後編
投稿いたしました後編です。
◇◇◇
「クラリス。ガレンから聞いたけど……」
翌日の夜。
フィン先輩が慌てて私の様子を見に、女子寮まで来てくれた。
「うっかりしてたよ、ハンカチの時か。俺が貰ったからだな……保護魔法もかけておくんだった」
「フィン先輩……クラリスは、熱があるんです。ハンカチに刺繍するのに、無理したみたいで」
そうなのです、発熱したんです。
おかしいわね。
丈夫なだけが取り柄なのに。
慣れない刺繍で、睡眠時間削っていたところへ、モブ襲来で疲れが出たのかも。
「先輩……試験、試験はどうでしたか?」
掠れる声で先輩に聞いた。
「……合格したよ。クラリスのおかげだ、ありがとう」
穏やかな顔で私にお礼を言ってくれた。
「次は、貰いすぎないように気を付けるね」
「ハンカチですか?」
「……何でもない。気にしないで」
まさか、他にもファンからハンカチを!?
「フィン先輩。用事があるので、クラリスの傍にいてもらえますか。一刻程で戻ってきます」
「ああ、もちろん。俺がみてるから、行ってきていいよ」
エレノアが退室して、フィン先輩と二人きり。
「クラリス、心配したよ」
フィン先輩は、私のおでこに当てた手を頬に滑らせて、首筋まで下ろす。
くすぐったくて身動ぎする。
「せ、先輩!?」
「まだ、熱が高いな。」
「あ……」
……色気のある話ではなかったわ。
「……動けない女の子を襲うような事はしないよ」
「す、すみません。フィン先輩」
勘違いが恥ずかしくて、布団を引っ張って顔を隠す。
「”先輩”ね……フィン。ほら、そろそろフィンって言って」
顔を寄せて、フィンが私をじっと見つめている。
「フ、フィン……」
「良くできました、今度ご褒美をあげるよ。だから、大人しくして早く熱を下げてね」
フィン先輩あらため、フィンが約束してくれた。
よし、ここでもっと近づきたい。
「私も、フィンの合格のお祝い、したいです」
「うん、楽しみにしてるよ。さあ、少し寝るといい」
フィンは私の眼をそっと閉じさせた。
優しい暗さの中で、あっという間に私は意識が沈んでいった。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ますと、部屋には誰もいなくて、朝の静けさが広がる。
ガチャリ――。
「あっ、起きてたのね。クラリス、調子はどう?」
エレノアはベッドサイドまで来ると、私と自分の額に手を当てた。
「熱は下がったみたいね、良かったあ」
ほっとした表情を浮かべるエレノア。
「クラリス、今度から無理は禁止よ。フィン先輩もすごく心配してたわよ」
「フィン先輩……あれ、夢かと思ってた」
『フィンって言って』
昨夜のフィンの声が脳内で再生される。
頬がじわじわと熱くなる。
「あら、何かあったの?」
「……フィンとは、何もなかったわよ。話しただけ」
「ふふ。フィンですって、まあ、聞かないでおいてあげるわ」
エレノアは『分かってるわ』って、表情だけど、深く聞いて来なかった。
◇◇◇
「エレノア、おかしくない?」
「可愛いわよ、大丈夫」
今日はフィンとのデートの日。
エレノアに髪を手伝ってもらった。
「どこで待ち合わせ?」
「寮の前よ」
「寮の前、なるほどね。フィン先輩もなかなかやるわね」
「なにが?」
エレノアは意味ありげに笑うだけだった。
寮の前に向かうと、もうフィンが待っていた。
「フィン……尊い」
学園は休みで、人通りも多い。
その中でも、フィンはとても目立っていた。
女生徒が何人か視線を向ける。
けれど、フィンは私の方だけを見ていてくれた。
「フィン、お待たせしました」
「さあ、クラリス。行こうか」
『推し』の私服が眩しくて……眼福です。
「……クラリス」
呼ばれて顔を上げる。近い。
「その黄色いワンピース可愛いね。とてもよく、似合っているよ」
「フィンも、素敵です!」
お互い褒めあい、和やかな雰囲気だ。
「寮の前での待ち合わせも多いんですね」
「そうだね、恋人や婚約者同士かな」
『フィン先輩もなかなかやるわね』
エレノアの言葉を思い出した、まさかね。
「あつ、暑いですね。今日は」
「ん?クラリス、顔が赤いよ。また熱?」
フィンに額を触られた。
更に頬が熱い!
「だ、大丈夫、です!」
「君がそう言うなら、行こうか」
フィンは、スマートにエスコートしてくれた。
「今日は、俺のお気に入りの場所に連れていきたいんだ。いいかな?」
「もちろんです」
フィンの好きな場所、好きなもの。
全部知りたい。
「ここは、俺が好きな本屋。少し、流行りじゃない物も置いてある」
カランとベルの音がして扉を開けると、古い紙とインクの香りがする。
「――自分好みの本を見つけた時が、最高の気分なんだ」
「私も、見つけた時は気持ちが良かったです」
ふふ、フィンの事だけど。
「俺もだよ……見つけたもの。目の前にいるけどね」
フッと小さく笑みを浮かべたフィンは、とてつもなく色っぽかった。
「め、目の前って……まさ、か」
「しっ。本屋さんでは静かにね」
フィンの親指が、私の唇にかかり……。
「髪の毛、唇に挟まってたよ……どうかした?」
また……か、勘違いしてた!
キス、されるかと思って心臓バクバク……。
「……あ、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。きちんと順序を踏んでからだよ」
「……え?」
「まだ回るところがあるから、本を選んでしまおう。俺がプレゼントするよ」
「は、はい」
熱くなった頬を抑えながら、これという一冊だけ、手にとった。
青地に金色の文字で箔押しされた詩集。
フィンと同じカラーリングで一目惚れした。
「クラリス、お目が高いね。それは恋人に贈る詩の本だよ」
「恋人に?」
「俺からのプレゼントでいい?」
え?それ、って。
「さあ、次のデート先に行こうか」
フィンは私の手に指を絡めてきた。
ぽかんとしたまま、フィンに手を引かれて歩く。
「ま、まってください!」
「どうしたの?」
私はその場で立ち止まって、フィンの手を引っ張った。
「……聞いていいですか?」
「うん?いいよ、どうぞ」
すーはーすーはー、息を整える。
「間違ってなければ、フィンは私の事……好きなんですか?」
フィンが固まった。
あー心臓がドキドキ苦しい。
「……バレた?」
照れ臭そうに顔を片手で隠す。
もう片方の手は、少し力を込めて握ってきた。
「うっ、フィン尊い……照れ臭そうに笑う顔が、最高に萌える」
興奮してブツブツ呟いた。
「ふふ。クラリスは相変わらず面白いね」
「相変わらず……面白い?」
「うん。前からクラリスの事は知っていたんだ。内緒にしていたわけではないんだけど――」
フィンはぐっと手を引っ張った。
「ここでは話しづらいから、食事でもとりながら話そうか」
予約していたというレストランで個室に通される。
「まずは、食事をしようか。嫌いなものはない?」
「え、はい。特にないですね」
「じゃあ、俺が決めてしまうね」
フィンはスムーズに注文をして、あっという間に楽しい食事も終わる。
食後のお茶と、デザートをいただきながら、話し始めた。
「クラリスを知っていたのは、俺が君を監視していたからなんだ。ごめんね」
「監視されてたんですか?」
「うん。王族子息の様子を窺う怪しい子がいるって」
ああ!
確かに、最初の頃はストーカーみたいな行動してたわね。
「そ、それは、危害を加えようとではなくって!」
「うん。すぐに危険はないって分かったよ」
「……良かった」
下手したら不敬罪だったということ?
背中がぞくりとする。
「フィン……監視ってことはもしかして――」
「しー。それ以上はダメだよ」
私、結構危ない橋渡ってたの!?
顔が青ざめていく。
「大丈夫だよ。あのバカ王子に不敬罪とかで処罰されないから。その前に俺が――」
「わ、分かりました!黙っています」
何だか……物騒だわ。
「さすが、俺のクラリス。賢くて可愛いね」
すっごく良い笑顔で褒めてくる。
いつの間にかフィンのものになってる?
「あの、私がフィンに近づいた時、警戒しなかったんですか?」
「クラリスを監視してたから、大体性格は把握してた。俺の顔好き?」
「それはもちろん!」
「……良かった」
ここで、フィンは真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「……俺もクラリスが好きだよ、恋人として一緒にいてくれる?」
「……はい。私こそ。フィンのそばにいたいです……」
「俺の顔だけが、好きじゃないよね?」
「それは、フィンの全部が好きですよ!裏の顔も含めて――」
ヤバい!
うっかり口を滑らせた……。
ふいに目の前に影が落ちる。
「それ以上は、秘密だよ」
その瞬間、私は悟った。
フィンの両手が頬に添えられて、耳元で艶っぽく囁かれる。
「ねえ、今の皇太子は女好きでなにも考えてないと思わないかい」
「……そ、そうですね?」
攻略対象の第二王子のことだ。
いつも違う女性を連れていて、勤勉さを欠く。
しかし、第一王子は体が弱い。
王家の未来は、内乱が起きそうなくらいには揉めそうだ……。
「ふふ、クラリス。君は色々知ってそうだね」
私の気持ちを見透かすように見つめている。
「そうだ。騎士団試験の前に、君から魔法で運を少しだけ貰ったんだ。怖い目に合わせてごめんね」
「あれは……やっぱり魔法のせいだったんですね」
モブとの遭遇や、体調不良の事だろう。
運を奪うって……確か、黒魔法だよね?
隠しキャラが得意だった気がする。
王家には、実は三人の王子がいる。
腹違いの、隠された第三王子。
……もしかしてフィンは――。
「君が俺を選んでくれてうれしいよ。……二人で、王家を乗っ取るとか楽しそうだよね?」
フィンは、妖しげで綺麗な笑みを浮かべた。
――私はどうやら、隠しキャラの闇落ち王子ルートを攻略していたようです。
前後編で、気合いが入れば連載できたらいいな、と思います。
お読みいただきありがとうございました!




