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攻略対象じゃないと思ったのに、うっかり溺愛ルートに入るようです  作者: 古東 白


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7/10

失態と美女の微笑み(カイン視点)

今回もカイン視点続きます。

 ◇◇◇


 そして、話は今に戻るのだが……。


「くっ!……なん、でも……しますんで。エレノアには、エレノアだけには黙っていてくださいっ!」


「私、この耳でしっかりと、言質を取りましたからね」


 俺は戸惑っている。

 おかしい……この女に対してフィニアス様と同じような恐れを感じるとは、しっかりしろカイン。


 エレノアのため。

 ひいては俺たちの将来への試練と思うんだ。


「あ、カイン様。ちなみに途中で私を見捨てたら全部ばらします」

「……精一杯やらせて頂きます、クラリス様。犬とお呼び下さい」


 俺は深々と頭を床につけた。


「それはちょっと……」


 おや。フィン様なら、当然だ。とおっしゃるのに。

 意外と奥ゆかしい――。


「せめて、馬と言ってね」



 ……同じだろ?



 ◇◇◇


 クラリス家の離れに向かって二人で歩いている。


「どうして、俺がいると気づいた?」

「聞かれても、気付いてしまった。としか、言えませんね」


 俺の闇魔法の『影移動』は完璧なはずなのに。

 ベテランの護衛にだって見つからない自信はある。


「そんな、簡単に気付かれるようなものでもないんだが……」

「ブツブツうるさいですよ。ちゃんと、協力して下さいよね。エレノアに――」

「エレノアの名前は出さないくださいっ!」


 しばらく歩くと、シンプルな小屋が目に入る。


「ここが、『離れ』です」

「え、これは……どう見ても小屋」


 クラリスは、なにも言わずにカチャリとドアを開けて入っていく。


「お母様。いらっしゃいますか?」


 パタパタパタ。


「クラリスちゃーん、お帰りなさい!」


 奥から出てきた人物に驚く。

 ピンクブロンドの髪に水色の瞳。

 滅多にいない色合いの美女だ。


 彼女が、クラリスの母親か。

 顔立ちは似ている。


「ただいま戻りました。少しだけの滞在ですけどね」

「そうなの?すぐに帰るなんて淋しいわ」


 クラリスは、母親に抱き締められているが、あまり嬉しくなさそうだ。

 母娘で温度差があるようだな。


「あら。こちらの方は?恋人?」

「学園の先輩です。それより私の婚約というのは、どういうことですか?」

「ふふ。相変わらずせっかちさんね、二人とも座ってね。お茶を出すわ」


 クラリスが無言で座るので、俺もそれにならって隣に座る。


「あれが、お前の母親か?」

「はい。私の苦労の元凶ですよ」


 愛妾……なるほど。正妻とは全く違うな。


「平民のお母様に、お父様が一目惚れして、私が生まれたんです。それが、私の不幸の始まり」

「ふん……母親を恨んでるのか?」

「恨んでいるというより……他人事というか。この家に引き取られてから、使用人生活ですから」


 ……意外と苦労してるみたいだな。

 令嬢なのに、使用人扱いでメイドの一人も付き添わない。

 貧乏な家ではなさそうだが。


「だが、今は不幸ではないだろう?エレノアとフィニアス殿下については、不幸などと言わせない」

「……もしかして、励ましてくれてますか?」

「事実を言ったまでだ」


 クラリスは、ぷっと吹き出して笑い始めた。


「あらあ、二人とも楽しそうね。どうぞ、粗茶ですが」


 クラリスの母親が、慣れた手つきでお茶を出してくれた。


「ありがとうございます、頂きます」


 スッと鼻に通……らない香り。

 いや、味は。


「ブフゥッ!!ゲホゲホゲホ……こ、これ、はっ」

「すみません……カイン先輩。お母様は、お茶を入れるのが下手なんです。私が淹れ直しますね」


「ごめんねえ、クラリスちゃーん」

「別に大丈夫よ」


 クラリスは立ち上がり、茶器を持って厨房へと消えた。


「ふふ。うちのクラリスちゃん、学園ではどうかしら?お友達できた?」


 柔和な笑みを浮かべる美女。


「あ、はい。俺の、婚……従姉妹が、クラリス嬢の親友です」

「そうなのね、安心したわ。これからもよろしくね」


 ニコニコと両手を握られ、ブンブンと振られる。

 と思ったら、手がピタリと止まった。


「あら……そうね」

「?」


「可愛い小鳥さんね。きちんとアピールしないと、一緒に巣を作るのは難しいわよ?」

「え……それは、どういう――」


「お待たせしました」

「あら、良い香りね。さすがクラリスちゃんだわ」


 クラリスがお茶を持ってきた。


「カイン先輩もどうぞ」

「……美味しい」

「クラリスちゃんは、上手なのよ」


「意外と器用なんだな」

「カイン先輩。私が不得手なのは、魔法だけです」


 しばし、和やかにお茶を楽しむ雰囲気だったはずだが……。


「お母様、婚約を破棄したいです」


 クラリスは、席に着いてすぐに用件を切り出した。


「あら、なぜ?」

「クローリア様に、マリーお姉様に婚約者を譲れと言われました」


「それだけ?」


 クラリスの母は、優しく。

 でも、探るような目でじっと娘を見つめている。

 僅かな緊張が走る。


「……好きな人が、できました……だからっ――」

「やっとね!おめでとうっ!」


 ぎゅうううう!と、強めに娘を抱き締める。


「心配してたわあ!やっと運命にたどり着いたのね」

「運命?」


 クラリスは、ぽかんとした顔をしている。

 この女の、こんな顔は初めてだな。


「でも、婚約者って……」

「そうね。相手からの申し入れで、貴女のお父様が決めただけだし。マリーちゃんに譲ってもいいわよ。でも、一度お断りしないといけないわね」


 クラリスの母は、早口でまくし立てた後に、ぐるんと俺に顔を向けた。


「カインくん。悪いけど、恋人の振りをしてお断りしてきてくれるかしら」


「「は??」」


「あ、ほらあ。息ピッタリ!『リルルの花』というカフェよ。じゃあ、行ってらっしゃい」


 クラリスと共に外へ放り出された。


次回からクラリス視点に戻りますね!

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