ペルウィーン
ジル率いるクナスナイルは、レナントロジーのからフロミー草原を抜けて、目的地の『ペルウィーン』へと到着していた。
長い入国手続きを済ませて、エルフ兄弟と黒石は泊まるためのホテルを取りに。ジルと前線で戦う冒険者たちはギルドへ更新に。残ったクラン達乗組員は市場へと商品を売りに出かけた。鈴木はというと、ジル達が逃がさないようにギルドへ一緒に連行しようと厳重に監視をしていたのだが、結局そこから逃げ出して、荷物箱の中に隠れてクラン達と市場に来ていた。もちろん、アイリスも一緒だ。
「今頃ジルさん、顔真っ赤にしてると思うぜ。ハハハ」
鈴木は愉快そうに笑う。
「それ分かってて敢えてジルさんの所から逃げ出すあたり流石だと言えます」
アイリスは半分閉じたようなジト目で鈴木を褒めながら貶す。
「それ分かっててついてきてくれるアイリスちゃんマジ鬼畜」
対する鈴木は心からの言葉をアイリスに送る。
「お前ら! 絶対何もするなよ! 絶ッ対何もすんなよォ!」
クランは必至の形相で鈴木達に叫ぶ。
クランは鈴木達が潜んでいるのを偶然見つけると、瞬時に何が起きたのか、そしてこのまま鈴木を放置しておいたら受ける最大の損害をクランは理解できる。できてしまう。
「なあアイリスちゃん、押すな押すなの法則じゃないかこれ」
「その法則は知りませんが、多分違うと思います」
「そっかー」
「頼むから! ほんとに何もするなよぉ!」
ちょっと泣き目が入っている。なんだか可哀想になってきた鈴木は、だけど自重するという選択肢は、在り得ないなと思った。
・ ・ ・
「ペルウィーン、ギルド支部へようこそー!」
ペルウィーンの受付を行うギルド嬢は、元気にジル達冒険者組を迎え入れた。
茶色の三つ編みとソバカスが特徴のギルド嬢は、ジル達の雰囲気がおかしいことに気が付く。
集団で来たジル達だが、ジルを中心として入ってきたのだが、ジルがひたすらイライラしているのが雰囲気で分かる。そして周りにいる人たち(天汰や大和達)が気まずそうにしているのを。
それは、直前に鈴木を取り逃がしたことに相当するのだが、それはギルド嬢には知る由もない。
「あ、あはは……」
ギルド嬢は愛想笑いをしまったが、ジルは気にせずに書類を受け付けのギルド嬢へと渡す。
「更新と、短期で出来そうな依頼のリストアップを頼む」
「あっ、はい。ええと、『クナスナイル』さんですね。更新とリスト製作に少々時間がかかります。えと、あちらの席でお待ちください」
ギルド嬢は、奥のテーブル席を示す。
「アァ、お前ら、行くぞ」
「は、はい」
ゾロゾロとジルについて行く一団をみて、アリの行列みたいだなとギルド嬢は思ってしまった。
ジルについて行く天汰は、周りの様子を見てこう思う。
(人、少ないな)
以前のレナントロジーでは、国の規模こそ小さかった(らしい)のだが、ギルドにはまだ人がたくさんいたような気がした。
ここはレナントロジーと比べると、半分以下くらいの人しかいない。
何故だろうと考えて、答えは意外とすぐに思いついた。
(ああ、そうか、そういえば前にアイリスちゃんが言ってたな。連合国の中心側にある国に比べて、外側の国はモンスターが強いって。そして冒険者には自分の大体のレベルが分かるランク制度が確かあったはず、上位ランクになればなるほど人数は少なくなって、ピラミット型になってるハズ。そうだとしたら、このペルウィーンに釣りあうランクの冒険者がレナントロジーと比べてだいぶ少ないってことになるのか)
天汰の考えは当たっていた。レナントロジーをフロミー草原を挟んで隣り国になるペルウィーンだが、モンスターの質はかなり上がっている。
ヤンガータルやワルフーリスにしたって、草原のレナントロジー側とペルウィーン側とでは大分手強さが違ってきている。前線で戦ってきた天汰はそれを肌で感じてきた。ギルドに来ている冒険者が少ない理由が分かったのは、案外それのおかげかもしれない。
分かったところで、別にどうということでもない。
天汰はイライラしているジルを目端にとらえながら、暇な時間をぼーっと過ごしていた。
・ ・ ・
黒石はエルフの兄妹、ホーリィとニーナ達と泊まりのホテルを取りに来ていた。来ていたと思っていた、そのはずだった。
(この人は――何者なんだろうか)
黒石は内心で思う。
時間のかかる入国を済ませて、ニーナからホテルを取りに行くと言われたのは別にいい。二人ではなくニーナの兄のホーリィも一緒なのは別に問題ではないし、その後のホテル予約も上々、うまくいった。ここまでは何も問題はない。その後、黒石は『ホテルで待機』、『ギルド組と合流』、『市場組と合流、もしくは買い物』のどれかだと思っていたし、実際ホテルを予約した後にホテルから出て行ったので合流か買い物かだと思っていた。
しかし、二人についてゆくが、どんどん人気のないというか、活気のない、いわゆるスラム街といわれるような所になっていくのを見て、流石におかしいと思い始める。
「あの、ニーナさん」
「何かしら?」
「ここ、その、大丈夫なんですか?」
黒石は愛想笑いをうかべながらニーナに聞く。主語がない辺りから、黒石の内心の焦りが出ていることがうかがえる。
「心配しないで、何かがあっても私や兄がアナタを守るから」
(何かがあるんですかっ!?)
そう思ったが、黒石の性格では実際に言うのは躊躇われた。元々流されやすい性格の黒石は、イヤだな、おかしいなと思ったものの、口には出さずに二人の後をついてスラム街を歩く。
時々、虚ろな目をして地面に座っている人や、血走った眼をしてこちらを睨む人がいたが。エルフ兄妹は全く気に掛けない。
一度、禿げ頭の三十代くらいの男が、奇声とナイフを上げて襲い掛かってきたが、ホーリィがあっさりと気絶させた。それ以外は特に危険らしい危険は無かった。
そんなことがありながら、四十分ほど歩き続けた。
「――ここだ」
数時間ぶりにホーリィが口を開き、ある建物の前で立ち止まる。
(ホテル?)
と黒石は思ったが、規模が小さい民宿という感じだ。そしてそもそも民宿でもない。
「入るぞ」
ホーリィは後ろの二人にそう言って、建物の扉を開けた。
中は、板張りの床にテーブルが三つ。いずれもガラのいいとは言えない人たちが座ってそれぞれ話し合っている。ホーリィ達が入ったことで、注目を浴びたが、皆はすぐに仲間との会話に戻った。
しかしその中で一人だけ、ホーリィ達に親しげな笑みを浮かべてやってくる人がいた。
「ホーリィ、それにニーナも。久しぶりだな」
「クラブさん、ご無沙汰しております」
ニーナも親しげに挨拶を返す。ホーリィも、無言だが表情は柔らかい。
クラブという鼻下に髭を持つおじさんは、黒石の方を見ると、
「して、そちらの少年は?」
と問うた。
「あ、えと、黒石真心太といいます」
「クラブさん、実は折り入って知っておいてほしいことが……」
黒石の自己紹介も早々に、ニーナがそう言って周囲をチラリと見まわす。
「よかろう、奥の部屋に行こうか」
ニーナの意図を察して、クラブは奥の方に親指を向ける。
建物は二階建てとなっており、クラブに連れられて全員二階のクラブの部屋に上がった。
二階は丸ごと一つの部屋となっており、広い部屋にはベッドとタンス、後は何かしらの魔法具だろうよくわからないが、黒石から見たらガラクタに見えるものが散らばっていた。
黒石は思う。急にエルフの兄妹が治安の悪そうな所に行き、それで会うような人物。
(この人は――何者なんだろうか)
黒石はそう思った。
一行あけを試しにやってみましたーが、これ、どのタイミングで行あけるのかまったくわらかん。もしかしたら不自然なところで行開けているかもしれません、申し訳ない。
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