失態と美女の微笑み(カイン視点)
今回もカイン視点続きます。
◇◇◇
そして、話は今に戻るのだが……。
「くっ!……なん、でも……しますんで。エレノアには、エレノアだけには黙っていてくださいっ!」
「私、この耳でしっかりと、言質を取りましたからね」
俺は戸惑っている。
おかしい……この女に対してフィニアス様と同じような恐れを感じるとは、しっかりしろカイン。
エレノアのため。
ひいては俺たちの将来への試練と思うんだ。
「あ、カイン様。ちなみに途中で私を見捨てたら全部ばらします」
「……精一杯やらせて頂きます、クラリス様。犬とお呼び下さい」
俺は深々と頭を床につけた。
「それはちょっと……」
おや。フィン様なら、当然だ。とおっしゃるのに。
意外と奥ゆかしい――。
「せめて、馬と言ってね」
……同じだろ?
◇◇◇
クラリス家の離れに向かって二人で歩いている。
「どうして、俺がいると気づいた?」
「聞かれても、気付いてしまった。としか、言えませんね」
俺の闇魔法の『影移動』は完璧なはずなのに。
ベテランの護衛にだって見つからない自信はある。
「そんな、簡単に気付かれるようなものでもないんだが……」
「ブツブツうるさいですよ。ちゃんと、協力して下さいよね。エレノアに――」
「エレノアの名前は出さないくださいっ!」
しばらく歩くと、シンプルな小屋が目に入る。
「ここが、『離れ』です」
「え、これは……どう見ても小屋」
クラリスは、なにも言わずにカチャリとドアを開けて入っていく。
「お母様。いらっしゃいますか?」
パタパタパタ。
「クラリスちゃーん、お帰りなさい!」
奥から出てきた人物に驚く。
ピンクブロンドの髪に水色の瞳。
滅多にいない色合いの美女だ。
彼女が、クラリスの母親か。
顔立ちは似ている。
「ただいま戻りました。少しだけの滞在ですけどね」
「そうなの?すぐに帰るなんて淋しいわ」
クラリスは、母親に抱き締められているが、あまり嬉しくなさそうだ。
母娘で温度差があるようだな。
「あら。こちらの方は?恋人?」
「学園の先輩です。それより私の婚約というのは、どういうことですか?」
「ふふ。相変わらずせっかちさんね、二人とも座ってね。お茶を出すわ」
クラリスが無言で座るので、俺もそれにならって隣に座る。
「あれが、お前の母親か?」
「はい。私の苦労の元凶ですよ」
愛妾……なるほど。正妻とは全く違うな。
「平民のお母様に、お父様が一目惚れして、私が生まれたんです。それが、私の不幸の始まり」
「ふん……母親を恨んでるのか?」
「恨んでいるというより……他人事というか。この家に引き取られてから、使用人生活ですから」
……意外と苦労してるみたいだな。
令嬢なのに、使用人扱いでメイドの一人も付き添わない。
貧乏な家ではなさそうだが。
「だが、今は不幸ではないだろう?エレノアとフィニアス殿下については、不幸などと言わせない」
「……もしかして、励ましてくれてますか?」
「事実を言ったまでだ」
クラリスは、ぷっと吹き出して笑い始めた。
「あらあ、二人とも楽しそうね。どうぞ、粗茶ですが」
クラリスの母親が、慣れた手つきでお茶を出してくれた。
「ありがとうございます、頂きます」
スッと鼻に通……らない香り。
いや、味は。
「ブフゥッ!!ゲホゲホゲホ……こ、これ、はっ」
「すみません……カイン先輩。お母様は、お茶を入れるのが下手なんです。私が淹れ直しますね」
「ごめんねえ、クラリスちゃーん」
「別に大丈夫よ」
クラリスは立ち上がり、茶器を持って厨房へと消えた。
「ふふ。うちのクラリスちゃん、学園ではどうかしら?お友達できた?」
柔和な笑みを浮かべる美女。
「あ、はい。俺の、婚……従姉妹が、クラリス嬢の親友です」
「そうなのね、安心したわ。これからもよろしくね」
ニコニコと両手を握られ、ブンブンと振られる。
と思ったら、手がピタリと止まった。
「あら……そうね」
「?」
「可愛い小鳥さんね。きちんとアピールしないと、一緒に巣を作るのは難しいわよ?」
「え……それは、どういう――」
「お待たせしました」
「あら、良い香りね。さすがクラリスちゃんだわ」
クラリスがお茶を持ってきた。
「カイン先輩もどうぞ」
「……美味しい」
「クラリスちゃんは、上手なのよ」
「意外と器用なんだな」
「カイン先輩。私が不得手なのは、魔法だけです」
しばし、和やかにお茶を楽しむ雰囲気だったはずだが……。
「お母様、婚約を破棄したいです」
クラリスは、席に着いてすぐに用件を切り出した。
「あら、なぜ?」
「クローリア様に、マリーお姉様に婚約者を譲れと言われました」
「それだけ?」
クラリスの母は、優しく。
でも、探るような目でじっと娘を見つめている。
僅かな緊張が走る。
「……好きな人が、できました……だからっ――」
「やっとね!おめでとうっ!」
ぎゅうううう!と、強めに娘を抱き締める。
「心配してたわあ!やっと運命にたどり着いたのね」
「運命?」
クラリスは、ぽかんとした顔をしている。
この女の、こんな顔は初めてだな。
「でも、婚約者って……」
「そうね。相手からの申し入れで、貴女のお父様が決めただけだし。マリーちゃんに譲ってもいいわよ。でも、一度お断りしないといけないわね」
クラリスの母は、早口でまくし立てた後に、ぐるんと俺に顔を向けた。
「カインくん。悪いけど、恋人の振りをしてお断りしてきてくれるかしら」
「「は??」」
「あ、ほらあ。息ピッタリ!『リルルの花』というカフェよ。じゃあ、行ってらっしゃい」
クラリスと共に外へ放り出された。
次回からクラリス視点に戻りますね!




