11 デヴュタント当日
デヴュタントの舞踏会の日が来たので俺と辺境伯は辺境の地からはるばる王都に移動して来た。
城下町の街並みはなんだか中世ヨーロッパに似てる。
馬車で到着した王城は華麗で至るところが映えスポットだった。ヒュー♪ 気分は観光客。
俺は口をあんぐりと開けて「お城だー」と馬鹿みたいな感想を漏らしたら隣にいた辺境伯が少し笑った。お上りさんすぎたか。ちなみに夫の辺境伯は今日も相変わらず髭もじゃのくまさんのままだった。
「そんな髭もじゃでミルク色のシチューとか食べたら真っ白でおもろい事にならないか?」
と、思わず訊いてしまったら、
「今日は白い液体は避ける」と答えた。
まじかよ。そうまでして……まあいいけど。
それでやはり今日の俺はアレンジした白いウエディングドレスを着て着た。
原型を知らない人には普通にかわいいドレスに見える事だろう。
多くの貴族が着飾って続々とやってくる。
自分も会場へは辺境伯にエスコートされて来た。
そして実はここに来るまでの荷物の中に男物の服も持って来ている。
王都のタウンハウスで五泊はするっぽいから帰る前に王都の花街に行ってみたいとも思ってる。
実は俺はバイ(両刀)だからどちらでもいける口だがどちらかというと触り心地は女の方が柔らかいので好きだ。
空はすっかり群青に変わり、魔石の照明が灯り始めた。城のあちこちでライトアップされて、美しい大理石の床の上で人々が行き交い影が踊った。
会場入場の時には誰それがご到着されましたとアナウンスされるもんだから、クソデカくまさんと白銀の髪の俺氏、無駄に目立つ。ガルナバーシュはぶっちゃけ注目の的!
そしてシャンデリアの光降り注ぐ豪華な椅子には王族が鎮座する。王への挨拶の時、
「ガルナバーシュ辺境伯よ、やはりそなたの妻は治癒の力が覚醒したか、余の勘は当たるであろう?」
俺を見ながら王は鷹揚に笑い、得意げに白く立派な顎髭を撫でた。
「まことにご慧眼であらせられます」
俺は王に頭を下げつつも辺境伯の王への心にもないおべっかを聞きながら早くダンスを済ませて飯が食いたいなと思っていた。
我々デヴュタントの令嬢達は各々パートナーを伴ってフロアの中央でダンスを踊った。ターンをする度、白いドレスが花開いたかのように広がり、舞う。
ダンスが終わって拍手が響いた。デヴュタントのレディ達は次のパートナーと踊るかそれぞれ会場内の四方八方へ散る。
ふと、誰もパートナーになってくれないのか、地味な灰色のドレスで壁の花になってる令嬢がいた。顔も俯き、誰とも目を合わせようとしていない。
「また今日もセシル嬢は壁の花ですのね、華やかな妹さんのアウレーリア嬢にはいつもダンスの申し込みが殺到してますのに」
令嬢達の陰湿な陰口が始まった。
……これはもしや姉妹格差ってやつか? 少女漫画で読んだぞ。
正妻の子が正歳亡き後後妻と連れ子の妹にいびられて不当な扱いを受けてる系?
しかし本当に誰も誘ってやらないのか? このような場で一度も踊れないのは恥とか聞いたけど。周囲にいるメンズ達を見渡すも遠巻きになんかくだらない事を言うばかりでどいつもこいつも当てにならない。
ふと、夫の方を見たが、この人は女嫌いだったんだっけと思い直し、俺はため息を一つ吐いて休憩室へ向かった。
休憩室で仕込みをしてから会場へ戻った。令嬢達の視線が集まる。
俺は壁の花どころか壁と同化しようとしているセシル嬢に男の姿でダンスを申し込んだ。
「レディ、私と踊っていただけますか?」
周囲にざわめきが広がる。
「え、でも私……」
彼女は震える手を途中まで出して、自分の荒れた手に気がついて引っ込めようとしたところをさっと掴んだ。
どうやら手袋すら買って貰えていない。
「お気になさらず」
まるでメイドのように手が荒れていた。
こんな漫画みたいな虐待受けてる令嬢いるんだな。しかし地味なドレスではあるが腰は細くくびれてるし、基本的にスタイルはいい。
やや痩せすぎだがろくに食べさせてもらえてない説が有力。
「お、お見苦しい手で……ごめんなさい」
こーゆーのは俺の国だと働き者の綺麗な手って言っておくとこだけど元ネタの通じない異世界だし貴族令嬢に働き者と言っても逆に失礼に当たる。
俺は騎士や王子様のように腰を屈めて彼女の指先にキスをした。
「ええっ!?」
「あの方はどなた!?」
周囲がどよめく。辺境伯は俺を見て頭が痛いのポーズをとっていた。サーセン。
そして俺の口付けた彼女の荒れた左手の指先は癒しの光を受けて綺麗になったのだ。
次に右手にもキスをし、治療した。元は滑らかで綺麗な白い手だ。
それにしてもこんな装飾のまったくない地味な姿でもパーティーに連れ出されるのはあの妹が引き立て役にしようとでも思っているのか。
案の定華やかなフリルとリボンたっぷりドレスの妹をチラ見したら悪役令嬢みたいに一瞬悔しそうな顔をしていた。
しかしこの令嬢、飾り気はないが上品で綺麗な顔立ちをしてる。
令嬢とダンスをしながら話した。
「貴女のすみれ色の瞳、とても綺麗ですね」
「……」
これは本当の事だった。でも令嬢は照れたのか黙った。ダンスが終わると料理のあるテーブルまで行ってトレイに皿を二枚置いて適当な料理をのせ彼女を休憩室に誘った。
「あの? この休憩室はガルナバーシュ辺境伯のお部屋では?」
部屋の扉に名前の書かれた黒板があったからそれを見たんだろう。
「辺境伯家の者なので大丈夫ですよ、これ食べません?」
貴女痩せすぎですよ、心配です。とは言えない。逆に失礼になりそうで。
「あ、ありがとうございます」
彼女がしっかり食べるのを見届けてからまた会場に送った。(会場内でガッツリ食べるとはしたないとから色々言われるから控え室に行ってた)
アリストの実家の奴らも貴族だから会場で一瞬見かけたけど、知らんぷりした。
パーティーが終わってタウンハウスへ戻る最中、馬車の中で俺は夫と男の姿で対面で座ってる。
「しかしこれでは、はたから見たらどっちが夫で妻かわからないな」
と言って辺境伯がため息を吐いた。
「そちらが夫で構わんよ」と俺が言うと、「構わんよ。じゃないだろう」と、呆れた。ごめんて。




