表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデン近似値 ー俺に一目惚れした兵器の少女が、壊れるまで愛してくるー  作者: 小達出みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/37

初恋との再会

「ここもハズレか」


 金属探知機のアラームを止めて、アキルは飛行機へ戻った。今日も昨日と変わらず熱い。

 しかし、飛行機の中に戻れば空調が効いていて、快適この上ない。


(…サムに感謝しなきゃな)


 この探知機付きの飛行機は、アキルの要望を聞いて、彼が作ってくれたのだった。


「フューシャのチップを探す!?砂漠に落ちたダイヤを探すようなもんだぜ!?だいたい探し当てたとしても、そいつが無事かどうかは…」


 最初サムはそう言って驚いていた。だがアキルは何を言われてもあきらめなかった。


「チップは俺らの爪一枚程度の代物だ。あの爆発でも粉砕されずに残っているかもしれない。爆発は成層圏内だったから、重力が作用するだろ。だから絶対にこの地上のどこかに落ちているはずだ…」

「その可能性はあるけど…でもお前、まだ怪我も治り切ってないだろ!ダメだよ」


 アキルはぐっと拳を握った。サムの心配はありがたい。けれど、なんとしても探しに行かなければならなかった。アキルはサムに頭を下げた。


「残っていようと砕かれてようと、俺は回収したいんだ。俺があいつにしてやれる事はもう…それくらいしか残ってないんだ。たのむ…」


 アキルの震えるその言葉に、とうとうサムは首を縦にふった。


「わかったよ!だから…そうしょげんなって!!」


 その機体が完成してから、今日でまる一年。アキルは果てしなく続く荒野をえんえんと探し続けた。燃料と最低限の食料を補給する他は、一日も休まなかった。アキルを探索に駆り立てるのは、後悔だった。


(フューシャは何度も俺を助けてくれたのに…俺は一度も、あいつを助けられなかった)


 最後の時、自分が彼女を止めるべきだった。そうすればフューシャは今日も、園で笑っていたかもしれないのだ。


(お前ばっか…俺を守って、痛い目見て…俺はお前を、戦わせたくなんて、なかったのに)


 灼熱の砂漠を見回して、アキルは顔をゆがめた。フューシャがこんな場所で打ち捨てられていていいはずがない。たとえデータでもだ。


「あんたに荒野は似合わない、フューシャ…」


 必ず見つけ出す。広い砂漠を眼下にしながら、アキルは何度目かわからないその言葉をつぶやいた。その時、アラームが再び作動した。アキルは金属が落ちているとみられる位置に飛行機を止めた。砂と岩に埋もれるように、大きな金属片が転がっていた。様々な部品が固まっている部分のようだった。


(電気系統か?これは…期待できるかもしれない!)


 アキルは工具を手に徐々に解体していった。すると部品の隙間から、ぽろっと薄い板が落ちた。


「おっと!!」


 アキルは慌ててそれをキャッチした。握った拳が震える。


(フューシャ、なのか…?!)


 アキルは深呼吸をし、拳を開いた。しかしそこに載っていたのは、黒光りするチップだった。


(フューシャじゃない…!形も微妙に違う。ってことは…) 


 これはもしかして、シャイタンのチップだろうか。アキルは困惑した。捨てるかどうか迷ったが…結局機内に保管した。


(これは園に持ち帰って、司政官たちに任せよう)


 ぬかよろこびだった。しかし再び飛行機を跳びあがらせると、アキルの胸に抑えきれない期待がひろがった。


(シャイタンのがあったてことは…きっと近いうちに、フューシャのも見つかるはずだ!)


 その時、再び探知機のアラームが鳴りだした。






…ずいぶん長いこと、眠っていた気がする。

 私は誰だっけ。何をしていたのだっけ。ああ、こうして思考するのも久しぶりだ…

 金色の粒に包まれて、彼女はゆっくりとそれを思いだそうとしていた。一番最初にデータの中から出てきたのは、金色の輪だった。


(そうだ…これは、私たちがしあわせになるために必要なもの。でも…)


 どうやってそれを作ったのか、なんで作れたのかがちっとも思い出せなかった。思い出そうと頑張ってみてやっと出てきたのは、断片的な感情と、それに付随するデータだけだった。

 アルファベットを教えて、感動したこと。

 温かい場所で二人まどろんで、痛みが減ったこと。

 声を殺した泣き声を、もどかしい思いで聞いていたこと。


(ああ、誰?誰なんだろう…私が文字を教えた人は。抱きしめてくれた人は。)


 私の手紙を読んで泣いてくれた人のために、私はおそらく近似値を作ったのだ。

 それはきっと、一見怖い人。でも本当は優しすぎる人。受けてきた痛みを決意に変えて、体の内に秘めている人。


 彼女はたまらなくなって、もがいた。


(会いたい!今すぐ抱きしめたい!だって誰よりも優しい人なんだもの!他人の痛みを、自分の痛みみたいに感じる事ができる人――!)


 なのに、思い出せない。その人の顔も、声も、なにもかも。バラバラの断片しかない彼女の電脳の中に、激情がほとばしった。


(でも、会いたいの…!!)





「…ほらアキル、そんな所につったってないで」


 桃色で統一された、砂糖菓子のような部屋。その入り口の扉の影にたたずむ彼に、ルートは淡々と手招きした。


「目覚めて最初に会うのが、俺でいいのか」

「何を言ってるんですか、あなたが発見したんでしょう。フューシャのチップを」

「でも、欠けてた。それに爆発時の熱で焦げて…」


 ルートはアキルの言葉を遮った。


「たしかに、万全ではありません。目覚めた彼女がどこまで記憶しているかはわからない。ですが幸い土台は残っていた。彼女は元の彼女です、間違いなく」

「そうか…」

「最低限の自己修復は終わっています。あとは新しい彼女の身体に、これを入れるだけ。今の状態ですと、フューシャはそこから学習しなおしていくしかありません。」


 真新しい金色のチップを、ルートはアキルに差しだした。


「あなたが入れておやりなさい」

「ど、どこに」

「知らなかったんですか?」


 とまどうアキルに、ルートは肩をすくめて説明をし、部屋を出て行った。


「おい、待ってくれっ…!」


 思わず呼び止めてしまったアキルだったが、観念してベッドへと向き直った。

 帳を上げたベッドの上に、新しいフューシャの身体が横たわっていた。桃色が映える金髪。うっすらと色づいた丸い頬。やさしげな眉…最初出会った時とまったく変わらない姿だ。


 この場所で、彼女と一緒に絵本を読んだ時の記憶がよみがえった。たしか毒りんごを食べてしまった姫は、ガラスの棺で眠り続けたのではなかったか。彼女を目覚めさせるために、王子は…。

柄にもなく、アキルの心臓の鼓動が早まった。


(な、何考えてんだ!…フューシャの本体は、こっちだ)


 アキルは手のひらのチップに目をおとして、覚悟を決めた。


(フューシャが。俺を覚えていなかったとしても、いい。目覚めてまた、生きてくれればそれで)


 アキルは最初の時のように、彼女の頬に手をかけて、口の中を覗き込んだ。

 そして奥歯のスロットに、チップを差し込んだ。


「フューシャ…」


 金色の睫毛がゆっくりと動き、琥珀色の潤んだ目が至近距離のアキルを捉えた。真昼の星のような彼女の目が、ぱっと見開かれた。


「きゃっ…!なにするのぉっ…!」


 驚いて硬直するフューシャを見て、アキルもまた固まった。


「わっ…悪ぃ」


 アキルはあわてて体を離した。そしてどこか既視感を感じた。

 それはフューシャも同じようだった。その目が瞬き、混乱した表情でアキルを見ていた。


「あ…あなたは、誰?」


 その声はかすかに震えて、フューシャの瞳は不安に揺れていた。それを見てアキルは膝を折って、フューシャをまっすぐ見上げた。


「俺はアキル。前、あんたにたくさん助けてもらったんだ」


 アキルはフューシャを安心させるように微笑んだ。するとフューシャはその唇をぽかんとあけた。


「アキル…アキル…!?」


 何かを思い出すように彼女は宙を見上げた。だが次の瞬間、彼女に抱き着かれて、アキルはベッドに倒れ込んでいた。


「うわっ…」

「知ってる…覚えてる…私が文字を教えたのはあなた?ここで一緒に寝たのもあなた?」


 至近距離で瞬くその瞳に、アキルは真剣にうなずいた。


「そうだ」

「そっか…そっかぁ…」


 つぶやくフューシャの顔が、くしゃりと歪んだ。


「あなた、だったんだね。でも、その時の事をちゃんと思い出せないの。大事な事なのに…」


 アキルはそんな彼女の頬を撫でた。


「いいんだ。思い出せなくても。フューシャは今、目が覚めたんだから」


 その声に、フューシャはゆっくりと目を閉じた。体のすべての力が抜け、安心を感じる声だ。


(でも…すごくドキドキする声)


 心臓の代わりに、電脳内の金の輪が、彼を求めて明滅している。フューシャは意を決して、目を閉じたままアキルに顔を近づけた。


「ちょっとあなたたち!?」

「っわ、シアン」


 突然がばりとアキルが起き上がった。フューシャの唇はむなしく空気にキスしていた。が、次の瞬間シアンに抱きしめられていた。


「姉さん!私よ…シアンよ」


 その情熱的な抱擁に、フューシャは戸惑ったがどこか懐かしい感覚がした。


「ごめんなさい、覚えていないの…でも、私の姉さんなの?」


 その言葉に、シアンはじっとフューシャを覗き込んだ。


「姉さん、彼のことは?覚えてた?」

「ううん…」 


 フューシャがそういうと、シアンはほっとした顔になった。


「ああよかった。あっちは覚えてて、私が忘れられてたら悲しすぎるもの…」


 そしてちらりとアキルを見た。少し得意そうな笑みが浮かんでいる。


「ふふん。あなたも残念だったわね」


 しかしアキルは肩をすくめた。


「別に。…俺は仕事に戻るから」

「そ?いいの?もうすぐ出発なんでしょ」

「挨拶はまた改めてするよ。じゃあな」


 そんな、待って!とフューシャは呼び止めようとしたが、シアンががっちりその手をつかんだ。


「ああ、本当にうれしい。今日は姉さんの新しい誕生日よ。お祝いしなくちゃね」

「あ、ありがとう…ねぇ、出発って、アキルはどこにいくの?」


 シアンはなんでもないように言った。


「調査に出るらしいわ。この地球の。数年間は戻ってこないって」

「えぇ!?」


 素っ頓狂な声を出したフューシャに、シアンは唇をとがらせた。


「あなたが目覚めるのを見るために、出発を延期していたのよ。だから目覚めの瞬間を譲ってあげたっていうのに…ほんと、素直じゃないんだから」


 その言葉に、フューシャはいてもたってもいられなくなった。シアンは苦笑した。


「…仕方ないわねぇ。ほら、追いかけなさい、アキルを」

「ご、ごめんなさい!お祝いはまたこんど…!」


 言い終わらぬうちに部屋から走って去ったフューシャを、シアンはため息で見送った。


「覚えてなくても、変わらないわね」


 それは笑みの混じったため息だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ