14 フレデリカを身請けした
それから俺は元伯爵令嬢フレデリカを身請けした。
「え!? お客様、この子を身請けですか!? ざ、罪人として送らて来た娘ですよ?」
恰幅がよく頭髪が無いタイプの娼館の主は俺の要求に目を白黒させた。
「多分冤罪だからさ」
「冤罪!?」
「まぁ、お前達に迷惑はかけないよ。それどころか真犯人の悪いやつらをシバキ倒したらちょっとだけ分け前もやるし」
娼館の主が分け前と聞いて目の色を変え、それからゴクリと生唾を飲んだ。この手の商売してる奴は金が好きだから金で釣ればいい。
「承知しました」
大金を払って身請けしてしまったが、他の野盗をシバいてまたぶんどればよかろう。
館の入り口で女の子を連れてきた俺を見て護衛騎士が困惑する。
「あの、この娘は?」
「身請けして俺のマッサージ師として雇った」
「はぁ!? しょ、娼館の娘を?」
「十中八九冤罪だから」
騎士達は令嬢を見た。
「あれ?、そういえば彼女に見覚えがある」
騎士は一応騎士爵を持っていて社交パーティーに出ることもある。令嬢は恥ずかしそうに俺の後ろに隠れた。
「フレデリカ・ヒールトン・ハーペレ。元伯爵令嬢だ」
「あ……確かいきなり……きな臭い話で娼館送りになった令嬢が……ああ、ここにおられたのか」
「お前もきな臭いと思ったんだ?」
「ならず者を雇って恋敵を襲ったなんて言われても相手の令嬢は無傷で助けられてますし、その後元婚約者クラメル・レ・ヴェロスラフはまんまともっと家格の高いその襲われかけた侯爵令嬢と新たに婚約してましたし。
邪魔になって悪さした可能性もあるかな? と」
「……バレバレじゃん」
「ですがこの件は侯爵家が絡んでますから、皆きな臭いとは思っても口を噤むのがほとんどです」
「そこは正義感で立ち上がれよ」
「皆自分の生活がありますから……」
騎士は苦々しい表情をした。
「まぁ、いい、俺、私ががやるさ」
「……ちゃんと旦那様に相談してください」
「私も彼女は不憫だとは思うので、協力出来ることがあれば言ってください」
騎士の一人が協力を申し出てくれた。
「お、お前見どころあるじゃん」
「私は傭兵からの叩き上げで騎士になりました。両親は亡くなっていて迷惑をかける実家は有りません。今の主たる辺境伯もこの状況ならきっと、分かって下さるかと」
「そうか、自分の腕っぷしひとつで騎士にまでなったんだな、立派じゃないか」
俺の賛辞を受けて叩き上げ騎士は少し照れたように指先で鼻をかいた。
兎にも角にも俺達は花街から1人の女性を身請けしてタウンハウスに戻った。
そしてフレデリカは客室に待機させて俺と護衛騎士は報告のため辺境伯の執務室へ向かった。
当然名目上とはいえ夫の辺境伯はあまりの超展開に瞠目した。
「どうしてそうなった、ただの市場散策ではなかったのか?」
「旦那様の夜のお渡りもないから寂しくってー」
などと臆面もなく言ってみると、ギロリと睨まれ「嘘をつけ」と返された。内心でテヘペロである。
「まぁ、冗談はさておき、マッサージ師の一人や二人、辺境伯夫人ともなれば雇ってもいいはず」
「夫人は通常花街などいかない、ましてや娼館など」
ちなみにまだ男性体のままである。
そのせいで妙な会話みたいに思えてくる。
「フレデリカは十中八九冤罪で娼館にぶち込まれたんですよ! 気の毒ではありませんか?」
俺は過去陰陽師として悪党を散々見てきた、彼女は恋敵とはいえ、罪のない相手を襲わせることまではしない子だ。
悪い子はもっと暗いオーラを纏っているはずだから。
ちなみに俺が片腕を切り落とした腕組み御者の目からは明らかに嘲りと侮蔑を感じた。
辺境伯への忠誠心も多少あったかもしれないが、あいつからは性格の悪さも感じた。敵対家門からの花嫁なら傷つけてもいいって思ったんだろう。オーラの色もサビ色に濁ってた。
「冤罪だという証拠は?」
「これから探すから」
辺境伯は頭を抱えたが、怒気は感じられない。
根は悪い奴ではない雰囲気なんだよな。
花嫁の出迎えは放棄したやつだけど。
「とにかく確たる証拠を掴むまではあまり派手にはやらないように」
「わかった」
神の式神なら小さいから何とかなるだろう。
人件費もいらない。
「そういえば身請けにいくらかかった?」
「新人元貴族令嬢なのでわりと高かったけど」
「はぁ、侍女を雇ったと思ってこちらが後でその分をそなたに渡そう」
え? 山賊からせしめた金で払ったけど身請け代金貰えるのか?
「それはどうも」
ラッキーだった。




