07 ダンスレッスンと燻製肉
今朝もワイルドボアの肉残りをステーキで食った。
森で狩ってきたワイルドボアは普通の猪とは比べ物にならないほど肉が締まり、脂が甘い。
辺境伯城の台所番から分けてもらったトリュフをたっぷり乗せて食べたら、ジューシーで最高だった。
そして食後。
とりあえず今、俺の最優先の目標は王様のいるパーティーで紹介された時にちゃんと辺境伯夫人として見えるように振る舞うことだ。
だからダンスも必要だろうってことでレッスンの為に騎士見習いと踊る事になった。 もちろん女性体で。
騎士見習いは茶髪の坊やだった。初々しい雰囲気の。よろしくと挨拶をして、いざレッスン開始。
「はい、ホールドして!」
パンと、手を叩く指導員の女性。この人は辺境伯が手配してくれたらしい。
黒髪を高い位置で結い上げたインテリっぽい雰囲気の25歳くらいの女性。ダンスの先生なんで流石にスタイルはいい。クビレもある。
ちなみにホールドとは、ダンスのパートナー同士がつくるフレームのこと。
2人で1つのバランスを作り、動きを伝え合い、美しく見せるための基本姿勢。
「背筋を伸ばし、肩を自然に下げる!」
「「はい!」」
「肩甲骨を背中で寄せるイメージで!」
「「はい!」」
「あごを引かず、視線は斜め上45度くらい、首を長く伸ばす感覚でお腹に少し力を入れて、胸を軽く開き体重は親指の付け根寄りに!」
「「はい!」」
パーティで夫の辺境伯に恥をかかせない為とはいえ、この俺が自主的にダンスなんざやってるのかなり健気じゃね?
こんなん学生時代のフォークダンス以来だぜ。
──そして、初回ダンスレッスンを終えた。
ガチで疲れた。この貴族の女性アリストの体、ある程度はダンスを覚えてる感じはあるけど、あまり体力がない。
◆ ◆ ◆
そして先日のイノシシ肉、まだ残ってる分を燻製肉にしようと思ったので、また男性体になってから辺境伯の城の裏庭の一角を借り受けた。
「ふう……これでだいたい完成だな。簡易燻製器」
材料は辺境伯家の倉庫にあった頑丈な木材と、鉄板。
そして城の廃材置き場から貰ったレンガと粘土。
工具は鍛冶場で借りた手斧とノコギリ、釘と縄だ。地面を平らに整地し、まずレンガで土台を二段積み上げて炉床を作った。
底には空気穴を数カ所開け、上に鉄板を載せて火床にする。
炉の周囲は厚めのレンガと粘土で壁を固め、煙を逃がさないように隙間を埋めた。
その上に、大きな木箱を二つ重ねた燻室を設置。
木箱は厚さ三センチくらいの堅木を使い、内側に粘土を塗って燃えにくくした。
蓋は重い木板で、隙間を湿らせた布で塞げるようにしてある。
煙突は空心の太い丸太を繋げて高く伸ばし、風の影響を受けにくい位置に固定した。
「温度管理はこれで……穴の開け具合と煙突の高さで調整するしかないな」
簡易温度計代わりに、炉の近くに水を入れた小さな瓶を置いた。沸騰しそうになったら温度が高すぎる目安だ。
チップはリンゴの木と桜の枝を細かく刻んで乾燥させたもの。香りが良くなるよう事前に調整済みだ。
先日の裏庭キャンプ飯で残った肉塊を木の台の上に並べる。
今日はシンプルに塩コショウと、ローズマリー系ハーブを擦り込んでおいた。燻製器の底に魔石の火を入れ、チップはリンゴの木と桜を混ぜた自作のものを投入。
白い煙がゆったりと立ち上り始めた。騎士達があいつ何してんだ的な眼を向けてくるが気にしない!
「よし、温度は60度前後……低温燻製でじっくり丸一日かけるかなぁ」
蓋を閉めながら、自然と口角が上がる。
この世界の魔物肉の素材、想像以上に美味だから燻製ベーコンの仕上がりが楽しみだ。
煙の匂いが裏庭に広がっていく。
甘く香ばしく食欲を直撃する香り。
……ベーコンが完成したら、辺境伯に少し分けてやろうかな。
何しろアリストの実家の侯爵家があてにならんし、すぐに離婚されたら困るしな。
多少は媚びとくのも悪くないよな。
しかし王命とはいえ、一旦は結婚しましたから!とか言って後から離婚された時は、冒険者とかやればいいのかな?
それとも今のうちに土地と家を交渉してもらっとく?
将来追い出された時用の住まいとして。
しかし持参金も持ってきてないけどそんな気前よくくれるだろうか?
……悩みは尽きないな。




