21 外出禁止
「さて、あの侯爵令息がならず者をどこから雇い入れたかを調べないとな」
フレデリカがならず者を雇って侯爵令嬢を襲わせたというなら調書とか裁判記録とかあるかな?と、サロンにて隣の護衛騎士に話をふってみると、
「んー、はたしてそんな正式な調書ありますかね?」
と、騎士は首を傾げて訝しんだ。
「ないのに実は無罪のあの子が冤罪で娼館に送られるのか?」
だとしたら雑すぎる。冤罪被せ放題だ。
「既に亡き者にされたと思わしき、ならず者がフレデリカ嬢に雇われたと証言したからとか……侯爵令嬢と侯爵令息がこいつがやったとか言われて、はいそうですか、じゃあ有罪、侯爵令嬢を男達に襲わせようとしたのだし、罰として死ぬまで娼館送り。みたいな流れだったのでは?」
「死ぬまで? そんな風にほんとに言われてたなら俺は何故あの子をあっさり身請けできたんだ? 確かに高めではあったが」
「まぁ、多分そうなるだろうみたいな、的な考えでいたのでは? 美人だから一夜の相手としては人気にもなるかもしれませんが罪人を家に引き取りたい人はそう居ないから油断してたのではと」
そーゆーものか?
「とりあえず侯爵令息がよく立ち寄る店からどのツテを使ってならず者を雇ったか、式神では聞き込みは出来ないから直接行くか」
護衛騎士はぎょっとした。
「直接ですと!?」
「ああ、大丈夫、変装する」
「あなたの変装は派手というか、目立ち過ぎませんか!?」
「なるべく別人になろう、男性の行く店だろうから、男性体で髪色変えて顔に傷でも描くか?」
「傷は悪目立ちしますし、傷が顔であればよけい印象に残ってしまいます」
顔の傷が気になって他はどうでも良くなったりはしないか? 無理か?
「では片目目隠れ程度では?」
俺は片目を髪で隠す仕草をした。
護衛騎士はため息を吐いた。
「毎度止めても無駄なんでしょうね……では、その時は髪を茶色に染めてさらにボサボサにしてください」
「今のままでは毛並みが良すぎるか?」
俺は手鏡を見ながら言った。銀髪がキラキラしてる。
「そうですね、しかしひとまず出かけるのは後日にしてください」
「あんまり日にち経つと人の記憶が薄れてく」
「今夜はなるべく出歩かないでいただきたいのです」
「何かあるのか?」
「予定とかではなく、日が悪いというか」
────ん?
「日が悪い? はは、お前陰陽師みたいなことをいうな」
「オンミョウジ?」
当然ながら護衛騎士はなんだそれ?って顔をしてる。この世界に居ないから。まぁ、占星術師とかならいるだろうが。
「いや、なんでもない、今宵は何か知らんが都合が悪いのだな、仕方ない」
多少はそちらの都合に歩みよらねばいつまでたってもライバル家門からきた不審な招かざる妻だもんな。
そしてその夜出かける代わりに辺境伯の寝室へ健気な妻アピールに茶を持って行くと、なんと……辺境伯のベッドの上に獣が!
でっかい、獅子!しかも黒い!
「黒い獅子とか、こんなでかいのどっから入った? この城の警備はどうなって……猫の子じゃあるまいし」
「グルルルル」
黒い獣は威嚇のように唸った。
「なんだ威嚇かー? そこは俺の夫の寝床だぞ。……はっ!? まさかお前、我が夫、オズヴァルトを食った訳ではないだろうな!?」
最悪の想像をした。
そして俺は手近に武器になりそうな物を探した。
テーブルの上に開けた形跡のあるワインの瓶があった。俺はお茶を置いて代わりにこれを手にした。
ガシャン!
半端に割れたワインの瓶はギザギザの切り口を晒した。
「グルルルッ」
黒い獅子が武器を手にした俺を見て警戒を深めた。
「しかし、食ったにしては血痕もないな?」
ベッドのシーツは白いままだ。
その時、窓から月光が差し込む。
満月だからかなり明るい。
……まてよ、満月。こーゆーお約束の異世界ファンタジーの物語あったな? 満月の夜に夫が呪いで狼になったりするやつ。
「グルルル」
「お前、まさか、辺境伯、オズヴァルト……なのか?」
すうっと獣の目が薄められた。
「グルルル」
「グルルルじゃ分からんのよ、じゃーもしお前がオズヴァルトなら首を縦に振れ」
「……」
沈黙。
敵から眼を離したくないなら下は向かないとか?俺は割れたビール瓶ならぬワイン瓶を手にしてるから。
「もしや首振るの嫌か? じゃあ、前脚を上げてくれ一瞬でもいいから」
「…………」
しばらく黒い獅子はこちらを見たまま動かなかった。しかし、ついに右前脚を一瞬上げた。
「なんと! やはりオズヴァルトか!」
なんというお約束展開!
俺は割ったワイン瓶をテーブルに置いた。
「グルル……」
「それは変身能力か? それとも呪いの類か? もし呪いなら右前脚を上げてくれないか?」
「グルルル」
右前脚を上げた!!
「あ……」
────俺はその時、辺境伯家の家紋が黒い獅子だったのを思い出した。




