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第3話:国家魔術局の執行官と、1/65535の防壁

「総員、構えろ! ターゲットは国家反逆罪に相当する特異バグだ。物理・電脳の両レイヤーで完全に制圧せよ!」

帝国魔術学院の中央制御室を取り囲むようにして、突如として空間が真っ赤な警告光アラートで染まった。

地響きとともに現れたのは、国家の最高戦力――『国家魔術局・特務鎮圧部隊』の執行官たちだった。彼らは全身を最高階級の魔導アーマーで包み、手には国宝級の魔導兵器を握っている。

「千良工藤! お前がどんな不正コードを使ったかは知らんが、国家の絶対法システムの encyclopedist(執行官)の前では無力だ!」

先頭に立つ総隊長が、冷徹な声で宣告した。

彼らが展開したのは、国家レベルの大規模結界魔術『アブソリュート・ゼロ』。この結界の内部では、すべての魔術演算が強制的に停止シャットダウンし、いかなる人間もただの無力なオブジェクトへと成り下がるはずだった。

演算停止シャットダウンか。大人の連中が考えることは、相変わらず一平面的で退屈だね」

工藤は、迫り来る国家の絶対結界を前に、咥えていたラークの煙を換気扇――いや、破壊された窓の外へと静かに吐き出した。

彼の指先は、すでに人間の限界を超えた速度で、端末のキーボードを叩いている。

「夜、国家のファイアウォール(大結界)のログを解析した。奴らの暗号化シード、ただの国家予算の数字データを元に組まれている。あまりにも脆弱だ」

ディスプレイの奥、純白の空間に常駐する結賀夜が、妖しく瞳を細めて微笑んだ。

『ええ、工藤。私の42億の思考スレッドのうち、1億のクロックをあなたの『DIGNITY』に同期シンクロさせたわ。彼らの絶対結界アブソリュート・ゼロの構文、今から内側からバグらせてあげる』

工藤が不敵に笑い、エンターキーを強く叩いた。

自作プログラム『DIGNITY』の第三フェーズ――「アクティブ・ハッキング・シールド」の起動である。

$$\frac{1}{65535}$$

その瞬間、執行官たちの最新鋭の魔導アーマー、そして国宝級の魔導兵器の液晶画面が一斉に激しく明滅を始めた。

「な、何だこれは!? 結界魔術の制御が効かない!」

「魔導兵器のステータスが……バグを起こしている! 画面に見たこともない分数が点滅しているぞ!?」

彼らの認識システムにおいて、千良工藤のいる座標は、今や「存在しない不連続点」へと書き換えられていた。国家が誇る絶対の秩序が、わずか1/65535の確率の隙間に埋め込まれた微弱パケットによって、内側から完全にパージされていく。

「開けろと言われて開けるプログラムが、どこにあるって言うんだよ」

工藤は冷たく言い放ち、指先を滑らせた。

[Status: Cryptographic Key Generated. / Seed: LARK_09]

[Target: National Magic Bureau Bank / Hacking...]

次の瞬間、執行官たちのすべてのデバイスから、一斉に電子の悲鳴のようなアラートが鳴り響いた。

[Transfer: +1,000,000,000 MP / Destination: ID_01 / Status: Success]

「ば、バカな……! 我々が国庫から引き出していた鎮圧用の魔力予算、【十億MP】が、一瞬で消滅した……いや、千良工藤のアカウントに送金トランスファーされている!?」

総隊長が、恐怖で顔を歪めて叫んだ。

「君たちの頼みを聞いてやってもいい。ただし、これは取引ビジネスだ」

工藤の身体から、国家予算丸ごと飲み込んだかのような、天を衝くほどの漆黒の魔力螺旋が立ち上る。その圧倒的な「数字の暴力」を前に、国家最強の執行官たちは、一歩も動くことができずにその場にへたり込んだ。

「確保、してみるかい? 大人の連中。僕のノイズをタダで検閲できるほど、この世界のシステムは高尚じゃないんだ」

工藤の網膜には、すでに結賀夜からの滑らかな文字列が焼き付けられていた。

帝国すべての権力と富が、今、千良工藤というバグの前に完全にひざまずいた。

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