二人の義姉
「ちょっと、私生児!」
「痛っ!」
学園の廊下を歩いていた私の肩を掴み、ぐいっと強引に振り向かせた人がいた。
⋯⋯だいたい予想はついているけど。
私の肩を掴んだ手を辿る。
そこにはマリーお姉様の姿が見えた。
はあ。やっぱりね。
「……マリーお姉様、ごきげんよう。学園でお会いするのは、お久しぶりですね」
珍しい、と少し驚いた。とりあえず丁寧に挨拶をする。
「それと、私はクラリスです。学園では、きちんとなさいませんと」
私が諌めると、マリーお姉様は顔を真っ赤にしてプルプルと体を怒りで震わせた。
そんな私達の横を通り過ぎる生徒達は、何事かとチラチラ見ている。
「マリーお姉様。ここでは目立ちますから、静かな場所へ行きましょう」
私はお姉様より先に立って歩く。
学園の廊下を歩き、近くにあった外への扉を開けた。
外へ出ると、お姉様はさっそく私に詰め寄った。
「クラリス、貴女どういう事よ!」
「どういう事とは?」
お姉様の剣幕に首を傾げる。
「惚けないで!いつの間に第三王子と知り合ったの!」
「ああ。偶然、です」
フィンの事ね。
どうやら陛下がもう動いたのね。
……早いわね。もう私を本気で逃さないつもりだわ。
「私生児が王家と婚約だなんて!」
「王家ではなく、第三王子殿下では……」
「どちらでもいいわよ!」
いやいや、どちらでも良くないでしょう。
「『王家と婚約』などと、一括りにするものではなくてよ。王子殿下方の婚約者は、それぞれ別の方。――私もそうですわ」
私の後ろから、透き通るような声が聞こえた。
途端に、お姉様が固まった。
私は、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこにいたのは――。
オーランド第一王子殿下。
――つまり、王太子の婚約者だった。
◇◇◇
「……公女様」
なぜここに、この方がいるのかしら?
隣国から留学して学園に所属はしているけれど。
普段は王城で、王太子妃候補として教育を受けているはず。
「『アレクサンドラ』と。名前で呼んでいいわ、クラリス」
「……はい」
柔らかい微笑みを向けられて、そう言われても戸惑ってしまう。
軽々しく名前なんて呼べない。
公女様と私は、身分も立場も違うもの。
「ふふ。そんなに身構えなくていいわ、未来の義妹がどんな令嬢か見にきただけよ」
「私を見に、ですか?」
そして、マリーお姉様に目を向ける。
「マリー=レンフィールドね。貴女がクラリスと話していたのは知っているけれども、もう終わったかしら?」
お姉様は固まったまま、ガクガクと頷いた。
「それなら大丈夫ね。さあ、クラリスいらっしゃい」
「あ、はい……アレクサンドラ様」
これは断れないやつだ、と悟った。
お姉様は、もう地面に視線を落としてこちらを見ていない。
「では、マリー嬢ごきげんよう」
さっさとアレクサンドラ様が背を向ける。
「マリーお姉様。先ほどの話は帰省時にお伺いしますので、今日は失礼いたします」
私はお姉様へ丁寧に頭を下げた。
お姉様は、握った拳を震わせて耳を赤くしていた。
これは……次の帰省した時は荒れるかしら?仕方ないわね、覚悟しておくわ。
学園校舎の整えられた並木道。
少し先を歩くアレクサンドラ様。しばらく歩くと、何もない行き止まりで立ち止まった。
◇◇◇
「クラリス、この先は立ち入り禁止なの。でも、特定の身分の者だけが進めるわ」
「アレクサンドラ様が、そうおっしゃると言うことは。王族の身分、またはそれに該当する方しか入れないのですね」
「そうね。あとは、私たちみたいに王族の妃候補者⋯⋯ここよ」
アレクサンドラ様は、立ち止まり空中に手を翳した。
「鍵よ、開きなさい」
『カチャリ』
不思議と頭の中で鍵が開く音がした。
「奥のガセポで、簡素だけれどお茶の用意をしてあるわ」
そう言うとアレクサンドラ様は、奥へずんずんと進んでいく。
「あれ、消えた?」
彼女の姿が見えなくなった。
私は少し緊張しながら、彼女が立ち止まった場所から一歩進む。
すると、ぐにゃりと柔らかな何かを通ったような違和感があった。
思わず両腕をさするけど、何もない。
「あら。クラリスは魔法扉は初めてだったかしら?」
「あ、はい。今のが魔法扉ですか?」
魔法扉って、確かゲームでもあった転移用の⋯⋯。
「まさか!?この場所って⋯⋯」
「気づいた?貴女、賢い子ね」
悪戯っぽく笑うアレクサンドラ様。
「ようこそ、王太子の庭園へ。あの方がお待ちかねよ」
「え、ええ!?」
「クラリス?今の声の挙げ方はマナーが、なってなくてよ?」
しっ、と自分の唇に指を立てて注意してくるアレクサンドラ様。
私は、それどころではない。
あの方って、まさかまさか。
ガゼボで優雅に座るキラキラした王子様。
うん、本物ねっ⋯⋯て!
なんで、王太子殿下はここにいらっしゃるのかしら!?
「あの方は、王太子殿下ですよね」
「正解。さあ、行きましょうクラリス」
アレクサンドラ様は楽しげな足取りで、ガゼボへと私を引っ張っていった。




