18 最悪の味見
「侍女が増えたようだな」
タウンハウスにセシルを連れ帰るとエントランスで辺境伯にして夫のオズヴァルトと遭遇し、彼は俺を一瞥するなりそうのたまった。
「ああ、新しい侍女のセシル嬢だ。彼女の実家が色々酷いので救出した」
セシルはオズヴァルトの大きくて黒い姿にやや気圧されていたが、すぐに頭を下げて恐縮しつつもお世話になります。と告げた。
「ああ、好きにしろ」
オズヴァルトはそれだけ言って、行き先も告げずに出かけてしまった。怒ってると言うよりはやや呆れてるといった雰囲気だった。
「夫婦間はあのように冷えきってるけど、あまり気にしないでくれ、王命の結婚なので」
「夫婦?」
今の俺は男だったんだ。夫婦と言われて困惑してもしょうがない。
「私は今、男の姿をしているが実は特殊体質の女で男性化してるだけなんだ。ちなみに今の黒くて大きな人が辺境伯で私の夫なんだ」
情報量が多くて……いや、本当は女性なのに今は男性化してるのあたりの意味が分からなくて混乱してるのか、セシルはしばらくフリーズした。
「えーと」
しばらくしてようやく言葉を発したセシルの手をとり、
「見てみたら分かるから」と、自分の寝室にひっぱって行った。
天蓋付きベッドを目の当たりにして彼女は別の意味で解釈したのか身体を固くしてしまった。
「違うから、ベッドで俺の相手しろとかではなく、今から女性に戻るのに服を脱ぐから布団にもぐる」
「え?」
俺はさっさと靴を脱ぎ、布団に入って服も脱ぐと女性体に戻ってシーツだけ巻き付けて彼女の前に立った。
そこにはさっきまでの筋肉質で長身の男らしい男ではなく、華奢で可憐な15歳の美少女の姿があったので、セシルは開いた口が塞がらない。
「こういう性別変えられる権能があるんだ」
「そ、そうでしたか」
なんとか頭を整理して受け答えしてる様子だった。
「てなわけでつまりセシル、君は今日から辺境伯夫人の侍女だ、よろしく頼む」
「は、はい!」
彼女は背筋を伸ばした。
「さて部屋着を着たいがジャージなんてないからドレスになってしまうな」
「お、お手伝いいたします!」
「いやまて、ドレスではなくブラウスとスカートも入手したはず! あ、一人で着れるやつだから大丈夫だ、君は部屋を案内して貰え」
メイドを呼んでセシル用に客室を用意してもらった。そしてセシルが客室に行ってる隙に着替えをした。
「さーて、セシルの実家の様子を見てみるか」
「え? 私の?」
「実は、衣装店で君の義母と義妹に会った時にこっそり式神をくっつけておいたから、あ、式神とは使い魔みたいなもんだよ」
俺はテーブルの上にある白い人型の式神の予備を見せた。しかしそれでも素人にはピンとは来ない。ただの人の形に切った紙に見える。
仕方ないのでセシルを客室に返し、俺は一人になって精神統一をした。
◆◆◆
「セシルが市場へ買物行ったっきり帰って来ないわね? どこで、道草くってるのかしら」
「お母様ったら、お姉様の結婚相手が今夜味見に来るって言ってらした大事な日ですのに、何故わざわざ外に出したんです?」
「そのあの子の旦那様になる方に振る舞う料理が必要でしょう? 使用人の支払いが滞ったらシェフも逃げてしまったもの」
「どうせあの人、20も年上の好き者って噂でしょう? 食い気より性欲ではないのです?」
「それでも最低限のおもてなしというものがあるのよ」
「最低限のおもてなしはお姉さまの若い娘の体で十分でしょうに」
セシルの妹は酷薄そうな笑みを浮かべた。
◆◆◆
最悪の会話を聞いてしまった。
結婚前に味見とはな……。
視覚共有をしたのは俺だけなので、セシルはこの会話を知らない。
絶対にもうアイツらに関わらないよう、可哀想だけど、伝えるしかない。セシルをもう一度俺の部屋に呼んだ。
「え……お義母様と妹が味見? 私を売り飛ばす相手に婚姻前に味見させると……?」
セシルの体がカタカタ震えだす。
「そうだ、辛い話だが二度とアイツらに情をかけてはいけないとちゃんと認識するんだ」
「分かり……ました」
セシルは青い顔して泣きながら震えていたので、もう一度抱きしめたけど、今は女性体のままだったので、あまり様にはならなかった。




