デレ期?
「あれだけやるなと言われたことでも、あるじはお構いなしにやるんですね」
アイリスは半目で鈴木を見上げる。
「そんなに褒めるなって、照れるだろう?」
「褒めてません」
鈴木は、クランがあれほど何もするなと言っていたのに、普通に抜け出して、市場を散策していた。
「それ言っちゃうと、アイリスちゃんだって抜け出してるじゃない」
「わたしはあるじの、その、ど……アレですから、というか、また勝手に危険な所に行かれたら困るので、監視兼護衛というところです」
「つまり、『あなたのいる場所が、私の居場所』状態だな」
「――そういうことですけど、言い方が非常にイラつきます」
「イライラ? 生理来てないの?」
「そもそもまだです!!」
「ほほう」
「あっ!」
つい勢いに任せて答えてしまったことをアイリスは恥じる。
「屈辱です」
「はっはっは、そう恥ずかしがりなさんな。ますますアイリスちゃんが好きになったぜ」
「失礼ですがあるじ、死んでもらいません?」
「照れ隠し可愛いうっひょう!」
「――もういいです」
限界まで顔が火照る、この恥ずかしい状況をアイリスは丸投げにするという方法を取って解決手段とした。鈴木もずっといじるのはかわいそうだと思ったのでこれ以上はもういじらない。
「それにしても、この町はなんだかピリピリしてるね」
鈴木は街の、市場の様子を見ながら次の話題を投げる。
「ピリピリ、ですか?」
道行く人も、露店を営んでいる人も、なんというか、周りを警戒しているような、どこか不安げな表情をしている。焦っているのかもしれない。どうしようもない焦燥感。
「うん、なんて言うか、受験一週間前の雰囲気に似ている」
「じゅけん?」
「えー、あー、試験前日みたいな」
「ああ、ギルドのスキル認定試験のことですか?」
「え、この世界そんなのあるの? 筆記試験は全国、国? 全異世界か。筆記試験は全異世界共通なんですかねぇ」
こんな世界に来てまで『試験』なんて言葉を聞くとは思っていなかった鈴木は、少々うんざりする。
まあ、ギルドでは、ランク決めの適性試験、スキル認定試験、ランクの昇進試験、クラスの変更・追加認定試験、と、冒険者だけでもこれだけの試験があったりするのだが、冒険者でもない鈴木には知る由もない。
「まーそんな試験のことは俺は知らないけど、多分そんな感じ。なんかこの雰囲気、どうもキナ臭いと思わない?」
鈴木は頭はからっぽだが、それを補うためか雰囲気や人の心理を読む能力が人よりあるほうだ(もっとも、雰囲気を読んでも、空気を読むかは話が別だが)。
「たとえ、この国で何かあったとしても、あるじかそれに関わるとろくなことにならないと思いますし、そもそもあるじの身に余ると思います」
「アイリスちゃん、ずいぶんとはっきりとものを言うね、あるじちょっとびっくり」
自分の奴隷から、『関わるなろくなことにならない』という旨を伝えられ、鈴木は少しビックリする。まさかそんなにハッキリと言われるとは思いもよらなかった。
「――ですが、あるじがどうしようが、わたしはあるじについて行くだけですけど」
と、照れ隠しのように顔を背けてそんなことを言うアイリス。
(デレ期きたな)
内心そんなことを思いつつ、ではと鈴木は提案する。
「まずは情報収集からだね。前の国でもなんか闇抱えてたところあったし、この国もうす暗い部分あるでしょ、まずはそこに聞き込みにいこうか」
「はい」
・ ・ ・
広い屋敷の一室。
恰幅のいい葉巻を吸っているオヤジが、机で資料を読んでいたところだった。コンコンとドアをノックする音が響く。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのはまだ若い青年だった。身なりはやや汚い感じで、使いパシリの青年だとオヤジは分かる。
「ランチア様、報告します。東部方面の制圧はほとんど完了しています。まだ、散発的に抵抗がありますが、それが収まるのも時間の問題かと」
「わかった。引き続き東部方面のことはクラブに任せる。そう伝えてくれ」
ランチアと呼ばれたオヤジはそういって、机の引き出しから硬貨を一枚、青年に投げてよこした。
「ありがとうございます」
青年の足元に落ちた硬貨を、お礼を述べてから青年は拾い、退室する。
「失礼しました」
バタン。
「これでペルウィーンの半分を制圧したことになるのか」
ランチアは葉巻を深く吸う。
「我々『アルファリエンス』も力を付けてきた、ということか。フロイターの筋書き通りだな」
ペルウィーン。
この国は今、ちょっとした問題を抱えていた。
それは、端的に言うと内戦、いや、内戦直前といったところか。
現在のペルウィーンは、というよりも、連合国に存在する国がどこも似たようなものなのだが、連合国という特性上、互いが互いを牽制しあうようになるのは当然と言える。それは、レナントロジーが国兵を持てないように、どこの国も、他の国に大きな力を持たせたくはないのだ。そう考えるのは当然と言えよう。
そうなると、自国の防衛をどうするかという問題が出てくる。しかしそれはほとんど問題は無かった。
ギルドと冒険者だ。
現在のギルドは、連合国――クロウ連合共和国だけでなく、トリセイン王国や、セイスタン帝国にも大きく広がっており、巨大な力を持っている。
連合国の現状が互いを牽制しあっているような状況なので、巨大な力を持つギルドが連合国の各国に滞在して、モンスターの脅威や、国の中での揉め事を解決しているのが連合国の現状だ。
いうなれば、連合国はギルドなしでは存在しえないといっても過言ではない。
しかしそうなるとどういうことが起きるのか。
そう遠くないうちにギルドは連合国を、ギルド側が意図しなくても乗っ取るような形になってしまう。
もっと言えば、ギルドは、連合国を管理しやすいように連合国という体制自体を変えようとしだすかもしれない。
それはもうクロウ連合共和国ではない、ギルドに支配されたギルドの本拠地、ギルド国といえるものになるだろう。
これはそう遠くない未来、起きうる話だ。しかし、だから何ができるという訳でもない。
小さな国々は、連合国という枠組みの中で互いを牽制しあい続けるだろう、それがギルドに力を付けさせると分かっていながら、他の道はないと探そうともしないままに。
だが、そうなったらどうなるか。
ギルド主体の国家運営になると、力あるものが上にという、実力主義社会になってしまう。
連合国では、共有と助け合いという共有主義国だ。何の因果か隣国とは手を取れないが、皆が自分の国の人を愛し、助け合うとしていた。
さて、ペルウィーンでは今までの話すべてに気が付いた人がいた。
カルネバス・フロイターという青年だ。
彼は、現状を変えるために行動を起こす、革命家になった。その為に『アルファリエンス』という組織を作った。
現体制をよしとしながら、しかしこのままでは確実に終わりが来るのは必至。ならば、変えるしかないと。
それが、現在のペルウィーンで起きている事なのだが、その事は入国して間もないクナスナイルの異世界組には、まだ知る由もない。




