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エデン近似値 ー俺に一目惚れした兵器の少女が、壊れるまで愛してくるー  作者: 小達出みかん


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エピローグ=初めてのキスは=


「アキル!できたよーっ!」


 眩しい太陽の下、フューシャがアキルに言った。防護服を来たアキルはうなずき、今しがたフューシャが手植えした苗にごく小さい機械を取り付けた。


「これで、この植物の発育状況が、アロンのとこまで届く」


 二人はアロン達の指定したポイントに苗を植えるため、ずっと地球上を旅していた。

膝に手をつき、フューシャはその青々とした苗を覗き込んだ。


「無事育つといいねぇ。また、ここにも人が住めるようになるといいのに」

「ああ、そうだな」


 アキルはぐるりと回りを見渡した。ここはかつて高層ビルが立ち並ぶ、海辺でいちばん栄えた国だったという。だが今はビルも人もなく、砂漠の向こうの海だけが輝いて見える。


「あれが海だね」


 フューシャがじっとアキルを見上げたので、その思いを察したアキルは苦笑した。


「わかった、ちょっと行ってみるか」


一度壊れたフューシャの記憶はまだらで、前の事を全て覚えてはいない。けれどアキルの前で笑ったり泣いたりする彼女は、笑ってしまうくらい前の彼女と同じだった。

 調査用に作られた航空艇を操作し、2人は海辺へと向かった。ハッチを開けると、フューシャは嬉し気に顔を出した。


「わぁ、すごい!青くておっきい!それに、波の音がするよ!」

「フューシャは歩いてきたらどうだ」


 アキルはそう言ったが、フューシャは首を振った。


「ううん。今はいい。いつかね…アキルも一緒に歩けるようになる時まで、とっておくんだ」

「いつになるかわからねぇぞ」


 アキルは肩をすくめた。荒野が普通に歩けるようになるのさえ、何十年とかかるとアロンは言っていたのだ。だが、死ぬことはないフューシャたちは、その光景が見れるかもしれない。けど、アキルはフューシャの気持ちを考え、それを口に出すのはやめた。アキルもまた、変わったのだ。


「そうだな。早くそうなるといいな」


 しかしフューシャはアキルの心中を察したように言った。


「アキル…ねぇ、ずっと私と一緒に、居てくれる?」

「ど…どうしたんだよ、いきなり」

「あのね…私の手紙の返事、まだ聞いてないなって。」


 アキルは罰が悪そうに顔を少しそむけた。頬がわずかに赤い。


「…言ってなかったっけ」

「うん。聞いてない。アキル、私のこと、どう思ってる?」


 フューシャの目は、今までにないくらい真剣な光を放っていた。アキルは気圧されながらも、胸にせりあがってきた思いを口にしようとした。


「俺は―…」


 フューシャの金色の目に、戸惑う情けない自分が映っている。その顔のみっともなさに、心臓がうるさく脈打つ。アキルは自分の気持ちを振り切るように、フューシャの身体を両腕で抱きしめた。前より相手の気持ちを考えてものを言うようになったものの、こういった事を言うのは慣れない。


「あんたと離れたくないって、俺、言ったろ―…」


 顔を隠すようしに耳元で囁いたアキルの方に、フューシャもまた腕を回した。


「私も。アキルとずっと一緒にいたい。アキルが、好き」


 その言葉に、アキルは腕を緩めてフューシャを正面から見つめた。目が痛い。気を抜くと、何かがこぼれてしまいそうに。


「フューシャ、ありがとう。お前は…俺の願いを、かなえてくれた」


 するとフューシャはきょとんとした。


「え?私…何もしてないよ」

「俺は…ずっと一人で生きて、死んでいくって思ってたんだ。あの地下で。けどお前が現れて―…今俺は外で、お前が隣にいてくれる。」


 そしてアキルは笑った。今までに見た事もないくらい、晴れやかで嬉しげな笑顔。


「俺たち、外に出れたんだ。あの柵の外に。今はまだ、防護服がいるけど、いつかは確実に、人が地上へ戻れる。考えもしなかったよ、こんな事」


 するとフューシャは白い瞼を伏せた。


「でも…でも、もともとこうなったもの、アンドロイドのせい…。アキルたちは何も悪くないのに、ひどい生活をしなくちゃならなかった。だから私たちにお礼を言うのは、きっと違うよ」


 アキルは首を振った。


「いいや。アンドロイドを迫害したのも、人間を滅ぼしたのも、俺たちじゃないだろ。だから浮島と荒野の俺らは、協力してやっていくべきなんだ。もう生きてるやつ自体が、この地球上にそれだけなんだから」

「そう…だね」


 フューシャは不安に思うのをやめて、微笑んだ。その回答はフューシャにとってとても好ましいものだった。


「それじゃあまず、私とアキルがうんと仲良くしないとね」


 じっと目の前のアキルを見上げると、彼はうろたえて少し体を引いた。それ以上離れていく前に、とフューシャは目を閉じて背伸びをした。が。


「そっ、そろそろ、出発しないと」


 彼はさっとフューシャに背を向けて、操縦席に向かってしまった。後ろから見える耳朶がほんのり赤い。それを見てフューシャは、むくれそうになっていた頬がつい緩んでしまった。


(もう、アキルったら恥ずかしがりなんだから…。でも…そんなところも、好き)


 フューシャはアキルをとても好きで、アキルもまた、散ったフューシャを砂漠の砂の中から見つけ出すほどに大事に思っていてくれているのに、今だにキスのひとつもできていない。今日も海を眺めるという絶好のシチュエーションに漕ぎつけたのに。ベッドで目覚める時もダメだったし、戦う前もできなかった。次は、どうしてくれよう。フューシャは彼の後ろの副操縦席に腰かけ、不敵に微笑んだ。


(いいの。これから時間はたっぷりあるんだから)


 もう、アキルとフューシャの邪魔をする者は誰もいないのだ。ママも、ルートも、シアンでさえ、二人が一緒にいるのをしぶしぶ認めたのだ。


(明日には、ぜったいアキルと初めてのキスをしようっと!)


 黙って新しい作戦を頭の中で演算するフューシャを、アキルはおそるおそる振り返った。


「どうしたんだよ、急に静かになって」


 まだ少し動揺の色が見えるアキルに、フューシャは満面の笑みで言った。


「ねぇアキル、私明日は、夜空の星が眺めたいなぁ!」


 アキルは面食らったようだったが、すぐうなずいてマップを出した。


「ああ、明日のポイントは砂漠の真ん中か…きっと星はよく見えるだろうな」

「ふふっ、楽しみだねぇ」

「そうだな」


 まるで子どもみたいだな。フューシャの胸中など知る由もないアキルは、そう思って微笑んだ。



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