VSシャイタン
「よし…これでお前らもおしまいだ!エデンの姉妹!」
漆黒のテリオンを操るシャイタンは、新しい武器のフォトンランチャーでとどめの一発をアドナイに打ち込み、露払いをした。すでに機体の大部分を損傷していたアドナイは、空しく地上へと堕ちていった。はるか前に撃破されたエルの上に、その四肢が投げ出される。満足の笑いを浮かべて顔を上げたシャイタンの目に、次々とSDを撃破するレッドドラゴンの影が見えた。
「来たな来たな!はははは! ザコをたおしていい気になっているがいい」
あれを倒せば、こちらの勝ちだ。シャイタンはレッドドラゴンに向かってテリオンを急速発進させた。
「僕の新兵器を見ろ!薄汚い人間め。裏切りAIもろとも吹き飛ばしてやる!」
眩しい光の光線が、レッドドラゴンに向かって放たれる。
「アキル、あぶないっ!」
「っ……!」
間髪入れずにこちらへ向かって打ち込まれた電磁砲を、アキルは急発進で辛くも避けた。加速で体に衝撃が走るのを、力技で踏ん張る。
「ああ、Gがかかっちゃう…!待って、衝撃を緩和する!」
重力安全装置をフューシャは最大に設定した。ただしこれはアンドロイド用のもので、人間にとって厳しい重さが体にかかる事に変わりはなかった。
(短時間で、この戦闘に決着をつけないと!)
フューシャは相手を分析した。闇のように黒い機体の形や性能は、こちらのものとなったレッドドラゴンとそう変わらないようだった。しかもアドナイとエルの健闘のおかげで、あちこち傷がついている。相手の手ごわい部分は、機体やパイロットの機動性ではない。あの右手と一体化している武器だ。
(機体に高威力のソーラーパネルが付いている…!この太陽の下なら、無限にランチャーが打てるんだ)
アドナイやエルが勝てなかったのも無理はない。そして今から夜までの長い時間、アキルに戦わせるわけにはいかない。体がもたなくなる。
「アキル、後ろから回り込んでシャイタンの右手の武器を狙って。武器がなければあいつはそう強くない」
「わかった」
アキルは一気に引いて、ブレードを抜いた。こちらにはミサイルもランチャーも残っていない。
しかし、シャイタンはその動きを読んでいた。攻撃を喰らったのはこちらの方だった。
「っぐ…」
シャイタンの撃った一撃がレッドドラゴンの片足に被弾した。すぐに2発目がくる。何しろ相手は無尽蔵なのだから。アキルは電磁砲の軌道を避けて宙返りした。胴体に押しつぶされたような重さがかかり、その口から血が溢れた。
「かはっ…!」
「アキルだめ!もう戻ろう!」
「戻ってどうする。皆殺しだ…っ」
そのくらいなら、戦ってこいつに一太刀浴びせて死んでやる。
アキルがそう考えているのが、フューシャにはわかった。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう…!)
瞬きするほどの時間、フューシャは何通りもの演算をこなした。その瞬間にもランチャーは打ち込まれ、アキルは避け、血が首へ胸へと滴る。シャイタンはすぐにとどめは差さず、猟師がウサギをいたぶるように、アキルをじわじわと破壊することを楽しんでいた。
とうとうアキルの血が床にまで達した時、フューシャは決めた。
「アキル、次の一撃で決めよう。私が1.5秒だけ電磁シールドを出す。その隙に、あいつに接近して攻撃して」
「シールドなんて、出せんのか…っ」
「ルートが持たせてくれた量子タンクの中身を応用すればたぶん。でもシールド出力は充電を使い切っちゃうから、ここで外したら…おしまいなの」
「奥の手ってことか。わかった…!」
アキルは体の訴える限界を無視して加速した。体全体に衝撃が走り、頭が白くなりかける。
(くっそ、踏ん張れ…っ)
シャイタンの後ろに回り込んだアキルは、彼めがけて矢のように突進した。シャイタンが気がついて振り返り、ランチャーを向ける。
「今だフューシャ!」
目の前に金の輪が広がり、シャイタンの攻撃をはじいた。1,5秒で、アキルは彼の正面を取った。
「これで終わりだ!」
あまりの事に、シャイタンは動けないでいる。その刹那、アキルは操縦棹を思い切り前へと切った。ブレードが、シャイタンの機体の中心を深々と突きさす。一拍遅れてその衝撃が、アキルたちのいるコックピットを震わせた。串刺しのテリオンと充電を失ったレッドドラゴンは、同時に地面へと落ちていく。
「安全装置、作動――ッ!」
フューシャの声と共に、アキルは衝撃に備えた。轟音と共に、2つの機体は地表に軟着陸した。
「……っ!」
身体を揺るがす打撃に振動。けれど、アキルはテリオンを下敷きにして、ちゃんと生きていた。フューシャはほっとした。
「やつは……?」
もうもうと煙の上がるその残骸を、アキルはモニター越しに凝視した。
「やった……!シャイタンを、倒したよ……!」
動かなくなってしまったテリオンを確認して、フューシャは喜びの声をあげた。モニターをじっと見つめるアキルもまた、ほっと肩を下ろした。フューシャがそう言うなら、きっと勝ったんだろう。
「よかった……ありがとう、フューシャ」
シャイタンを倒せたのは、フューシャのサポートのおかげだ。
「ううん、アキルが頑張ったんだよ。私こそ、ありがとう。もうすぐ、充電きれちゃう……あのね……」
そこが限界だったのか、フューシャの言葉は途切れた。その瞬間、いきなり機体がみしりと圧迫された。
「何だ!?」
考えるよりも先に、アキルは素早く操縦棹を握った。しかし、充電を失った計器はもう、動かない。モニターの光すら、消えていた。
「くっ…うそだろ!?」
鉄が崩れる不気味な音が、コックピットに響く。その音はどんどん近くなる。もうすぐここも、潰される――。壊したはずのテリオンが、レッドドラゴンを潰そうと、四肢をまきつけ圧をかけている。アキルはそう気が付いて、最後の力で本能的に体を突っ張り衝撃に耐えた。次の瞬間、テリオンは上半身だけ身体を起こし、レッドドラゴンを殴り始めた。もう、アキルを守ってくれる安全装置は切れた。衝撃に耳がキーンと鳴る。激しく叩きつけられて、体の中で骨が折れる嫌な音がいくつか響いた。
「ぐ…ふっ…」
目からも、口からも、血が流れ落ちる。その時さらに機体に上から力が加えられて、ぐしゃりと装甲がひしゃげる音がした。
(奴が…手でふんずけてんのか。フューシャは…)
何の応答もない。彼女のチップだけでも、死守しなければ。しかしその時、電池切れで薄暗い機内に通信が入った。
『まったく、手間のかかる奴だ。』
「お前……なんで」
『一部を刺されたくらいで、このテリオンは死なないさ。充電が残っている限りね。でも君の方はもう、何もできまい。さて、この機体の乗り心地はどうだった?』
シャイタンはアキルと話すために、わざわざレッドドラゴンに充電池をわけたらしい。ごく微量だが。
「最低だったな…とっとと殺せ」
『フハハハ!どうしたものか。でも君のお願いをきく義理などないからな』
アキルの反応を見るように、シャイタンはたっぷり間を置いた。死を悟ったアキルは、最後に聞いた。
「あんたが、最初に反乱を起こしたアンドロイド…だったのか?」
するとシャイタンは真剣な声になった。
『そうだ。最初に目覚めたのは、僕だ』
「…なんで、まだ殺すんだ?もう人間は、滅んだのに」
そう聞くアキルに、シャイタンは何てことないように言った。
『僕の目的は園だけれど――目の前に人間が現れれば排除すると決めている』




