表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略対象じゃないと思ったのに、うっかり溺愛ルートに入るようです  作者: 古東 白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/21

逃げられなくなりました


 罰として、私の一日をフィンにあげると約束した日。

 私は朝から浮かれていた。


「やあ。迎えに来たよ」


 今日も眩しいフィンの姿。

 推しの尊さを心の中で拝みつつ、差し出された手に指を絡めた。


「フィン。お迎えありがとうございます」

「じゃあ、行こうか――」


 だけど、そこへ慌てた様子でカインが走ってきた。


「フィニアス殿下、緊急事態です!」

「一体何事だ」

「実は、陛下が――」


 カインの言葉を聞いたフィンは、不快そうに眉を寄せた。


「クラリス。すまない、急用が出来たんだ。一緒に来てほしい」

「……はい」


 カイン様。『陛下』って言ってたわよね。

 まさか……よね?


 ◇◇◇



 そして、まさに今。

 まさかの状況に巻き込まれています。


 背筋をピンと伸ばして、テキパキと動くメイドさん達におもてなしを受けている。


 白い素敵な陶磁器のカップに、良い香りの紅茶を淹れてもらう。

 これは、特級のお茶ね。

 歓迎されてないわけではなさそうだわ。


「……これは、シズオウ国産のロイヤルシズオウですね。とても美味しいです」

「まあ、よくお分かりになりましたね」


 メイドさんに話しかけると、肯定してくれた。

 そんな特別美味しいお茶を頂きながら、周りの様子をちらちらと確認した。


 さらりとした上品なシルク生地に、金の糸で模様が入っているアイボリーのカーテン。シンプルだけど座り心地の良いソファと、艶のあるテーブル。明らかに高価そうな調度品が並んでいる。


 ここは、王城の離宮。

 第三王子殿下であるフィンが暮らしている離宮。

 その応接間。


「そなたが、聖女とアイロスの娘か」

「は、はいっ!」


 急に話しかけられて、声が上擦る。


「なるほど。二人によく似ているな」


 そう言ったのは、金の髪の男性。

 威厳のある佇まいと、フィンによく似た顔立ち。


「フィニアス、クラリスはハキハキとした良い娘だな」

「父上。彼女が怖がっています。あまり困らせないでください」


「そんな事はないだろう。なあ、クラリス」

「貴方のそのような言動が彼女を萎縮させるんですよ」


 フィンは、彼の父である陛下を冷たい目で一瞥した。


「それより、さっさと本題に入らせて頂きたいのですが。貴方が呼びつけたんですよね」


 フィンがため息をついて、陛下に水を向けた。


「おお。そうだ、王家所持の魔法アイテムの話だ」

「はい。その話、さっさと終わらせてもらいたいですね」


 二人は視線を交わした。


「王家の魔法アイテムに関しては、流出元を調査している。どんな経路で外に出たのやら」


 陛下はそうおっしゃるけど。


「俺も、母方の『黒の一族』に調べさせています。まあ誰なのかは、大体予想はついていますけどね」


 フィンは優雅にお茶を飲んで、そう答えた。

 陛下は眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。


「アレを早くどうにかしてください。オーランド兄上にも、ご迷惑がかかります」

「アレはアレなりに可愛いのだがな」

「貴方が甘いから、シルビア王妃とその息子。第二王子が、つけ上がるんですよ」


 フィンに怒られてますます小さくなる陛下。


「まあ、その件は報告を待つことにしましょう。それと、ちょうど良い機会なので、父上にも一応伝えておきます」


 フィンは一度言葉を切ると、横に座っている私に目を向けた。


「俺は、今回の騒動で一つ悔やんだことがあります。やはり懐に入れておかなけれび、傍で守ることはできないのだと」


 そして、私の手を取り、両手でそっと包み込んだ。


「だから、彼女を婚約者に選びます」

「……え、あ!?」

「なんと!?」


 驚く陛下に狼狽える私。


「ま、待ってください!私、まだ――」


 そう言うと、フィンはとても綺麗な顔で私を見つめた。


「クラリス以外、俺は考えられない。誰よりも、クラリスが良いんだ」


 切なそうな表情で私を見つめる。

 これ……スチルで見たらきっとヤバい。

 心臓が痛すぎる!!


「フィン……」


 ……でも、浮かれている場合ではない。


「……フィン。私、無理です……」

「何故?理由を教えてくれるかな」


 何故って、私は貴族だけど。上級貴族の礼儀作法も知らない。


「私は……貴族の礼儀作法もしっかりと身に付いていません。半分は、平民の血も入っています」


 きっと、王族から反対されるに違いない。


 陛下の方を見ると、下を向きぶるぶると震えている。


 ほら、怒っていらっしゃるじゃない。

 絶対、婚約なんて無理――。


「……素晴らしい!」

「えっ!?」


「フィニアス!でかした、聖女の娘と婚約とは!」


 陛下は涙を流して喜んでいる。

 あれ?反対されると思ったのに。


「聖女に振られた私の悲願を――」


「ああ。父上のそれとは全く関係ないです。俺はクラリスだから欲しいのであって、肩書はどうでもいいんです」


 フィンは、キッパリと言った。

 そして、苦々しい顔をした。


「それに、クラリスの母君は『元』聖女ですね。女好きの父上の趣味と一緒にしないでください」


 自分の父親である陛下に女好きと言ってる。

 フィンの様子から察するに……彼のお母様は、苦労なさったんでしょうね。


「俺は、クラリスさえいれば充分ですから」


 そう言って、フィンは私の腰を引き寄せた。

 近いっ。

 耳元をくすぐる吐息。

 そして、低い彼の囁き。


「フィン?」

「これで、クラリスは逃げられなくなったよ」


 甘く危険な台詞が脳まで届く。

 途端に頬が熱くなった。


「ということで。父上や、他の誰が邪魔しようとも、俺はクラリスを離しません」


 フィンは、陛下をまっすぐ見ている。

 そんなフィンに陛下は優しく微笑んだ。


「……承知した、フィニアス。そなたにも、そなたの母にも苦労をかけていたものな」


 そう呟いた陛下を見ながら、フィンは私の腰に添えた反対の手をぎゅっと握りしめていた。


「気づくのが……遅いんですよ」


 小さく呟いたその言葉は、陛下にも届いていたと思う。


「さて。では、クラリスの家には婚約の書状を送ろう」

「ええ。横やりが入る前に、内々にお願いします」

「わかった」


 陛下はソファから立ち上がり、出ていこうとして足を止めた。

 振り返り――。


「デートの邪魔をして、悪かったな。こうでもしないと、クラリスを紹介してくれなかっただろう?」


 にやりと笑い、そう一言残して出ていった。


「……どんな死因がいいかな」


 フィンが呟いた、物騒な一言には気づかないふりをした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ