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エデン近似値 ー俺に一目惚れした兵器の少女が、壊れるまで愛してくるー  作者: 小達出みかん


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4/13

生きたくも死にたくもないから

 フューシャの部屋のある場所は、とても奇妙な場所だった。

 アドナイから出たあと、フューシャは背後にアキルを隠し、上下を確認しながら曲がりくねった廊下をずっと進んだ。鉄の箱のような狭い空間に二人で入ると、外側でモーターのうねる音がし、部屋が上に移動しているのがわかった。かすかに体に圧を感じる。


「これ…エレベーターってやつか」

「うんそう…あ、ドアあくから離れて」


 その後、いくつかエレベーターを乗り継ぐと、桃色の絨毯が敷かれた窓のある廊下に出た。靴の下にふわりとした感触を感じ、アキルは戸惑った。廊下の片側はずっとガラス窓が続いていて、そこから空と雲、そして浮島の地表が見下ろせた。


(うわ…すげぇ高さだ)


 高い場所には慣れているはずだったが、建物の上から見下ろすというのは初めてなのでアキルは違和感を感じた。今いるこの場所は、相当大きい建物のようだ。外壁は白いレンガでできていて、他の塔とつながる橋や、石の手すりのついた露台などが目に入った。その壮麗なさまは、まるで昔映画で見た城のようだった。


(『お城の中に部屋がある…』ってのはマジだったってことか…って、え!?)


 アキルはさらに下に目をやって、度肝を抜かれた。この建物を中心に、地表には放射線状に建物が広がっている。そしてその街のそこここに緑が溢れている事が見てとれたのだ。


(どういう事だ?地上じゃもう、植物は育たねぇのに…)


 太陽光が強すぎて、ほとんどの植物は枯れてしまう。地下空間でのお粗末な水耕栽培によって、荒野の住人はギリギリで食料を賄っていた。なのに浮島には木が生えている。


「ちょっと、早く行こう!窓が見たいなら私の部屋にもあるから…!」

「お…おう」


 思わず夢中になってしまったアキルは、少しばつがわるかった。

 フューシャはしばらく早足で歩き、壁にはめられた金のプレートに素早く手をのせた。ピピっと音がしてドアが自動で開き、フューシャは素早くアキルを招き入れた。


「はぁ~~、なんとかバレずについた…」


 フューシャはほっとしたのかソファにくずれおちた。アキルは入った瞬間思わず顔を手で覆った。部屋の大きな窓から太陽の光がさんさんと降り注いでいたのだ。しかしその部屋の空気はちっとも熱くはなかった。不気味なほど快適な温度に保たれている。


(特殊なガラスでも使われているのか?)


 おそるおそる手をはずして部屋を見渡すと、そこはすべてが白と桃色で埋め尽くされた、広々とした空間だった。まさに目の前の少女の色の部屋。そのフューシャはソファに身を投げ、大きな桃色のクッションを抱いて疲れたように目を閉じていた。アキルは顔をしかめた。


(…なんだここ)


 こんな贅沢な部屋、地上で見た事も聞いた事もなかった。ボスのラムダですら、ずっと粗末な部屋に住んでいた。


(いや、あのおっさんがこんなピンクまみれの部屋に住んでたら嫌だけど)


 場違いと言えば自分も場違いだ。アキルは所在なく足元のふかふかの絨毯を見た。自分の布団よりもよほど分厚い絨毯だ。そう思うと、アキルの目的がはっきりと頭に浮かび上がった。―あの怪物「アドナイ」はものすごい武器になる。手に入れればアキルのもとにとてつもない可能性が転がり込む。ラムダなんて目じゃない。


(俺はあのデカい怪物を奪って、スズメバチを倒して…)


 それで?そのあと俺はどうしたいんだ?アキルは自分に問うた。

 答えはすぐに出た。


(そうだ、境界の先へ行ってやる。荒野の外へ出るんだ…!)


 コックピッドの中でフューシャがぐったりとしている間、アキルはアドナイを操作しようと触ってみたが、何をしても反応はなかった。だからフューシャが目覚めて動かすのを見たかったのだ。


(で、見れたけど…ありゃ一体どうやって動かしてんだ)


 口の中にキーがあるというのは、取り出しが不可能なのかもしれない。フューシャが私にしか動かせないと言っていたのはそういう事だろうか。


(だとしたら俺には不利だな…)


 しかし目の前の少女は得体が知れなかった。あんな薄着で太陽の下に出て、なんで火傷一つしていないのだろう?この場所そのものが得体が知れない。なぜあんなでかい機械を作れるんだ?なんで木が生えてるんだ?

 どれも地上では不可能な事だ。それがどうしてここでは行われているのか?


(こいつらの正体は、一体なんなんだ?ここは特別な場所だっていうのか?)


 厳しい目をソファの上のフューシャに向けると、それを察したかのように彼女がパチリを目を見開いた。


「あの…立ってないで、座ったら?」


 そういわれて、アキルは絨毯の上に腰を下ろそうとした。するとフューシャはぽかんとしたあと手招きした。


「床は座る場所じゃないよ?」


 アキルはしぶしぶ、彼女の隣に腰を下ろした。ソファなのか彼女なのか、鼻をくすぐるような甘やかな匂いがする。


(なんか…落ちつかねぇな)


「ねぇ、アキルが探しているものって何なの?」


 いきなりの核心を突く質問に、アキルは顔をしかめた。


「…別に」

「言いたくないの?秘密なの?」


 フューシャがそう言ったので、アキルはうなずいた。


「そうなんだ!ならしょうがないね」


 そういってにっこり笑ったので、アキルはあきれた。


(こいつ、本当に頭がゆるいんだな…)


 ぶすっと黙り込むアキルに、フューシャは次々と聞いてきた。


「ねぇねぇ、地上ってどんな所なの?他にもたくさん人がいるの?」

「…そう多くないけど」

「アキルはどこから来たの?家族はいるの?」

「地下街から。兄貴がいたけどもう居ない」


 するとフューシャの顔が曇った。


「そ、そうなんだ…ごめんなさい」


 コロコロ極端に表情が変わって、本当に幼い子供みたいだ。その他愛なさに少し疲れて、アキルはため息をついた


「別に…それよかあんたは?」

「え?私…?」


 今度はアキルが質問をした。


「なんでお前みたいなガキが、あんなでかいのに乗ってんだ?家族はなんて言ってんの?ここはお前の家なわけ?」


 するとフューシャの顔はなぜかぱっと輝いた。


「えっとね、えっとねぇ!ママが私にアドナイをくれたの!だから私は乗りこなせるように、毎日がんばってるんだぁ。それ以外は、うん、私はここで過ごしてるの。だからここが私の家、なのかな」


 その発言に、アキルは顔をしかめた。


「は?あんたのママはどこにいるんだよ」

「ママは仕事が忙しいんだ。あとシアン…えっと妹なんだけどね。妹は学校があるの」


 学校。この浮島にはそんなものまであるのか。黙り込んでしまったアキに、フューシャはつづけた。


「私も学校行きたいんだけどね、ママがその必要はないって言うから…」


 その時。部屋に通信音が鳴った。


『フューシャ様、入ってよろしいですか』


 とたんにフューシャは縮みあがって部屋を見回した。


「大変…かくれなきゃ…!」


 フューシャはアキルの手をひっぱって、ベッドに押し込んでカーテンをシャッと閉めた。隠れたアキルの耳に、フューシャが走ってドアを開ける音が聞こえた。


「どうしたの?ルート」

「どうしたもこうしたも…地上に降りたというんで皆が心配していますよ。おまけにアドナイの記録も消えてしますし。どうしてそんな事したんですか?」


 心配と、かすかな苛立ちを含んだ男の声だった。それに対し、フューシャは萎れた声で聞いた。


「ごめんなさい、怒られると思って…。あの…ママは?」

「司政官も会議が終わったら会うと。来てください」

「わ、わかりましたぁ…」


 しょんぼりとしたその声に、しっぽを垂れてうつむく子犬をアキルは連想した。まもなくドアが閉まる音がし、アキルはほのぐらい桃色の天蓋の中に一人残された。


(どこもかしこもやわこいな…)


 ベッドはクッションやぬいぐるみで溢れていた。ふかふかすぎて、少しでも油断すれば体のすべてが沈んでしまいそうだった。眠るまいとおもいつつ、体は力が抜けていく。このあったかさは、懐かしい感覚をアキルに思い出させた。


(大昔は…兄貴と一緒の毛布にくるまって寝てたっけ)


 両親のいない兄弟。アキルは、兄に育てられたようなものだった。このくるまれるような感覚は、幼い日の兄の抱擁に似ていた。


(兄貴…俺、死ななかったよ)


 だけど兄は死んだのだった。アキルが生き残って戻って来たところで、もう二度とあえない。アキルの毛布の横は、永久に空になった。あの時アキルの心の中の何かも死んだのだ。世界は色あせ、楽しい事も嬉しい事もさして感じなくなった。残ったのは、怒りや苦しみだけ。


(だから俺は…もう何も感じたくないんだ)


 兄を死においやったラムダを見るたびに、心は怒りにきしむ。家族や恋人のもとに帰る輸送隊のメンバーを見ると、冷たい風が吹き抜けるような虚しさを感じる。


(だけど俺は死にたいわけじゃない。だから…)


 力が欲しい。一人で生きていく強さ。あの狭い地下街を出ても生きていける力が。

 アドナイは、それにふさわしい力に見えた。その姿を思い浮かべながら、アキルの意識は浅い眠りの中へと落ちていった。






「アキル…アキル?寝ちゃったの?」


 ふわりと控えめに頬を撫でられて、アキルは目を覚ました。



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