クラリスの婚約(3)
カインは何故、クラリスの実家にいたのか。
カイン視点です!
(カイン視点)
◇◇◇
それは、早朝の出来事だった。
「カイン、そこにいるわよね?」
部屋の窓を開けたエレノアが外に向かって話しかけた。
「私、どうしたらいいのかしら……」
「エレノア、どうした?」
ここは、学園の寮。
俺は、エレノアの窓辺に近い木に上って声をかける。
「昨日、クラリスが実家に帰ってしまったのよ」
「帰省だろう?」
「そうだけど、そうではなくて。クラリスが、結婚してしまうかもっ!」
「ふうん?いいんじゃないか」
クラリス。
あの女は、俺の主であるフィニアス第三王子殿下の想い人だ。
だけど、見ていると行動が怪しい。
必ずといっていい程に、フィニアス殿下の行く先々に現れる。偶然か、否か。
第一王子か、第二王子。どちらかの派閥の間者ではないか?と、疑っている。
だが――。
その事をエレノアに言うと。
『クラリスが怪しいですって?彼女は私の親友よ。悪く言わないで』
俺の主も。
『クラリスが何だって?カイン。俺の耳に聞こえなかったから、もう一度言ってみろ』
この後、推定三日間かかる任務を命じられた。
そのせいでエレノアに会えなくなったが、最後の一日は繰り上げて終わらせた。
俺は任務に関しては優秀な方だと自負している。
主に言わせると、『俺の合格基準にはまだ遠い』そうだが。
……まあ、それはいい。
今はそう。可愛いエレノアの話だ、聞いてやろう。
「心配だから、見てきてほしいの。お願いよ、カイン」
「あの女のことは、どうでも――」
エレノアのお願いは聞いてやりたいが、主の許可をとらずに勝手に動くことは出来ない。
……あの主なら、行けと命令するだろうが。
俺はまだあの女を疑っているんだ。
「こんなこと……貴方にしか頼めないもの」
目を潤ませて俺を見つめるエレノア。
「ぐっ!」
心臓を撃ち抜かれたような衝撃だ。
エレノアなら、きっと俺を心臓麻痺で殺せるだろう。
「……可愛いすぎるだろ……」
俺はエレノアの部屋へと飛び移り、彼女の細い両肩に手を置いた。
慰めようと、そっと腕を広げ――。
瞬間、エレノアが顔を挙げる。
「……可愛い?そうよ、可愛いクラリスが大変な目にあってるかもしれないわ!」
そういうと、エレノアは涙を拭いキリッと表情を引き締めた。
「やっぱり、フィニアス殿下に相談するべきだわ。行ってくる!」
バタン!
「あ……」
抱き締めようとした両手は行き場をなくした。
◇◇◇
「エレノアから報告を受けた」
俺は主の前で跪いている。
「クラリスに関しては、逐一報告するように厳命してたはずだが?やはりエレノアとの婚約は――」
「申し訳ありませんでしたっ!婚約破棄だけは、勘弁して下さい!!!」
「……カインの働き次第だな。早く一人前になって、俺を安心させろ」
「わかりました」
フィニアス殿下は、ネチネチ嫌味と脅しをセットにして、俺に命令を下した。
「あと、お前は情報収集の経験が浅いだろう?」
確かに。
フィニアス殿下の側にいるが、情報収集に関しては先達には到底追い付いてない。
「クラリスを取り巻く環境を、お前の目で直接確認してこい」
「……はあ。分かりました」
あの女の家ってことか?
環境なんて、二人とも心配しすぎだろう。
どうせ、主の前で猫を被っているだけで、傍若無人に違いない。
まてよ。
この機会に、あの女の弱味を握るのもいいんじゃないか?
そんな、とても軽い気持ちで任務に出た。
――と、思っていた己を殴りたい。
俺は――。
その怪しいと疑った女に対して、失態をおかしてしまっていた。




