10 デヴュタントの準備
歴史のわかる漫画の制作は俺がネームを書くために一旦読まなければならないのを、忘れてた。
クソめんどい。
自分で読むのがだるいので読み書きの出来るメイドに読み上げをさせてる。
お風呂の時や寝る前にも読み聞かせのように。
◆ ◆ ◆
デヴュタントのパーティーといえば令嬢は皆、白いドレスを着る。
そして大人の貴族となった時は国王夫妻に挨拶をするのが慣例。
なので使うことのなかったウェディングドレスを改造しよう。
◆ ◆ ◆
衣装店の者を呼んだ。
トルソーに着せたドレスを見せて、ベールを取ればただのシンプルな白いドレスに見えると思って。
「奥様、このドレスをアレンジすればよいのですか?」
「ああ、完全なオーダーメイドではなく申し訳ないが、こことここにリボンを足して、ここにフェイクパールでもいいから付け足して欲しい」
俺が指をさして指示を出すと衣装店の女性店員は紙にメモをとっているようだった。
「恐れ入りますが、フェイクパールとはなんの事ですか?」
聞き慣れない言葉だったのか、店員が首を傾げた。
「あれ? ここには偽物の安い真珠とかない?」
日本で見てた安いフェイクパールって工場生産のものかな? じゃあいっそ本物の方がマシなのか。
「まぁ、辺境伯夫人ともあろう方が偽物など」
衣装店の者が苦笑いをしてる。これはいかん。俺の失態だ。
「税金を使いずぎって思われないよう安物でいいと思ったのだが、そうか、それじゃ逆に辺境伯に恥をかかせてしまうか、じゃあ本物の真珠で作ってくれ」
「はい、それにしてもこれはウェディングドレスでは? 手を入れて後悔なさいませんか?」
あれ? やっぱりプロからすればわかるものか?
「実家の者がくれたのだけど、ただの白いドレスかと思ってたわ! やや地味だから!」
誤魔化した。
「この裾や袖口のレースはとても繊細なものですから……」
「わりといいものだったと?」
「ええ、このレースを見る限り」
流石に結婚の衣装だけは辺境伯の家格に釣り合うようにマシなのくれたのか?
俺にはごくシンプルなドレスだなとしか分からなかったが。とは言え、
「一度も袖を通してないドレスだから勿体なくてアレンジして着ようと」
店員が驚いた顔をした。
「式をなさっておられないと?」
祝福してくれる友人もいないし……
「お互い不要だと思ってやめた」
俺の言葉に衣装店の者がぶわっと泣いた。 何故だ。
「な、何もそなたが泣かずとも」
俺は慌てて近くのテーブルの上に置いていたハンカチを店員に差し出した。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です、己のハンカチがございます」
そして確かに店員は己のポケットからハンカチを出した。
「ついでに何着か新しいドレスを作るといい」
「え?」
急に辺境伯がログインしてきた。部屋のドアが開きっぱなしだからノックもせずに入って来たんだな。
「そなたは荷物が少なかったと聞く」
「ええ、移動が長いので……身軽にしようと」
アリストにたいした資産がなかったのもある。
「分かりました! 新しいドレスも作りましょう!」
店員は嬉しそう。そらそうか、金になるもんな。
「じゃあ既製服でもいいから動きやすい普段着も」
「普段着と申しますと?」
「ごくシンプルなブラウスとスカート、洗濯がしやすい上下が別れているもの」
「そ、そういうものは平民が着るものですが……」
店員は言いにくそうにしつつもそう語る。
「ドレスばっかり着てると疲れるし、洗濯する者も大変だろう」
ドレスは汚すと大変そうだなって気を使うんだ。高いし。
「さ、左様でございますか」
「そなたがそれでいいなら、そういうものも買えばいい、だが、ドレスも五着は必要だ、費用はわたしが出すから心配はするな」
「あ、奢りなら遠慮なく」
「奢りって……」
辺境伯が俺の言葉に呆れた。
「いえその、あはは、服のお礼に燻製ベーコンをあげますよ」
元からあげようと思ってたのに、歴史の勉強のせいで忘れてた。
「は? ベーコン?」
「先日作ったやつ」
「ああ、あれか、報告はうけていた」
つい酒の席の奢りみたいなノリで言ってしまった。中身庶民と変わらんから、俺の金銭感覚。
しかし案外親切だな、辺境伯。妻としてみすぼらしい格好をされたくない説もあるが。
衣装店の人にも俺は変な貴族だと思われたかもな。別にいいけど。




