくものなんだと俺は思う。第一段階はもうすでに終わっている。クラリアさんが気が付いた街の雰囲気、武力が出る前の下準備として各街を金と圧力で制圧した。そしてこれからが第二段階、そこのオッサンがゲロったように、『明日の早朝からギルドと冒険者の南の街を攻める』こと」
「なんだか、話しがどんどん大きくなってきたぞ、コレ俺らの手の内で解決できるのか?」
天汰の心配を聞こえないふりをして鈴木は解説を続ける。
「そして計画の第三段階。中央の街を孤立させて、交渉させる。内容はたぶん、真の独立とかギルドの排斥とかそんなんだろう。そして晴れてペルウィーンはギルドの手から抜け出すことができる訳だ。で、あるかどうか分からないけど、多分ある第四段階。これを起点に、この流れをクロウ連合共和国全体でやるつもりだ」
「それってつまり、クロウ連合共和国からギルドを撤退させるってことですか」
「はいそうです。かくしてクロウ連合共和国はギルドの傀儡国になることはなく平和に暮らせそうですめでたしめでたし、というのが『アルファリエンス』側の考え。正確には私が思う『アルファリエンス』の考えな。あー、三か月分の脳ミソ使った。オッサン、なんか甘いものある?」
「もうオッサンのライフはゼロだから勘弁してやれ。でもこれ、もしこれすーさんの言った通りで進んだら、そうとうやばいんじゃない?」
「ヤバイな、こんな計画が成功するとか思っている辺りちゃんちゃらおかしいな。アイリスちゃんこの家ガサ入れしてなにか甘いもの持ってきて」
「砂糖でも持ってくればいいですか」
「我、菓子を所望する」
「ウチにそんなものは在りませんでぇ!」
オッサンが叫ぶ。
「うーむ、これはどうやら嘘じゃないみたいだ。まじか、残念」
「すーさん、もうちょっと緊張感とうよ」
「大丈夫、とりあえず今日の朝、『アルファリエンス』の作戦が始まる前に中央の街かギルドにでも避難しておけば助かると思うよ」
「まあ、すーさんがそういうんなら」
天汰は引き下がる。
が、しかし、この後天汰たちは嫌でもこの戦いに参加する理由を見つけることになる。
次の話から少し更新遅くなるかもしれません




