前編
一度間違えて短編設定で出してしまったものを、直して投稿しています。
申し訳ありません。
18禁乙女ゲーム『スキャンダラス・ラブファンタジー』世界。
「気付いたら、異世界転生してました……ってやつね」
私の姿は、選べる三人のヒロインの中、一番の地味子。
ようはサブキャラに近いんですよねー。
「って、誰が地味子よ!何勝手に決めてんのよっ!」
周りに人がいないことを確認してからツッコミを入れる。
「攻略対象は――第二王子、宰相の長男、騎士団長の三男、魔術師団団長の次男」
そこで首を捻る。
「あと――隠しキャラが何人かいたかしら?」
忘れたわ。きっと私と同じで地味なのよ。
スキャンダラス・ラブファンタジーの謳い文句は『さあ、貴女は誰と刺激的な恋をする?』。
……恋愛に夢を見てた時期が私にもあったの。
現実は、メインヒロインはただの可愛いモテ子。
攻略対象もただのイケメン。しかも一部は女好きでした。
「捻りがなくてつまらない」
ボソリと呟く。
――でも、魔法が使える世界なのはとても楽しい。
自然由来の火・水・土・風の四属性と、光と闇の二属性がある。
この辺りはゲームの設定通り。
魔力を手のひらに集めて、水を生み出し、風で水をくるくると回す。
小さな洗濯機みたい。
「あっ!」
でもすぐに魔力が途切れて、スカートの裾に少し水がかかった。
床の水を眺めてため息をつく。
「まあ……こんなものよね」
魔力の低い平民の血を引く庶子だから。
私は貴族の父が浮気した平民との子供。
邸には住まわせてもらってたけど、扱いはメイド以下だから、学園に逃げてきた。
母は貴族の父と、相変わらずいちゃいちゃしてるみたい。
正妻の奥様と毎日バトルとか、どうでもいいわ。
ここでは義理の姉兄にも会う事も少ないから、快適よ。
私がここの学園に来た理由は――
「将来の夫探し!」
これにつきるでしょ。
攻略対象なんて、高位貴族はダメよ。
いつか誰かに毒を盛られるわ。
私ってば、リアルでモテイケメン見過ぎると萎えるのね。
目の前を美男美女が通りすぎる。
「ここは、貴族子女の学園だものね」
明らかに容姿が違う人もいるので、ゲームだって分かりやすい。
「……恋人作り頑張らないとっ」
気合いを入れる。
「私は、穏やかで優しい人と恋を育んで……」
モテすぎなくていい。
あっ、でも容姿は好みの人がいいな。
うかうかしてると、貴族の父に勝手に婚約者を決められてしまうわ。
容姿しか取り柄がない母からも、『喜びなさいお父様が嫁ぎ先を決めてくれるそうよ。』なーんて手紙がきてた。
ぶっちゃけると、私の容姿は悪くない。スタイルも良い方だと思う。
焦げ茶の髪色と、薄茶色の目の色なんていう地味なカラーリングなだけ。
だけって言うけど、そこが乙女ゲームではウケなかったのよね。
「とりあえず、日課の図書室で勉強と読書をしようかな」
この世界に来てから、独り言が多くなった気がする。
誰にも転生だなんて理解してもらえないもの。
図書室は静かで真面目な生徒しか利用しない。
貴族の生徒は、家庭教師がついてるし、本も好きなだけ買ってもらえるから。
そーっと図書室の古めかしい扉を押すと、ギィーッと音がして中に開いた。
コツコツと書架の間を歩き、窓際の読書コーナーに目を向ける。
「今日も……尊い……」
お気に入りの先輩。いわゆる『推し』がそこにいた。
胸が高鳴る。
読書コーナーの窓の側で、壁に背中を預けて長い指でページを捲る。
金の長い髪を一本にリボンで纏めている。
時折、光が反射してキラキラしてる。神々しい――
「……フィン先輩」
小声で呟いただけなのに、彼は顔を上げた。
「こんにちは、クラリス」
優しくて落ち着いた声、思わず胸がキュンとする。
静かに近づく。
「せせせ、先輩!こんにち――」
んぐ!と言葉を飲み込む。
先輩は「しーっ」と私の口に指を立てた。
「クラリス、少し声が大きいよ」
微笑みながら私に注意してくれる。
推しの指が唇に当たってる、はあ。
「す、すみません……先輩、こんにちは」
羞恥と照れで、頬が熱くなる。
「クラリスは今日も元気だね。また、詩を読みに来たのかい」
「はい。新作が入ったと聞いたので、読みに来ました」
これは嘘。
本当はフィン先輩に会いたかっただけ。
――フィン先輩との出会いはひとつき前。
この世界の攻略対象以外の結婚相手を探すのはなかなか大変だった。
なぜかって?
もれなく『R18』だからよ!
学園の色々な場所でいちゃいちゃしている。
公共の場所ではR15程度だけど。見えないところからは、台詞や音はR18だ。
しかし、どちらも刺激が強いのには変わりない。私には無理!
そこで、せめて静かな場所で過ごそうと、向かった図書室で見かけたのがフィン先輩だった。
思わず体が動いていた。
『あ、あの!』
『君は?』
顔を上げた先輩と、目が合う。
『私は、クラリス――』
『クラリス、図書館では静かにね』
その台詞だけで、落ちた。
ううん、多分一目惚れ。
イケメンなんてって思ったけど、好みのイケメンは神だわ。
物静かで優しい笑顔、柔らかい物腰。立ち振舞いも、好みど真ん中。
『フィン先輩こんにちは』
『クラリス、本が好きなんだね』
『はい、好きです……本がとても』
少しの会話だけ。
それだけで充分だったわ。
私は、少しでも力のある貴族の家の相手を見つけないといけない。
幾ら位の低い子爵家といえど、家長の言うことは絶対だ。変な家に嫁がされたりするのは死んでも嫌。
「クラリス、今日も詩の読みあいをするかい?」
「はい、ぜひ」
即答に決まってる。
私は詩に興味はなかったけど、先輩が好きだから私も勉強した。
おかげで教養の成績は良くなったわ!
読書コーナーの端のソファ席で、二人で詩の読みあいをして、解釈や意見の交換をしあう。
至福の時間。
「お前は本当に可愛いな」
「いえ、そんな」
男女の耳障りな声が聞こえてきた。
あれは、第二王子かしらね。
「……先輩、少し暑いようです。窓を開けて来ましょうか」
王族に注意なんて出来ない、首が飛ぶ。
立ち上がると、フィン先輩が私の手をそっと掴んだ。
「俺も行くよ」
先輩が私の手を引いてエスコートしてくれた。
先輩!フィン先輩の手!
ヤバい、あったかい、紳士なイケメン!
内心身悶えしていると、先輩は私を見て苦笑した。
二人で場所を移し、静かに読書をして閉室まで過ごす。
すぐに日は暮れてしまう。
本当は……もっと一緒にいたいのに。
「じゃあ、クラリス。また図書室でね」
「はい、フィン先輩おやすみなさい」
「おやすみ」
別れ際に挨拶すると、そっと頭を撫でられる。
そんな静かな毎日を送っていた。
◇◇◇
「フィン先輩はね、もうすぐ学園を卒業。進路は近衛騎士団希望しているらしいわ」
寮で同室のエレノアがフィン先輩の事を教えてくれる。
「うんうん」
そこは、私も先輩から話を聞いている。
「詩が好きで嫋やかそうに見えて、実はバリバリの騎士一家の末っ子だそうよ!」
「伯爵家だっけ」
エレノアは頷いた。
相変わらず、情報通ね……。
「図書室以外は、ずっと鍛錬をしているんですってよ」
「そうなの!?エレノア……あなた何者?」
あ、ゲームの中ではお助けキャラだったわね。
でも今は私の大親友よ、えへん。
「しっ。夜の寮で、あまり大きな声を出すと注意されるわ」
「……わかったわ」
声を抑える。
「……じゃあ先輩に恋人とか婚約者は?」
一番気になってることよ。
人のものを取るような趣味はないし、聞くのも怖かったのよね。
「いたら貴女と図書室で会ったりしないと思わないの?」
「……フィン先輩は優しいから、断れないだけかも」
「ばかねえ。婚約者や、恋人がいる男性は、他の女性と約束しないわ……一部、堂々と愛人囲うような人は違うようだけど」
一部の人たちか。貴族の父然り、ゲームの攻略対象……やだやだ。
「それに、フィン先輩は誰にでも優しいわけじゃないわ」
「え?」
「ここからは……フィン先輩の元婚約者に繋がる話しなんだけど」
エレノアは更に声を落とした。
「婚約破棄の理由が、お相手の心変わりだったそうよ。それ以来、女性には一歩引いて接しているわ」
「……そうなのね。そんなことが」
ぎゅっと胸の奥が締め付けられる。
「婚約者に、裏切られるなんて、どれだけ辛いのかしら……」
「クラリス。だから、フィン先輩は誰にでも優しいわけではないわ。自信を持ちなさい!」
バンっと背中を叩かれる。
「痛っ!もう、エレノアったら……自信ね、ありがとう」
「ふふ。クラリス、フィン先輩に応援のハンカチをあげるんでしょう?喜ぶわよ!」
エレノアが私の手元に目を向ける。
「……そうよ。喜んでくれるといいな」
ハンカチをそっと手に取る。
「大丈夫だわ、自信を持って!」
両肩をガクガクと揺さぶられた。
この子、力強いわね。
◇◇◇
「フィン先輩来てくれるかしら?」
学園の静かな裏庭にフィン先輩を呼び出した。
明日は、騎士団入団試験だ。そわそわしながら待つ。
「クラリス、待たせたね」
……息が、上がってる。
「ごめん。訓練が長引いて」
急いで……来てくれたんだ。
「フィン先輩……これ、明日の試験頑張ってください」
「俺に?クラリスが刺してくれたのか……」
フィン先輩に渡した後、思わず視線を落とす。
「クラリス、顔を上げて。この刺繍のモチーフ、俺が好きな詩のものだね」
「あ、あの。下手なので……あまり見られると……」
ハンカチを広げてじーっと見ているフィン先輩。
恥ずかしすぎて、目を瞑った。
「……クラリス、はい」
フィン先輩は、少し笑って、私の手を取った。
ハンカチを丁寧に畳んだ後に、私の手に乗せる。
「え、あの……返すって事ですか?」
「違うよ」
フィン先輩は私を見つめて、両手で私の手を包み込む。
「クラリス、ありがとう。俺、頑張るよ……よほどの事でもない限り、合格するから安心して」
先輩は、私の手を下から支えて、ハンカチにキスをした。
フワリと淡い光がハンカチに吸い込まれて、掌が熱くなる。
それと同時に何かがスッと抜ける気がした。
「本当は、手のひらにしたいけど。我慢しとく。クラリスの幸運を少しだけ貰うね。ハンカチありがとう」
フィン先輩は綺麗な笑みを浮かべた。
そして、私の手をぎゅっと握って、ゆっくりと離れる。
フィン先輩が去った後、思わず足の力が抜ける。
――この時に、何かが抜けたっていう。違和感の正体に気付くべきだった――
◇◇◇
「誰よ、フィン先輩は……R18じゃないって言ってたの。何あの色気……」
雰囲気に充てられてしまった、R18の世界ヤバいね。
「おや、こんなところに可愛い子がいる」
「俺たちと遊ぼう」
げっ!何か、変な人たちが出てきたわ。
運が悪いわね。
それにしても……ゲームそのままの台詞なのね。
「用事は特にないので帰ります」
一人にササッと行く手を阻まれる。
こういうの素早いわよね、モブのくせに。
「へへへ、こっちこいよ」
「抵抗すんなって」
手首を掴まれて、引き擦られそうになる。
「痛っ!」
ちょっと!ヒロインがこういうイベントに遇うはずでしょ。
なぜ私っ……て、サブだけど一応ヒロインだった。
ゲームの設定を無視していたから、すっかり忘れていたわ……。
「おー、楽しそうだなお前ら」
低くて艶のある声がしたと思ったら、二人が吹っ飛んだ。
「うぐ……だ、誰だ!ってガレン!」
「ちっ、覚えてろ!」
逃げ台詞も、まあ、お決まりね。
助けてくれたのは、攻略対象の一人、火の魔術が使えるガレン先輩だ。確かフィン先輩と同じで、騎士団に入団するはず。
「おい。大丈夫か?」
ふと手を見ると、引っ掻き傷が……まさか、私を助けたせい!?
「血が出てます!」
慌ててポケットの中からハンカチを取り出す。
「いや、これは訓練で――」
有無を言わさず、魔法で出した水で傷口を洗い、ハンカチを充てる。
「きちんと消毒はしてください。あ、助けてくださってありがとうございました!」
「いや、あいつらが悪いだろ」
「そうですけど……ハンカチは返さなくて大丈夫です。それ、フィン先輩に渡すハンカチの失敗作なんで」
「ああ、フィンのツレか。って、失敗作かよ、これ」
ガレン先輩は面白そうに笑った。
「有り難くもらっとくな。人がいるところまで送ってやる、気をつけて帰れよ」
頭を軽くポンポンと叩かれた。
ここで、普通の人は『キュン』と来るとこだけど。残念ね、私はそう甘くはないわ。
後編に続きます!




