仲間
ペルウィーンは大きく分けて五つのブロックに分けられる。
ひとつは北側、ギルドや商店などがあって、一番賑わいがあるところだ。
東側はスラム街、荒れくれ者が跋扈する所。非合法な麻薬や奴隷の売買がある闇市場もある。
南側は主に冒険者の住まいがある、ペルウィーンの冒険者の七割が南側に居を構える。モンスターの襲撃が一番強いのは連合国の中心国から離れた位置にある南側だから、有事の際にすぐに対応できるようにギルド側が南側に住むよう冒険者に進めたのだ。
西側は普通の農民なんかが暮らしている。南側に住まない冒険者もこちらに住んでいることが多い。特に特徴がない方面で、その分土地だけは多いのだ。
そして中央、ここは国の代表者、政治家、貴族などが多く住まう。もしモンスターの襲撃があった際に、最初に狙われない中心街を選んで住む人が多く、自然とこうなったのだ。
そして鈴木は、西側にある街にある、賭博施設で遊んでいた。
「はいロン、リーチ一発、ピンフと裏が二つでこれいくらになるんだっけ?」
「はあああ! 何でそんなところで待ってるんだ! 捨て牌的にコレを捨ててるんだからこの待ちはおかしいだろう!」
下家に座る親父が怒声を上げるが、
「でも事実、これでオッサン振り込んだでしょ? このゲーム、最初は相手をいかに勝負から下ろすゲームだと思ってたけど、俺の知ってる麻雀じゃなかったんだ。これはいかに相手を騙して誘導して振り込ませるゲームなんだよ」
鈴木はこれまで捨て牌で誘導したり、打ち方を変えたり、相手の表情や自分の表情を複雑に読んで利用してほとんど奇襲のような打ち方で勝ってきた。
(イカサマはやってないし、この麻雀みたいなゲームは簡単だな。まだ稼ぎたいけど、ここらが潮時だな)
鈴木風にいうと、簡易麻雀、本来の麻雀のルールよりもいくらか易しめなルールの上、表情で相手を誘導するようなことがチョンボ(反則)にならないというものだった。
「くっそー、もう一回だ!」
「悪いなオッサン、そろそろ俺は戻らないといけない。また明日も来てやるから、その時はまた毟らせてもらうぜ」
「口の悪いクソガキだ、いいだろう。明日こそお前に吠え面かかせてやるよ」
「言うねぇオッサン、明日が俄然楽しみだよ。さて、アイリスちゃん、早く戻らないとジルさんが怒っている。早く戻らねばいけないね」
「はい、あるじ、早く戻りましょう」
鈴木の後ろで見ていたアイリスは、鈴木の声掛けに合わせる。
「んじゃオッサン、また明日な。あ、これどこで換金してもらえるのかだけ教えてもらっていい?」
「ああ? 出口でしてもらえるよ。帰るのならさっさと帰りやがれ」
オッサンはシッシと手を払う。
「へいへい。行こうかアイリスちゃん」
「はい」
鈴木は、集めた点棒を持って出口に向かう。
出口のフロントにいた男に、
「ここは楽しいな、だいぶスられたけど、また明日も来たくなったよ。ああ、換金をお願い」
と点棒を差し出す。
「確認させていただきます」
男は常務的に点棒を受け取り、計算を始める。
「この国には初めて来たんだけどさ、なんかこう、雰囲気がピリピリしてるんだよ。さすがにうんざりしてこうして遊びに来たんだけど、あれなんなのかな?」
「――お客様は外からいらしたのですか。なら、タイミングが悪い時に来られましたね」
「お? 何々、教えて」
「今この国には内戦が起きようとしてます」
「ふん、それは穏やかじゃないな」
「ええ、なんでも革命家を名乗る男が活動してまして、東のスラム街はほとんど完全に、北とここ西の街も徐々に制圧されていっています」
「制圧? それまた物騒な」
「まだ武力行使はしていませんよ、表立ってはね。スラム街は金で、ここと北は圧力で。ここももうすぐまともに商売できるか分からない状況になるよ」
男のここというのは、この店のことか、それとも周辺のことかは分からなかったが、もうすぐ西側のこの街も制圧されるのだろうと分かった。
(なーんかピリピリしてると思ったら、これか。もっと詳しく知りたいけど怪しまれるとアレだしな)
「へー、明日ここに来るのは考え直した方がいいかい?」
「それを俺に聞くんですか。商売人としては来てほしいとは言いますけど、いつ武力行使に巻き込まれるか分からないのは事実です、とだけ言っておきましょう」
「あんたいい人だな。明日も来てやるよ」
「恐縮です」
男はそういって、小さな布袋二つを鈴木に手渡す。
「はいありがとう」
「またのお越しをお待ちしております」
鈴木たちは店を出た。
「よしアイリスちゃん、次の街に行こうか、今度は南側に行ってみようか」
「……本当に真面目に情報収集するなんて、ちょっと意外でした」
「以外でも何でもないでしょ、俺凄く真面目だし」
「それは冗談で言ってますよね?」
クスリともせずに、アイリスはジト目で言った。
「は、とっても哀しい」
鈴木達はまず、北から西の街に移動した。鈴木のいうピリピリした空気が北側だけなのかを確かめるためだ。
結果を言うと西側もピリピリしていた。そこで情報収集として賭博施設に足を踏み入れた。いろんな人が立ち寄る場所なら情報を持っている人もいるだろうという鈴木の読みだ。
そこでちゃっかりとお金を稼いだのはご愛嬌。
「ああそうだ、ほいアイリスちゃん」
「――これ、どういう意味ですか」
鈴木は今し方もらった袋をアイリスに投げ渡す。
「俺、実はこの世界のお金まったく分からないんだよ」
「それは知っています」
「あ、知ってるのね。んまあ、俺が持ってるよりも、価値の分かる人が持ってた方がいいだろうという判断だよ」
「はあ、あるじがそういうなら……」
アイリスは小袋を懐にしまう。
「それじゃ次の街に行ってみようか」
・ ・ ・
天汰達は結局更新だけしてギルドを後にした。
短期間の依頼とやらもジルが確認してやらないと決めたようで、結局更新だけということになった。その帰り道のことだ。
「妙ですね」
馬車二台のうち、一台はジル、ゲーシック、ギルバート、そして影の薄いリケルの四人が。もう一台の方に天汰、大和、クラリアの三人が乗っている。
それぞれジルと大和が馬を操っていた。
そんな中、クラリアが口を開く。
「この街の雰囲気、少しおかしくないですか?」
「え、なんのこと?」
向かい側に座る天汰は、意味が分からない。
「いえ、もしかしたら私の気のせいなのかもしれませんが、街の雰囲気というか、その、皆どこかそわそわしているというか」
「ごめん、俺が悪いのかもしれないけど全然分かんない」
「すいません、私もうまく伝えられないのでなんといえばいいのか分からないのですが、例えるなら学生戦争の時のような雰囲気に似てて」
「学生戦争!?」
「あ、えっと、私の体験した、四校の学生たちが行った盛大な喧嘩みたいなものです」
「キミん所の世界とことん物騒だね!」
天汰は、前にクラリアが粛正とか言っていたのも頷けると思った。
「いつ殴り合いが起きるかわからない、そんな雰囲気です」
クラリアは外の様子を窺う。
不安そうな、どこか心配しているような顔、何かに怯え、逃げ出したそうな顔。
「スラム街でもないのに、こんな顔をしている人が多いのは少しおかしい気がします」
「まあ、言われてみたらそうなのかも」
「後で、ジルさんに自由時間をもらいます。そこで、調査をしてみようと思います」
「あ、俺も手伝おうか?」
「ありがとうございます、初めての場所なのでやっぱり一人は少し不安でした。そう言ってもらえると助かります」
「いいって、俺達仲間だもん」
「仲間ですか……そうですね、私達はもう仲間ですよね」
「そうそう、仲間仲間、群れるのはあまり好きじゃないけど、こういうことは助け合わなきゃ」
天汰は笑顔でクラリアに笑いかける。
・ ・ ・
「仲間? んー、どっちかってーと、利用できるからクナスナイルにいるだけなんだよな俺は」
鈴木はアイリスに言う。
「はあ、そうですか」
「あ、アイリスちゃんはちゃんと仲間意識はあるよ、俺の奴隷だし」
「その最後の一言がなければわたしはあるじのことを純粋にステキだと思ったのに」
アイリスはやっぱりジト目で言う。
「性格だからね、仕方ないね」
「しかし、クナスナイルの皆さんは利用できるから一緒にいると言ってましたけど、天汰さんとかもそうなんですか?」
「まさか、アレは別枠。アイリスちゃんは俺のことを血も涙もない冷血野郎かなにかと勘違いしてない?」
「違ったんですか?」
「おおっと、愛しい奴隷ちゃんにそんなことを言われるとは、なんか興奮しそう。まあそれは置いといて、天汰たちは普通に友達だろ、まあ戦闘力もあって利用価値があるのは認めるがな。んー、後はそうだな、クラリアもまあ友達でいいか。他は全員他人だよ」
「他人ですか。同じ釜のご飯を食べる人たちが他人だったとは、わたし知りませんでした」
「いやいや、そんなに皮肉らないでよ、一年間同じクラスの奴だって翌年クラス替えがあればその後一言も話さないような奴だってごまんといるぜ?」
「でも、他人はいいすぎです」
「じゃあ他人以上でもなんでもいいよ。でももし俺が困った時にそいつらは全てをなげうってでも俺を助けてくれるか? ないだろ」
「それはあるじの普段の行いが――」
「シャラップ! 揚げ足を取らない」
鈴木はアイリスを黙らせる。
「まあとにかくだ、味方ずらしている奴を全員容易に信用するなって話だ。最近じゃ黒石も俺のことを少し疎ましく思っているはずだ、この世界以前の仲なのにだぞ、近いうちに認識を変える必要があるけどそれはまあいい。とにかく、仲間だと思っていた奴から裏切られたーってなことになりたくなければ、むやみやたらに信用するな。アイリス、奴隷がやさしくされてうれしくなるのはわかる、だが、信用する相手を選べ。以上」
鈴木はアイリス『ちゃん』と茶化さず、真剣に言った。
「――考えておきます」
「はー、まぁ、誰が何をどう考えるかなんて自由だよ、俺の言葉を真剣に受け止めるな、頭の片隅にでもとどめて『ああ、こんな考え方もあるんだ』くらいに思えばいい」
「……」
「さて、そろそろ南の街につきそうじゃないか?」
「そうですね、さっそく、情報収集をしましょう」
鈴木達は南側の街に入った。
インフルにかかりました




