王太子の庭園④
「⋯⋯ごめんなさい、クラリス。貴女が悪いわけではないのは分かっているわ。でも、この醜い嫉妬が止まらないのっ!!」
アレクサンドラ様の悲痛な叫びと共に氷の薔薇が崩れ、無数の氷片が私に向かって一斉に飛んできた。
「⋯⋯フィンっ⋯⋯!」
大好きな人の顔が走馬灯のように浮かび⋯⋯。
「うん」
見上げると、フィンの顔が見えた。
「影穴」
フィンが、地面に手をつけると黒い影が広がり、私とフィンを飲み込んだ。
落ちる感覚に思わず目を瞑る。
「クラリス。目を開けていいよ」
そう言われて、恐る恐る目を開ける。
私は、数メートルほど離れた、アレクサンドラ様と王太子殿下の背後に移動していた。
先ほどまで私がいた場所には、大量の氷の破片が突き刺さっている。
大きなものは私の腕より長く、思わずゾッとした。
「寒かったね、こんなに冷たくなって」
フィンは、温かい息を私の手に吹きかけ、上着を脱いで私の肩に掛けてくれる。
「少し待ってて」
立ち上がったフィンは、アレクサンドラ様に向かい静かに話しかけた。
「義姉上。このままでは、貴女は兄上と離されて祖国へと帰ってもらうことになりますよ」
「どうして離れなくてはいけないの?私はオーリーの横に立つの⋯⋯嫌!私は嫌よ、そんな事は許されないわ!」
アレクサンドラ様は、ありえないという表情をする。
地面に倒れていた王太子がその声で目を開けた。
「ひとつ。第二王子を何かの手で操り王家の宝を私欲に利用した」
「⋯⋯サラ、本当か?」
王太子がよろよろと立ち上がり、アレクサンドラ様に近づいて両肩を掴んだ。
「次。他の王子の婚約者である、聖女の娘を傷つけようとした。これは、罰は免れないでしょう」
フィンは冷たい声で言った。
「それに、隣国の公女である義姉上なら、聖女の存在がどれだけ重要かお分かりですよね?」
「⋯⋯聖女の力で我が国は潤っていたわ。でも⋯⋯私は、ただオーリーの傍にいたかったのよ!」
泣き崩れて座り込むアレクサンドラ様。
その姿に胸が締め付けられる。
私だって、フィンが他の女性に心を向けたら胸が苦しくなるわ。
「フィン⋯⋯あの」
私がフィンの手を引っ張ると、にこりと笑って私の頭をそっと撫でた。
「⋯⋯俺のクラリスに苦しい思いをさせたのは許せませんが、元はと言えば兄上がしっかりしないからですね」
王太子殿下をじっと見据えた。
「⋯⋯はは、手厳しいな」
「俺は、婚約者に寂しい思いはさせません。嫉妬もさせたくもありません」
そう言って、フィンは私を抱き上げる。
いつの間にか凍っていた地面に土が見えていた。
「⋯⋯確かに、サラには最近会えていなかった。俺の、怠慢だな」
「婚約者を放置するほど王太子が大変なら、その座を俺に下さい。俺なら、王座もクラリスも両立させますよ」
フィンは真面目な顔で王太子殿下に告げた。
「フィニアス殿下!第三王子とはいえ、王太子殿下に向かって不敬だわ!」
「王家の知識を利用したそれを言えますか?」
「⋯⋯王太子妃としての、自覚と覚悟が甘かったわ⋯⋯ごめんなさい」
フィンは、それ以上言わずに二人に背を向ける。
そして、肩越しに顔だけ向けて静かに言った。
「あとは、お二人で話し合ってください。俺はクラリスが心配なので失礼します」
歩き出すフィンに私はお礼を言った。
「⋯⋯フィン、助けてくれてありがとう」
フィンは目を丸くしたあとに、笑い出した。
「クラリス、君はすぐに巻き込まれるね。俺は君といると飽きないよ」
「それ、褒めてないわよね」
「俺にとっては最高の褒め言葉のつもりなんだよ」
フィンの肩越しに、王太子の声が聞こえる。
「サラ。最近、君と向き合えていなかったのは私の落ち度だ。すまなかったね」
「⋯⋯ごめんなさい、私も王太子妃としての自覚が足りなかったわ」
フィンが、苦笑いした。
「はあ⋯⋯クラリス、ごめんね。時々、あるんだ」
え、こんなラスボスステージみたいな痴話喧嘩が何度も起きているの!?
「ただ、今回義姉上はやりすぎだ。さすがに、お咎めはあるだろうね」
何をやり過ぎたのかしら?
フィンに聞くと、微妙な顔をされた。
「アントニオの事聞いてないかな?」
私はぶんぶんと、頭を横に振った。
「あいつを唆したのは義姉上で、第二馬鹿王子は宝物庫を開けるために利用されてた」
さり気なく第二王子をディスったわね。
「そうだったのね」
「まあ、アントニオとかいう塵に関してはもう安心してね。全部終わったよ」
とてもいい笑顔で話したフィンに、何をしたかまでは聞かなかった。
「あ。フィン、頬に傷がついてるわ」
うっすらと赤い線が出来ている。
「こんなの傷に入らないよ」
「でも」
そっとフィンの頬に触れると、小さな淡い光が手のひらから出た。
みるみるうちにフィンの頬が陶磁器のようにつるつるに戻る。
「クラリス」
「ひっ!」
笑顔が怖い。
「秘密だよ」
もちろん、私は無言で頷いた。
◇◇◇
後日、私はカイン様にアントニオの結末を聞く事になる。
その時、カイン様には「いいか、今後は面倒な事に首を突っ込むな。俺の首が飛ぶ!」と言われたので。
「向こうから、トラブルが来るんです」
「そういうところだ!」
眉間に皺を寄せて怒られた、何故?
王太子の庭園とりあえず完結です。
次回の展開をお楽しみにm(_ _)m




