05 オズヴァルドサイド
~ オズヴァルド 視点 ~
本来なら、他領から花嫁が嫁いで来る場合、盛大に迎えるのが正しい。夫となる私も含めて。
ただ、長年政敵としていがみ合っていたバージェライネン家門の令嬢と、王命での無理やりの婚姻ということで気が乗らなかった。
そして何しろ俺は女性が苦手だ。
たいてい俺を見ると悲鳴を上げて逃げて行くし。
来て早々怯えさせるのもなんだと思ったし、気が重く、急いで終わらせないといけない書類も立て込んでいたのでつい挨拶を省略してしまった。
そして、それを直ぐに後悔することとなった。
花嫁が到着して早々の事だった。
使用人が息をきらして執務室へ駆け込んで来た。
「旦那様、大変です!」
「どうした」
「ぎょ、御者が家令よりバージェライネン令嬢へ紹介をされていた時にあろうことか腕組みをしてまして!」
「は? 腕組み?」
「腕組みしたまま紹介を受けて、それを見たバージェライネンの令嬢が気分を害されたらしく」
それはそうだろ。
「ムチか何かで打ったのか?」
「ムチどころか御者は令嬢に右腕を切り落とされました! ドレスの下に剣が隠されていて本人は護身用と仰られてましたが」
!!
護身用の剣をドレスの下に隠してくるとは只者ではないな。令嬢は引っ込み思案で大人しい令嬢だという噂は間違いだったか。
「……腕を切り落としただと……しかしいくらなんでも腕組みしたままとは御者も一体何を考えて」
「かのバージェライネンからの輿入れですし、旦那様の為にとって良くない存在として、不服だったのでしょう、この城の多くの者がそう思って無礼を働いて」
「なんという馬鹿なことを! そして御者はちゃんと治療は受けさせたか?」
「はい、それはすぐに」
目を離すのではなかった。まさかそんな無礼な態度をうちの者がとるとは。俺への忠誠心の高さが仇となったのか。
するとまたしばらくして部屋の扉からノックの音が響いた。
「旦那様!」
今度はまた違う使用人からの連絡だ。
「今度はなんだ」
「メイドのアンナが奥様の部屋を案内するのに使用人区画に連れて行ってしまいました!」
「馬鹿な、辺境伯夫人の部屋は主たる俺の部屋の隣だと決まっていたろうに」
そこを先日、前もって揃えて掃除もさせたはずだ。
「そうなんですが、嫌がらせをしたかったようで」
「さっきのさっきで御者の話は聞いてなかったのか!? 無礼討ちにされかねないぞ」
「は、はい、城内にいたせいで話を聞いてなかったようです。しかし途中で、令嬢より本当にこっちで合ってるのか? 使用人の部屋みたいに狭い部屋だったら両手両足切り落としてツボに押し込んでやると脅されたらしくて、すぐに本来の部屋に向かったと」
「どうしてわざわざそんな……平民の身で無茶をするんだ!」
「ここの城の者は皆、旦那様を慕っておりますから、バージェライネンからの花嫁など相応しくないと」
「そっちのメイドはまだ、切られる前でマシか」
頭が痛い。
「はい」
「まったく、メイドも減俸して反省させ、しばらく出勤停止にしろ!」
「かしこまりました」
働けなくなった御者の代わりを手配したり、仕事が多くバタバタしていて俺が晩餐時にも顔を見せなかったらまた翌朝には使用人が問題を起こしていた。 流石に噂が伝わって馬鹿な事はしないと思ってたのに。
話を聞けば今度はメイドが雑巾を絞ったものを食事に入れたらしく、毒味係に任命されたあげく呼び名が雑巾にされていた。
雑巾騒ぎをおこしたメイドは先日は休暇であれがどんな恐ろしい令嬢か知らなかったらしい。
これ以上被害が出る前に会わなければ。
そして、俺は観念して本人に会うことにした。
鮮烈な白銀の髪に金色の瞳の美しい少女だった。
口を開けば15になりたての少女らしくない、かなり気位の高い貴族ぜんとした話し方をする、キリリとした雰囲気の令嬢だった。
さすが侍女の一人もつけず、単身ライバル家門に嫁いでくる度胸がある娘だ。
俺は使用人達の無礼を詫びた後で一応結婚式をやりたいか訊いてみたが、こちらが乗り気でないのを察してくれた。
散々な出迎えをされたわりに帰りたいとは一言も言わず婚姻届にはあっさりサインをした。
彼女は荷物も少なかったし、持参金もなしの王命の愛なき結婚。
こちらも特に持参金の要求もしなかったが。
驚くことにその後、森へ狩りに行くと言われた。
男物の服も要求されたが、それくらいは問題ない。高いドレスや宝石でも良かったくらいだ。
──そしてそれから、本当に護衛騎士と共に狩りに出かけたらしい。
◆◆◆
騎士に報告を訊くことにした。
「森へ向かったアリストについて報告を聞こうか」
「出発前に奥様の部屋から僅かに魔力を感じました。手紙も渡してないのにどなたかとの話し声が聞こえましたので、魔法の伝書鳥がきたようです」
「ほう」
「どうも旦那様の外見的特徴くらいしか話せないと扉越しに言われたそうで」
部屋の外まで声が聞こえるくらい大声を出した?
わざとらしいな。
「おおかた実家の者からうちの情報を流せと言われたんだな」
「しかし、旦那様の外見的情報としか言えないと突っぱねたようで」
……信用していいのか、それとも演技か。
「それで、具体的には私の事はなんと?」
騎士は言いにくそうにしたが、俺が机を指先でトントンと叩いて促すと、重い口を開いた。
「ひ、髭もじゃで熊のような人だと……あ、それと、スパイと疑われるような事はしたくないとか、支度金くらい貰えたでしょうにドレスと少ない装身具程度で送り出されたんですよとも、言われていて……命がけでスパイまでする義理も無い的な……その、つまり実家がお嫌いなようでした」
確かに実家も嫌いな感じはするな。
何しろこちらに歓迎されてない中、あっさり婚姻届にサインもした。
「……確かに俺は髭を伸ばしているし、ほぼ全身黒ずくめでクマとか化け物とか野獣とか呼ばれているからな、それは今さらだな。だが、スパイ拒否発言はまだ演技の可能性はあるな、戻っていいぞ」
「はっ! 」
まだ、油断は出来ない。様子見をしなければ。
◆ ◆ ◆
そして狩りから帰ると、アリストは怪我した薬草摘みの少女を助けたと、騎士から報告をうけた。
「狩りでは不思議な紙の使い魔を使役し、己の目の役割をさせて獲物を探し、弓兵の弓で獲物を仕留め、見事なものでした。多少騎士のサポートもありましたか基本的に手際が良かったです。獲物の肉を少女に分けて差し上げたりする優しさもお持ちで」
使い魔と弓も使えて強く、誰にでも喧嘩を売るわけではなく、優しいところもあるのか。
しかし、まだこの目で見てはいないが、男性化すると大柄な騎士と同じくらいになるとか……。
驚きだ。




