22 妻と夫
~ オズヴァルト視点 ~
「かくなる上は、今やれることをやるべきだよな」
アリストは黒獅子に変化した私に向かって、臆することなく近づく。
武器になる割れた瓶はもう手放してテーブルに置いてる。丸腰の小さな女の姿。恐れる必要はない。しかし、あちらは普通恐れるものだ。獣の姿のこの私を。
「グルルル」
「まず、もふる!」
何かと思えば、そう宣言しつつ急に抱きついてきて私の毛に顔を埋めた! そして次に頭をグリグリと私の体に押し当てた。
「グルルル!?」(一体なんのつもりだ!?)
ひとしきり毛並みを確かめるように動いた後に顔を上げた。
「次に肉球!」
私の前脚をふんぬと気合いで持ち上げて、肉球を触り始めた。
「グルルル……」
「大きな肉球がプニプニー!! ヒャッハー!!最高!!」
(さ、最高!? この恐ろしい獣の姿を、最高だと!?)
そして満面の笑みで手のひらでぷにぷにを堪能した後には自分の頬に押し当てた。肉球を。
「押してくれー! 踏むがごとく!」
「グルルル……」(なんだコイツ……!? 顔を踏めと!?)
「遠慮しなくていいのに……」
──遠慮とかでは無い。戸惑っている!
「グルルル」(何故勝手に頬を押し当ててくる……)
「はー、気持ち良かった! よし! これからはランダムで夜にお前の部屋に来るからな! 妻の当然の権利として!」
「……!?」
なんだと!? あと、ランダムってなんだ?
「それか獣化したらガオーとか吠えて呼べ!」
「ガオ……?」
「今は大丈夫だ。もう分かってる。しかしそうだ。そうやって呼ぶんだ。もっと、大きな声で!」
「グルルル……」
「私は妻だし! 法律上!」
「……」
確かに書類上でアリストは妻だ。
「では寝るか!!」
「!?」
アリストはベッドの上で体を横たえ、私に抱きつくようにして眠ってしまった。……正気かこの女は?
そしてそのまま朝を迎えてしまった。
私の姿は朝の光の中で元の人間の姿に戻った。
獣化した後は全裸なので、アリストの腕をそっと離して服を着た。
そして、困惑して頭を抱えた。
こんなめちゃくちゃな女は初めてだ。
いや、こいつを女判定してもいいのかすらよく分からん。たまに男になるし。
いや、わりと頻繁に……。
◆◆◆
~ アリスト視点 ~
「じゃあ今日は昼少し前から出かけてくる」
聞き込み調査があるから。
朝に食堂で食事をしてるとアリストが現れた。
「何だ、また女を拾ってくるんじゃないだろうな?」
「今までのは侍女だ、変な言い方をするな」
「ふん……」
「さて、私も朝食を食べるとするか、もしや初めて食事を共にするのでは?」
「……お前がわたしの部屋で勝手に寝たからだ」
意味深発言にザワつく使用人達!!
「夜這いみたいに言うでない」
「じゃあ、あれはなんだ?」
オズヴァルトにじろりと睨まれた。
「お茶を一緒に飲もうかと……」
「ふん、たわけが」
「口わる」
「お前が言うか? もっと恥じらいをもて」
「もふもふしただけだけど?」
「好き放題触ったな」
さらにザワつく使用人達!!
「いいじゃないか、減るものでもなし」
「……」
「等価交換が必要ならそっちも触ればいい」
「だから、慎みを持てと!」
耳まで赤くなってる。
「それよりこのパン硬いな」
我ながら急な話題転換。
「……普通だろう」
「天然酵母で今度もっと柔らかいパンを食わせてやるからな」
「はぁ?」
オズヴァルトはこいつは何を言ってるんだという顔をした。
今に見てろ、胃袋から心掴む方法もあるんだ。
使用人に謎の誤解を与えたまま、俺は食後、11時頃になってから男装の上そこそこ小汚く変装してフレデリカの為の調査に城下町へ向かった。
王都の城下町は流石に栄えてる。人が多い。
情報屋が何件くらいあるか知りたいから、またシーシャ屋に入った。
甘い香りがする。
色んな情報を知ってそうな初老の男の近くに行った。
「こんにちは、あなたはこの辺長いんですか?」
「まぁ、そうだな」
「この街って情報屋は、いくつくらいあるのか知ってます?」
「知ってどうする?」
「依頼したくて」
「一番精度の高い情報屋を訊く方がよいのではないか?」
確かにその方が効率的だ。
「つまり一番精度の高い情報屋をご存知なんですね?」
初老の男は自らの白い髭を撫でつつ笑った。
「ここだ」
初老の男は懐から紙を出した。
開いて見ると、一見して何も書いてない。
もしかしてあれかな?と、思って火で炙ってみたら文字が浮き出た。
読んでみると靴磨きのジンとだけ書かれてる。
俺はそれを覚えてから火にくべた。
初老の男は燃える紙を見て、それでいいと言うかのように笑みを深めた。




