19 ボッコボコにしてやるよ
「部屋から女の人のすすり泣く声が聞こえます」
「それは幽霊でもないし、私がいじめた訳でもない」
セシルの泣き声だ。
「どうするんですか?」
騎士たちが俺を見る目がジト目。
「我こそは落ち込む乙女を泣き止ませる事ができる勇者! ってら奴いたら名乗りあげてくれていいんだぞ?」
「……」
沈黙して目を逸らす男達。
「なんだお前ら、俺を責めるだけで代替え案ないのか?」
「連れて来たのは奥様では?」
「まぁ、そうだな。やはりそろそろ天誅のターンかな」
「てんちゅう?」
「天罰」
「具体的には何をされるのですか?」
「神様に祈る。愚かなるものにそれ相応の罰を与え給え!と」
「……」
騎士Aは呆れたようにため息をついたが、騎士Bはハッとした顔になった。
ここに来たばかりの俺のした制裁を思い出したに違いない。
……だんだん顔色が悪くなる。お前は神に裁かれるようなことをしたからそんなに顔色が悪いのか?
「また出かけてくる」
「ま、またですか!?」
彼女は優しくて自分じゃやれないだろうし、執行代行だよ。
「お前らは寝てていい」
「そんな訳にはいきませんよ!」
「また男性化していくから」
「そういう問題ではありません!」
とりまフレデリカの方も目下調査中ではある。
婚約者を乗り換えられて冤罪で娼館送りになった件も。
俺は男性化して、奴らの屋敷近くに行く前に黒い式神を雑木林に飛ばした。
これは俺にしか見えない特殊な式神で災厄を引き寄せる。雑木林から。
そして相変わらずアウレーリアのドレスに仕込んだスパイ中の式神から様子をさぐる。
◆◆◆
案の定、セシルを味見に来たスケベ貴族から義母が詰められてる。
「一体どういうことだ!? セシル嬢はどこだ!? 前金も払っていたというのに!」
「申し訳ありません、あの子ったらおもてなしの食材を買いに行ったっきり市場から帰らなくて」
「ワシの妻になる女にいつまで下働きのような真似をさせておるのだ!」
「も、申し訳ありません!」
「申し訳ないじゃすまない!」
応接間のソファに座ったまま脚を踏み鳴らす、腹が樽で頭髪の薄い下品な男。20は年上の好色男らしい見た目だ。
「アウレーリア! 子爵様にお酒をお注ぎしなさい!」
義母は進退窮まって実の娘にもなんか言い出した。
「は!? お母様ったら何て事を言うの!? 嫁入り前の娘に向かって!」
いやいやお前も嫁入り前の姉をそこのオッサンに味見させようとしてたよね!?
「場を持たせるだけでいいのよ!」
母親も苛立ってるな。
「嫌よ何でわたしが! こんなのお姉様の仕事でしょ!」
ほんとに救いようがないなこの女は。
救うつもりもないが。
アウレーリアが怒って屋敷のドアを開けて飛び出して行くのを慌てて追いかける義母。
子爵と二人きりになりたくなかったのだろう。
取り残された子爵は憤慨して酒を飲んだ。
俺は男の姿で外に出て、アウレーリアを追う。
護衛騎士達二人も俺を追う。
俺を守るのが仕事なのでこれは仕方ないが。
「奥様どちらへ!?」
「黙ってろ!」
「「……」」
「アウレーリア、一体どこに行くつもりなの!?」
「カフェよ! わたしは絶対スケベ親父のお酒の相手なんかしないから!」
「子爵を怒らせたらカフェへも行けなくなるのよ! 残りのお金が貰えないから!」
「じゃあお母様がやるか、早くお姉様を探して!」
どうやらカフェ方面に行こうとしてる。
「じゃあカフェじゃなくて市場方面へ行くわよ!」
「ちょっと離してよ、お母様!」
妹はパーティーではしおらしい演技をしていたが、もはやそんな芝居もやめたのか。
そこへ、雑木林から災厄の使者がやってきた。
空飛ぶ黒い紙で作られたそれが連れて来たのは……
「きゃああ! 何あれ! 蜂が!」
「スズメバチの大群!?」
そう、スズメバチなのだ。
『天誅』
スズメバチが俺の一声で一斉に義母と義妹のアウレーリアを襲いかかった。
「「きゃああああああああっっ!!」」
街中に罪人達の絶叫が響く。
「あの蜂は……やばいですよ」
声を潜めて護衛騎士が俺の耳元で言う。
「痛いだろうな」
「……女達の顔がボコボコに腫れ上がってく!」
「ああ……」
騎士達は呆然と見てる。
通行人達は皆その惨状を見て逃げ出していく。
スズメバチの群れになど、早々立ち向かえる物では無い。防護服もないし、クマじゃあるまいし。
やがて泣き叫んでいた女達が静かになった。
何度も刺されてアナキラフィシーショックとかくらったか? ボコボコにしようとしただけで殺すつもりはなかったなかったが、まぁ仕方ないな。
「さて、次はフレデリカ関連の方」
スズメバチも雑木林へ帰って行く。
「ま、まだですか? あれどうするんですか?」
騎士は倒れてる女二人の方を見やった。
「蜂がやったんだし、自然災害だろ」
俺は何食わぬ顔で言った。
「や、やはり恐ろしい人だ」
「どうやってあんなの誘導するんですか」
「蜂達にはあの女達が巣を荒らした敵に見えてたんだよ」
「え?」
「幻術ってやつさ」
俺は青ざめる騎士達を置いて歩き出す、次のターゲットの所へと。




