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異世界冒険記  作者: 九重九十九
ペルウィーン国編
22/69

圧倒的感謝ッ!

(……うかつだった)

 それは、本当に思いもよらぬ出来事だった。

(俺は、なんであんなことをしてしまったんだッ!)

 後悔! 圧倒的後悔ッ! この世界に来て後先考えない行動をするあの鈴木が、後悔! 反省! そして誓う!

(もう、金輪際! 俺はあんなことをしない! しないっ! 頼まれたってするもんか!)

 やってしまった当時を思い出し、口にする。


「馬車の上から飛び降りることなんて絶対にしない!」


 鈴木は、前回馬車から飛び降りたら、着地に失敗して見事に足首をぐねり、「がああああああああああ足首をくじいいたああああああ!」と痛みに、ありのまま起こったことを話すだけという芸のない失態を犯した。

 その後は、声を聞きつけたアイリスが、ニーナを呼んできて回復魔法をかけてくれたのだが、どうやらこの世界の回復魔法は一瞬で怪我を治してくれるものではないらしく、全治一週間程度の捻挫という結果を残した。(それでも魔法なしだと一ヶ月は動けないほどの大怪我だったとニーナは言う)



 現状、鈴木は捻挫のために、松葉杖(その辺の木の枝を切って、即席で大和が作ってくれた)なしでは歩けず、また、元来の極度の面倒臭がり屋が災いして、馬車から一歩も動かない生活になっていた。

「――まあ、引き篭もり生活は楽だからいいんだけどさ」

 そう言ってはぁと溜息をつく。

 今現在、クナスナイルのメンバーはお昼ご飯タイムだ。

 馬車後方部分は開いていて出入りできるのだが、そこから肉の焼けるいい匂いが香ってくる。

「ハラへった……」




 カイゼランドの肉は、牛肉の味に似ている。というか牛肉だ。天汰はそう思った。

 モンスターの中には食べられるモンスターがいる。フロミー草原で該当するそれはカイゼランドとヤンガータルだが、ヤンガータルは肉が固く小さく、あまり好まれない。それに比べてカイゼランドのおいしさはヤンガータルとは比べ物にならないだろう。しかし、フロミー草原でカイゼランドとミロジラマは二強モンスターとして名が知れている。よほど腕に覚えがない限りは遭遇しても無闇な戦闘は避けるべきだろう。

 しかし、つい一日前ゲーシックがカイゼランドの肉質を傷つけないで倒すというというかなり理想的な状態での食料確保が達成された。

 長旅で保存食に食べ飽きたみんなは、消費期限が短いほうから食べるべきという極めて合理的な判断を下し、焼き肉強化週間とばかりに肉を焼いて焼いて焼きまくっていた。

 そして天汰などの前線で戦う冒険者はというと、特別待遇で多く肉を食べていた。

「うまい、いやぁいいなぁ、焼き肉」

「僕までもらってもいいのかな……?」

 大和は笑顔で肉を頬張り、黒石はまだ役に立てていないのに、この待遇を受けていいのかと少し戸惑いながら肉を食す。

「黒石ィ、お前はもう魔法が確実に使える。まだ戦闘の実績は無くても戦力として確実に数えられるんだ。ギルドの認定こそまだだが、それは誇ってもいいことだァ」

 ジルも、肉に胡椒を振り掛けてから食べる。

「……ジルさん、少し良いですか?」

 アイリスが遠慮がちに話しかける。




 なんて、他の皆が食べていた頃、鈴木はというと。

「かー……クココー……ぁ、寝てたか。ぅあ! ヨダレめっちゃ腕についてるけど!?」

 左腕に予想外のダメージ(自滅)を受けて驚いていた。

「……何してるんですか、あるじ」

 馬車後方の開いたところから、中に居る自分が使える人を酷く残念なものを見る目で見詰める。

「アレ、アイリスちゃんじゃん、お昼はどうしたの?」

「もう自分の分は食べました。ですので、これ」

 そう言ってアイリスは馬車に上がる。その手には皿があった。

「おー! 肉じゃないですかアイリス先生!?」

「なんで急に先生扱いになっているんですわたし」

「この卑しきわたくしめにお肉を恵んでくださるのですますでしょうか!?」

「卑しきとかわたしに対する皮肉か何かですか!?」

 奴隷少女が叫ぶ。

「肉だけに?」

「うまくないですよ!」

「え、お肉マズイの?」

「お肉はおいしかったですよ! ええ、もうそれはとてもおいしかったです」

「おお、そりゃよかった」

「はあ……はあ……あるじ、アナタと話しているとなんだかとても疲れます」

「フム、幼女にはぁはぁ言わせて疲れさせるようなことをしたのか俺は。タイーホエンド不可避だな」

「もう言っていることが全然分からないんですけど……」

「ああそうだ、アイリス」

 ふと思い出したかのように鈴木は次の話題に移る。

「なんですか」

 アイリスは既に疲れ顔だ。

「この前の戦闘、よく頑張ったな」

「このタイミングで褒めますか!?」

「なんの脈絡もなく褒められてびっくりしただろ? サプライズってやつだよ」

「嬉しくもなんともないんですが!?」

「お肉いただきます」

 鈴木はアイリスの持っている皿に手を伸ばす。

「もう訳分かんないですよ!」

「お肉おいひいれす」

「もう黙って食べてください」

「……………………」

「あ、淡々と無表情に食べるのもなんだか怖いので今のは無しでお願いします」

「アイリス、ありがとう」

 やはり突然に、鈴木はアイリスに感謝した。

 唯我独尊、強引ぐ・マイウェイ、人の歩く道からズレていると自覚しながら自分の道を行くような男が感謝をしたのだ。

 感謝! それも、圧倒的感謝……!

 それほどまでに牛肉という存在は重く、大きかったのだ。

「そ、その、当然です。わたしが食べているのにあるじが食べないなんて、おかしな話ですものね」

 目が合ったのに、アイリスは視線を逸らす。

「ほんと、ありがとう。これからもヨロシクね」

「……はい」

 アイリスは小さな声でそう答えた。

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