06 狩りから戻って
俺達は城門をくぐって庭に入った。
騎士がさっさと帰りたがったり薬草摘みの少女を送るため、せっかく調味料を持って行ったのにキャンプ飯が出来なかった。
「え? 裏庭で料理をされたい?」
「そう、もう城の敷地内だからいいだろ、今は春だから寒くないし」
ちゃんと帰城したろ? と圧をかけた。
「……わかりました、それくらいなら多分大丈夫ですのでどうぞ」
護衛騎士は一瞬城の主の部屋の窓を見てから返事をしたのだが、窓際に誰かの影が見えた気がした。
「よし」
裏庭の1区画の使用許可を貰ったので狩った獲物を料理して食べることにした。
敵対家門から嫁いで来た自分に厨房に入って料理をされるのは多分嫌だろうという配慮からだった。
裏庭と言えどあちこちに警備用のかがり火もあるし、真っ暗ではない。
石で簡易かまどを作って塩とハーブをまぶした肉を串に刺してぐるぐる回転させつつ焼いていく。
藁で編まれた椅子があったのでそれに座って丸太のテーブルで食べることにした。
「お皿をお持ちしました」
騎士がひとっ走りしてきて皿を数枚持って来てくれた。
「気が利くじゃないか」
「恐れ入ります」
月の綺麗な夜で、焚き火の爆ぜる音が心地よい。火で炙られた肉が脂を滴らせ、いい色に焼けてきた。
「……頃合かな」
串から抜いた肉をまな板の上でナイフで切り分け皿に盛った。
美味そう。
春風の吹く中、肉にかぶりつくことにした。
「いただきます……美味い!! ……お前達も食べたらどうだ?」
護衛騎士達も腹が減ってるだろうと勧めた。
騎士達は顔を見合わせ、断わるのも失礼かと思ったようで、
「「あ、ありがとうございます」」
と、言って俺と同じように藁で編まれた椅子に座って肉を食べ始めた。
その顔や食いっぷりを見れば美味いのだろうという事は分かった。
そしていつの間にかカゴにパンとワインを入れて雑巾と呼ばれる(呼ばせている)毒味係のメイドが小走りで現れた。
俺が無言で、1つのパンを指差して、これを食べて見せろと指示したら、目の前でパンを一口二口食べてみせてから今度はゴブレットにワインを注いで飲んでから飲み干して空になったゴブレットを俺に確認させた。
俺が頷くと、雑巾メイドは残りのパンとワインを置いて下がった。
「お前達、パンと飲み物の差し入れが来たぞ」
量が多いので騎士達の分もあると分かる。
「はい、いただきます」
「いただきます」
騎士達が少し打ち解けてきたのは、薬草摘みの少女を助けたのが大きかったかもしれない。
明日は何して過ごそうかな?
と、俺は考えを巡らした。
通常の夫人ならばこの領地の帳簿の付け方などを習うのだろうが、ライバル家門からきた俺にそうそうそんな大事な物は見せないだろう。
「なぁ、王の主催のパーティ、夜会ではやはり辺境伯と一曲は踊る必要があると思うか?」
「それは……そうでしょうね」
貴族の教育を前のアリストも受けていただろうし、体がある程度は覚えてるかもしれないが、一抹の不安が過ぎる。
「よし、お前達、じゃんけんしろ、グーチョキパーで勝負するんだ」
俺はグーチョキパーのジェスチャー混じりで騎士達に向かって声をかけた。
「え?」
「負けたやつが私のダンスの練習相手になれ」
「!!」
「そ、そうですか」
「最初はグー!ジャンケンポン!の掛け声の後にグーチョキパーのどれかを出すんだぞ」
「「はい」」
「最初はグー! ジャンケンポン!」
「グーが多いな、チョキのお前が負けだから、俺のダンスの練習相手はお前な、明日だからな」
「……はい、しかし、旦那様を差し置いて私が相手でいいのでしょうか?」
じゃんけんに負けた騎士はひきつった笑顔を作った。
「多忙な辺境伯を練習に付き合わせて更に足でも踏んだら大変だろ」
「それはそうですが」
「それに女嫌いだろ、あの人」
「それは……はい」
「ちゃんと女の格好でやるから安心しろ」
騎士はハッとした顔になってから、
「私よりもっと背の低い騎士見習いの方が良くないですか?」
「……そうか、女の時の私は背がこんなに高くないんだった」
自分が男性化したままなのを忘れてた。
「そうですよ!」
騎士は苦行から逃れられるかのように顔が輝いた。
「じゃあ騎士見習いに身長の合いそうなものを見つけておいてくれ」
「はい!!」
あんまり嬉しそうにするなよ、ちょっと失礼だろ。これは怒るほどのことじゃないから許すけども。




