09 歴史の勉強
「治癒の力に目覚めたとか? おめでとう」
辺境伯に祝いの言葉を貰った。
山賊退治の後に執務室へ呼ばれたと思ったら……。
「まぁ、城には医者的な事が出来る人間が複数いた方が助かるでしょう。ただし、私の力は癒してあげたいと思う対象にしか使えないのです。医者と違って」
「それはそうだな」
「私に助けられたい人はせいぜい私に嫌われるような行動をしないようにと言っておいてください」
「ああ、しかしこれで王がそれみたことかと得意げになりそうだな。まさか後天的に白くなった髪でも極光になり得るとはて」
辺境伯は眉間にシワを寄せた。
これで離婚がしにくくなったとか思ってるのかもしれない。
「落下の恐怖で白髪化しただけにみえるだろうし、よも後から癒しの力を覚醒するとは思いませんからね」
「しかし王は思ったらしい」
そうだった。王が……。白銀になったという噂だけでよくもまぁ。
「王には特殊な勘でもあったのでしょうかねぇ」
俺も驚いた。
「……ところでそなた、こうなったら最低限の社交が必要になるぞ」
「は?」
「極光と聞けば仲良くなりたい者がでてくるだろうから」
「ええー、そんなあざとい欲にまみれた人にはこの力は発動しないと思うのですが」
「とはいえ、茶会やパーティーの誘いは来るだろうから歴史などの勉強もした方がいい、恥をかない程度には」
「女の話す事なんてほぼ男と最新のスイーツとドレスやオシャレ関係のことだと思うんです!」
ほとんどがアイドル好きの女と大してかわらんやろ、若い貴族令嬢なんて。
「男の話って……」
俺のあまりの言いように辺境伯が呆れる。
だが、真理だと思う。
俺は1つ咳払いをしてから、
「こほん、令嬢の会話は繰り返しますが、やれどこの騎士団長様がかっこいいとか、どこぞの公爵令息が素敵だとかそんなのだと思うのです!」
真実を話した。多分間違ってない!
貴族令嬢系の漫画もとある機会に読んだことあるから!
「老婦人相手ならば流石にそうもいくまい」
などと言われて半ば強制的に歴史の授業が追加された。
辺境伯夫人の最低限の教養を身につけるため。
「パーティーでの社交に……必要最低限の歴史の勉強……だるーい」
俺は机の上に突っ伏して不満を漏らした。
「だるいとかお言葉の悪い」
お目付け係の男の文官にたしなめられた。だが、
「キツイ! せめて誰かこの本、漫画にしてくれ漫画で学べる歴史の本に!」
自分の馴染みのない世界の歴史には興味があるもてない!日本のなら平安時代から勉強したけど!
「漫画とはなんです?」
「そこからか、絵師を呼んでくれ! つまりは画家ってことかな!」
「はぁ、画家でございますか」
そして画家を呼んでもらってから、漫画の描き方とそこそこ漫画風にデフォルメした絵の描き方も教えた。
俺は絵もそこそこ描けるから。
「ほう、このような絵は初めて見ます」
「それで漫画というのはコマを割ってこう、線を引くだろ、そして人物のそばに吹き出しを描いてその中にセリフという、人物の話している言葉を書き入れる」
紙に実際に描いてみせた。定規とペンを使って。
「ふむ……」
画家は真剣な顔で手本を見てる。ちゃんと山賊退治のもうけから金は払うからな。上手くすれば貴族の子相手に勉強にもなるって歴史勉強本が売れる可能性がある。
「フキダシ内の字が下手だとか苦手ならそこは字の綺麗な者に代筆を頼むといい。──あ、こっちの言葉ならフキダシは横長がいいのか」
日本語なら縦書きでいいのだが、こっちは英語みたいに横文字になる。
「こっちとは?」
「なんでもない、ともかく、この白い枠内に言葉を入れる」
「はい」
「視線誘導とか考えて、左上画面にここぞ!と眼を惹くコマを置く、それを魅せコマともいう。つまり自信のある絵を置くんだ……が、待てよ、左綴じになると右上に魅せゴマになるのか?」
「よく分かりませんが、色々考えることがあるんですね」
画家はむむ、と難しそうな顔をした。
「本当はネームという、間のとり方とかが秀逸な人と組むのがいいのだが、まだいないからコマ割りネームまでは私がしよう、キミは仕上げの絵の担当だ」
「間とかネームとは?」
また疑問が出てきたが、これは仕方ない。
「漫画における間とは、沈黙と空白のタイミングのことかな。たとえば感動的な劇を見た後に、一瞬会場が静まりかえってシーンとした後で、拍手喝采がくる。みたいな演出のこと。読者が感情移入するような呼吸や、息継ぎのようなものでもあるかな」
「呼吸……息継ぎ」
「ここで見開いた目だけのコマを入れる。ここではまだ表情を隠す。ここは背景だけ入れるとか、色んな間の取り方はある」
「ほう……」
「とはいえ、この本は歴史を漫画で読めるようにするだけでいいからそこまで繊細な感情描写はいらないかも」
「そうですか」
「えーそれで次にネームというものは雪だるまみたいなごく簡単な絵でセリフを書いたもののことかな。話は分かるんだよ、それだけでも。でも綺麗な絵になってないと見映えが悪いから、最終的には絵の上手い人に仕上げて貰う必要がある」
実際にネーム用のラフな絵も描いて見せた。
丸い頭に目鼻がついててどこを向いてるとかは最低限分かるやつ。
そして俺が漫画に詳しくなった理由は、以前陰陽師の仕事でホラー漫画の依頼を受けてた女性漫画家のおかげ。
その女性漫画家がとある心霊スポットに取材に行ったら変なものがついてきた。深夜になると現れるから払って欲しいとのことで、そいつが来るまでの暇つぶしに色々教えて貰ったり彼女の漫画を眠気覚ましに読んだりした訳だ。
相手もなんか話した方が怖さが紛れるとか言うから。
つまりはそういうことだ。
こんな感じで今日は画家に漫画の書き方講座をした。




