狩りに!
鳥が去って俺はふと思い出したように、紙とハサミを使用人に要求した。
「紙とハサミ、でございますね、手紙用の便箋でよろしいのですか?」
「白くてそこそこ大きいならそれでいい」
少しだけ工作のような真似をしてそれもカバンにつめてから、近場の森へ出発する事になった。
荷馬車でゴトゴト人間を乗せて行くのだ。
俺は前世の記憶で実は馬にも乗れるが、荷馬車に乗って行くのは、獲物が積めるようにだ。
でかいのが狩れるかもしれないし。
「あ、森が近くに見えて来たな」
護衛騎士は、結局10人着いてきてる。
二人は同じ荷馬車内に、他は荷馬車の前後を守るように配置されて進む者達がいる。
御者はもちろん俺が片腕を切り落としたあいつではない。
「あまり、無茶はなさらないでくださいよ、奥……様?」
護衛騎士騎士が俺を奥様などと呼んだが、今は男性体なのでそう呼ぶと違和感がありまくる。
「アリストでいい、死なない程度にやるから心配するな」
「……アリスト様、死なない程度ではなく、怪我ない程度ですよ」
「まぁ、そうだよな、呼び方はそれでいい」
馬のいななきが聞こえ、馬車が止まった。
「森の入り口に到着しました。荷馬車はこれ以上入れないのでここで待機となります」
「りょーかい」
俺は荷馬車をヒラリと飛び降りた。
「大丈夫ですか!?」
「あったり前だろ。ふー、マイナスイオン」
「アリスト様、あまりはしゃがないでください、ここは公園ではなく森なので魔獣も出るのです」
敵対家門だった俺を心配してくれてるのか。
こいつは。
いや、職務に忠実なだけかもしれんが。
「分かってる」
俺は便箋用の白い紙を人型に切ったものを取り出した。
「なんですかその紙キレ」
「式神」
「シキガミ?」
俺は手のひらに置いた五枚の式神にふっと息を吹きかけた。
するとそれが空に舞い上がる。
『散開! 獲物を探せ!』
俺の命令をきいたヒトガタの白い紙が空中を飛んで行く。
「おお!?」
「あの式神達が獲物を見付けてくれる」
俺の目の代わりとなってな。
「そんな特技があったんですか」
「まぁな」
「……」
唖然とする護衛騎士達。
陰陽師時代の能力がここでも使えて良かった。式神との視界共有はかなり疲れるが、こんな時は役に立つ。
そして放った五体の式神のうち、一体が獲物を見つけたので、俺は視界共有して、場所を確認した。
「目標を見つけた、行くぞ」
「はい」
「……あれか」
気配を殺して近づくと、でけーイノシシの魔物のようだった。穴を掘ってるので、ミミズでも探してるのかもしれない。
「ワイルドボアです」
「ぼたん鍋の材料来た」
「ボタン?」
「いや、とにかくあのイノシシを倒す。そこの弓兵、弓を貸してくれ」
「は、はい」
前世で弓道や流鏑馬をやっていたことがあるので、弓が使えるから弓兵から武器を狩りた。
矢を番えて照準を合わせていたら、魔獣らしくこちらに気がついた。
突進してくる!
騎士たちも既に抜剣してる。
俺はこのタイミングで弓を引き絞り、撃った。
イノシシの頭部に俺の放った弓矢は命中した。
しかし、まだ突進が止まらない。
慣性の法則。
護衛騎士が大ジャンプしてイノシシの首を上からグサッとやって、やっと止まった。
「サポート、よくやった」
俺は大ジャンプした騎士に声をかけた。
「いえ、お怪我もなくようございました」
「大きいイノシシですし、獲物はこれで十分では?」
騎士たちはもう帰りたそうだ。
夜になる前に帰りたいんだろう。
「鳥系も少し欲しい」
「やれやれ、鶏なら城にも」
騎士がそう言いかけた時にヒトガタが獲物発見。
「あっ! 見つけた! キジっぽいやつ!」
俺が駆け出したので護衛騎士達も走らざるを得ない。
そしてまた弓で獲物を狩った後で、ヒトガタが獲物とは違うものを見つけた。
「泣いてる子供がいる、女の子だ」
「え!?」
「迷子かもな、とりあえず保護しにいくぞ」
現場に到着してみれば、
「アリスト様、見たところ薬草摘みの子供ですね」
護衛騎士がそう説明した。確かに岩陰に隠れるように蹲る子供がいて、傍らには草の入ったカゴがあり、膝に転んだ時の怪我っぽいものがある。
「こんなところまで子供が一人できたのか? 危ないだろう? 親とか保護者は?」
俺はなるべく優しい声で話しかけた。
「あ、あたし一人で来た。け、獣の気配に驚いて逃げてたら奥まで来てしまって……お母さんのお薬欲しくて」
「確かにカゴに薬草が入ってるな……お母さんの助けになりたかったのか、健気な子供ではないか」
俺は子供の膝の傷を水筒のまだ口をつけてない綺麗な水で洗い、傷用の薬草をつけてから布を包帯として巻き付け、応急処置をした。
「我々が今から帰るのでこの子を森の外まで送ってあげましょう」
有無を言わさず子供にかこつけて帰還を促す騎士。
「分かったよ、ただこのイノシシの解体だけさせてくれ」
「アリスト様、解体ができるのですか?」
「やれない事はないが、今回はお前達の腕を見せてもらおう」
そうそそのかして川の側で縄でイノシシを吊るして解体作業をしてもらった。
俺は男達が解体してくれてる時に綺麗で大きめなツルツルした葉っぱを集めて来た。
「アリスト様、解体出来ましたよ!」
俺はナイフで肉を少し切り落とした。
「よし、この肉を葉っぱに包んで……ほら、お母さんのお土産にしろ、病気か怪我か知らんが栄養も大事だ」
「お兄ちゃん、ありがとう……」
震える子供に葉っぱに包んだイノシシ肉をおすそ分けした。
痩せた子どもを見ると、あまりいいものを食ってそうには見えなかったので。
「優しいところもあるんですね」
この護衛騎士、意外そうに言いやがって。
「この子に敵意はないからな、ただの親孝行な子供だ」
俺は別に全ての者にケンカ売る狂人ではないぞ。悪意には反撃を、善意にはそれにふさわしいものをを返すだけ。
「そうですか……」
森を出たらもう、夜だった。




