王太子の庭園①
私はアレクサンドラ様に、半ば引きずられるようにして、ガゼボに到着⋯⋯してしまった。
ガゼボには、まるで一枚の絵画のように、お茶を嗜む王太子殿下の姿があった。
いや、いるのは見えていたけれどね。
それにしても、近くで見るとすごい美形だ。
フィンとも似ている。
「クラリス、何を⋯⋯しているのかしら?」
「あっ!?はいっ何でもありませんっ!」
ふう、危ない。
ゲームスチルを思い出して、思わず指で額縁を作っていたわ。
「見惚れていたのね。気持ちは解るけれども駄目よ、あの方は私の婚約者だもの」
「いえ、そういうわけでは⋯⋯」
アレクサンドラ様が、少し拗ねた言い方をした。
拗ねても美少女、絵になるわ!
「安心してくれ、アレクサンドラ。私も君だけだよ――」
「まあオーリー。私たち相思相愛ですわね」
二人が見つめ合って手を取り合う。
あっ、これは気まずいやつ。
ガゼボの外へ、後ろに下がって視線を地面に落とした。
王太子殿下が、アレクサンドラ様をうまく宥めてくれている声が聞こえる。
ようやく落ち着いたところで顔をあげた。
王太子殿下は私と目が合うと、笑って目を細めた。
「君が、フィニアスの婚約者だね」
「はい、クラリス=レンフィールドです」
王太子に向かって膝を折り、挨拶をした。
あらためて、『フィンの婚約者』という肩書きにドキドキさせられる。
「なんだか、面白い令嬢だと話は聞いてるよ」
「オーリー、面白いなんて言い方は失礼よ。あの子が選んだのだから、とても賢い子よ」
「はは、ごめんね。サラ、君がそう言うならそうなんだろうね」
なんだか、またイチャイチャモードになりそうな予感。
しかし、王太子殿下とアレクサンドラ様。二人の世界は、すぐに中断させられた。
◇◇◇
学園と繋がっている、魔法扉があった方向から足音が聞こえてきた。
「アレクサンドラ嬢!ここに、クラリスが――」
フィンが、髪を乱しながら飛び込んでくる。
「フィ、フィン、なぜここが?」
彼は額に汗を浮かべ、息が上がっている。
「はあ⋯⋯クラリスが、アレクサンドラ嬢と学園からいなくなったと聞いて、おそらくここだろうと」
心配そうな表情で、私の手をぎゅうっと握ったフィン。
「やあ。久しぶりに会えたね、フィニアス」
「⋯⋯王太子殿下、お久しぶりです」
フィンは、一瞬眉をぴくっと跳ね上げたけれども。
すぐに、スッと表情を消して貴族スマイルを貼り付ける。
「その表情からすると⋯⋯クラリスを勝手に連れて来たことに怒っているのかい?」
「⋯⋯いいえ。そのような事はありませんよ」
ニコニコと、はたから見たら仲良い兄弟の会話にしか見えないけど。
「――ですが。クラリスを招待するなら、俺も一緒に呼んでくれないと寂しいではないですか」
フィンはそう言って、私の腰に手を回して自分に引き寄せた。
「ははは、そうだね。うっかりしてたよ、あらためて4人でお茶にしようか」
「お茶を淹れ直させますわね」
アレクサンドラ様がメイドたちに命じて、お茶をセッティングさせている。
フィンは私の耳にだけ聞こえるように言った。
「オーランド兄上⋯⋯あの人だけは、情報が集まらない。だから、気をつけて」
心配そうな表情で私を見つめた。
「フィン。心配しないで、貴方のお兄様でしょう。悪いことはないはずよ、ね?」
「クラリス⋯⋯そういう気楽なところ、俺は好きだよ」
「今の、褒められたのかしら?」
「クラリスの事なら全部褒めてあげるよ」
フィンが蕩けるような笑みを私に向けるので、思わず頬が熱くなる。
「んんっ、ごほんごほん!⋯⋯フィニアス様」
私達の横からぬっとカイン様が現れる。
「ひっ!!」
「⋯⋯ちっ」
フィンの舌打ちにカイン様が眉を下げた。
「フィン様、国王陛下がお呼びです。王宮に来たなら、話があるから顔を出せと」
フィンは盛大にため息をついた。
「仕方ない。クラリス、すぐに戻るから待ってて」
そう言うと、自分のネックレスを外して私に着けた。
「お守り。どこにいても分かるから、じゃあまた後で」
心配そうな顔で私を見てから、足早に去っていった。
「陛下もフィニアスとは仲良くしたいんだよ。だが、どうしていいか分からないんだ」
王太子殿下がそんな事を呟いた。
「さあ、私たちはお茶にしようか。フィニアスの事だから、すぐに戻ってくるだろう」
「そうね。クラリス、こちらにいらっしゃいな」
アレクサンドラ様も一緒になって誘うので、渋々とガゼボでお茶会に参加する事になった。
あわよくば、フィンを追ってこの場から逃げようとしたのに⋯⋯!
「クラリス、もしかして帰りたいのかな?」
「い、いえ、とんでもありません!」
何で分かったの!?
「クラリスを帰したら、私たちはフィニアスに怒られてしまうよ。なあ、サラ」
「そうですわ。それにクラリスは、魔法扉の開き方も知らないでしょう?迷子になってしまうわ」
アレクサンドラ様が頬に手を当てて、貴女が困るわよ、と眉を寄せた。
「王太子の庭園といえども、どこに誰が潜んでるか分からない。私たちといた方が安全ともいえる」
「ええ、その通りよ。未来の義妹を危険には晒せないわ」
笑いながら物騒な事を話す皇太子殿下は、やっぱりフィンの兄だと思った。
次回は、今週中に投稿したいと思います。
よろしくお願いしますm(_ _)m




