私の答え
フィンは、陛下が出ていってすぐに人払いをした。
「クラリス、勝手に婚約話を進めてごめんね。クラリスの意思を無視したいわけではないんだ」
真剣な顔で、私に向かい合うフィンは、私の手にそっと自分の手を添えた。
その指先は少し震えていた。
「父上には、婚約を申し出た。でも、クラリスが嫌なら破棄してもいい。早いと思うなら待つ」
いつもは強引なフィン。
でも今日は、彼の弱さが少しだけ見えた。
「フィンのそういうところ。私は好き」
そう言うと、フィンは目を丸くした。
「私に、いつも優しいって事。正直に言うと、婚約は急すぎだと思ったけれど」
「うん。そう思うよね」
苦笑するフィン。
「婚約を急いだ理由は分かっているの。私が『聖女の娘』である事」
「うん」
「あと、フィンが私を好きだから」
「うん。そうだね」
はっきりとフィンが肯定した。
自分で言って恥ずかしい。
「他には?」
フィンに、逆質問されて考える。
「他には……」
「大事な事が抜けてるよね。俺は、ずっとクラリスを守りたい」
フィンが続けて言った。
「そして、一番大事なクラリスの気持ち。俺に聞かせてくれる?」
フィンは、私から少し離れて、答えを聞く体勢をとった。
私は、うるさく鳴る心臓を必死に抑えながら声を出そうとした。
手が震える……思ったより、すごく緊張していた。
一呼吸、二呼吸……時間が過ぎていく。
「私、は……フィンが好き」
やっと絞り出した声は、めちゃくちゃ震えていた。
私の答えを聞いたフィンは、顔を伏せた。
反応がない。
しばらくすると肩が揺れ始めた。
そして――。
「ふ、ふふ――」
フィンが声を出して笑い始めた。
「……フィン?」
真剣な私の答え、そんなに、笑うなんて……。
思わず涙声で抗議する。
「ひ、ひどい……何が、面白いの……」
言葉が尻すぼみになる。
緊張して冷たくなっていた頬に熱い涙が流れる。
笑い終えて、息を整えたフィンが私の前に跪いた。
「……泣かないでクラリス。幸せすぎて、笑いが止まらないんだよ。こんなに笑ったの初めてだ」
フィンが、私が刺繍を施したハンカチで涙を拭ってくれる。
「……幸せ?」
「そうだよ。幸せなんだ」
フィンは微笑んだ。
「可愛い顔が台無しだね」
「そんなことない――」
俺にはとても可愛いんだ、と優しく言われた。
「ごめんね、クラリスを泣かせた責任は全部俺が持つから、安心して」
「……全部?」
「うん。全部」
「さ、最後まで?」
そう聞くと、フィンは声を出して笑う。
「もちろん。クラリスが嫌がっても、俺が追いかけるから安心して」
「……それ、少し怖いかも」
「それだけ、クラリスが好きってこと。俺の傍にいてくれる?」
「……はい、フィンも一緒にいてね」
「ああ、約束する」
二人で笑顔になる。
◇◇◇
後日。
陛下から手紙が届いた。
『未来の義娘、クラリスへ。
愚息には責任を取らせるから、安心して婚約を受け入れてほしい。
追伸――愚息からは、逃げ切れる保証がない事は、最初に謝っておく。』
この内容。
陛下も、あの部屋での会話を影に報告されたのね……恥ずかしすぎるわ!
「まあ……あそこまでされたら、逃げられるわけないわよね」
私の言動は、影達を通じてフィンに筒抜けだと知っている。
でも、思わず独り言を零さずにはいられなかった。
クラリスの実家からの婚約話からの、フィンとの正式な婚約へ。
ここでひとまず二人の関係は落ち着きました。
それでは、次の展開をお楽しみに!




