第24話 集結の刻と、照らされる縁
森の奥深くでの戦闘から数日。黒服の男と呼ばれる闇術者に捕えられたイザベルを救出したことで、神殿騎士団や冒険者たちの士気は高まりを見せた。一方、男の足取りは依然として掴めず、魔王軍との繋がりもはっきりしないまま。緊迫感だけが日々増していく。
レオンたちのパーティは、トルディアを拠点に情報収集と短いクエストをこなしつつ、いつでも出撃できる体勢を維持していた。守護騎士を呼び出す彼の力は、神殿領や王都から注目を浴び続け、特に闇術対策に本格的な連携を求める声が大きくなり始めている。
◇
そんなある朝、ギルドのロビーでひときわ大きな賑わいが起こった。「王都の部隊が近くに到着した」「勇者パーティと神殿騎士団が共同作戦を検討しているらしい」という噂が一気に広がったのだ。聞けば、王都騎士団の正式斥候隊や“赤獅子隊”の騎士が町に集結しつつあり、神殿騎士団もイザベルを含む中心メンバーを派遣しているという。
その理由は単純――黒服の闇術者が触手を伸ばし、民間被害も出始めたことで、いよいよ王都と神殿領双方が“一致団結して闇の根を断つ”動きを見せ始めたのだ。もし魔王軍の尖兵だったなら、早めに排除しなければ戦乱拡大の火種になりかねないという判断である。
「これが“大きな波”か……。ついに王都と神殿領が手を組むなんて、そう簡単にはなかったはず」
マリスが噂を聞きながら呟く。王国が神殿領とここまで協調するのは珍しい光景だという。グラウトもうんうんと唸り、「やっぱり、それだけ闇術が深刻なんだろう。勇者パーティが主軸になるのかもしれないけど、俺たちも呼ばれるかもな」と頬をこわばらせる。
◇
そして間もなく、実際にギルドの支部長がレオンたちを呼び出し、「神殿騎士団イザベルや王都騎士団の一員、そして勇者パーティが近く合同会議を開くから、ぜひ出席してほしい」と伝えてくる。場所はトルディアの公衆広場近くに仮設された作戦本部。
レオンは逃げる理由もなく承諾する。この闇の術者を巡る事態で、守護騎士を持つ自分が関わるのは必然だ。仲間のマリスやグラウト、斥候、女剣士も同行を申し出てくれている。こうして、いよいよ“王都と神殿領の共同作戦”という舞台に足を踏み入れることになる。
◇
翌朝、町の中央広場近くに仮設されたテントには、金色と白を基調とした神殿騎士団の旗、そして王都騎士団の紋章が並んでいる。人々が行き交い、そこかしこに鎧武者や僧侶風の姿が入り混じる。
レオンたちがテントへ入ると、すでにイザベルと赤獅子隊の騎士数名が談笑しており、その奥には王都の騎士や魔術師が数名。――そして、レオンの視線が止まったのは、テーブルの一角に立つ勇者パーティの面々だ。先にトルディアを訪れていたはずのアレン、聖騎士セドリック、魔術師セシリアらが揃っている。
一瞬、周囲がざわつく。以前、勇者パーティとの仲はぎこちないまま終わっていたが、ここでまた顔を合わせることになるのか。アレンがレオンに気づき、微妙な表情を浮かべながら軽く手を挙げた。
(まあ、ここでは私情を持ち込んでいる場合じゃない。闇術者を倒すのが先だ……)
レオンは胸の奥で気を引き締め、テントの中央へ進む。イザベルが駆け寄って「来てくれて嬉しいわ。闇術者のこと、あなたたちの情報は欠かせないから」と笑顔を向け、赤獅子隊らしき騎士も「お前か、先日森で騎士を呼んでいた……」と関心を示す。
こうして十数名が円卓を囲み、即席の“合同作戦会議”が始まった。
◇
まず王都騎士団の指揮官が口火を切る。「当方の調べでは、闇術者と見られる黒服の男が複数の闇魔物を率いており、最近の村襲撃や荒れ地の儀式など、大部分に関わっているのは間違いない。神殿領サイドでも同様の報告があり、すでに小隊が被害を受けた。そこで王都と神殿が共同で大規模な探索隊を編成し、奴を捕捉するという結論に至った」
続いて神殿騎士団のリーダー格が「私たちも同意見だ。奴は魔王軍の手先なのか、独自の闇組織なのか分からないが、早期に排除しないと被害が拡大する一方だ」と頷く。
そこで視線がレオンへ向き、イザベルが申し訳なさそうに続ける。「あなたには度々協力をお願いしてきたけど、今度こそ、私たちとともに正式な討伐隊に参加してほしい。騎士を呼べる力は非常に大きいから……」
「もちろん、俺もこのまま放置はできないと思ってます。仲間と一緒に加わりたい」
レオンは迷わず同意する。腕の痛みはほぼ治まり、いつでも戦える体勢だ。仲間たちも隣で頷いてくれる。
さらに、王都側の指揮官が「ならば勇者パーティのアレンたちとも同じ戦場で動くことになるな。君たちには前線での闇魔物との交戦力を期待している」と続ける。アレンが軽く目を伏せてレオンを見る。
◇
これで闇術者討伐の大筋は固まり、次は具体的な作戦内容を詰める段階に入る。森や廃墟、荒れ地などを細かく分割して捜索する案が出され、王都騎士団が本隊、神殿騎士団や冒険者が複数の先遣隊としてエリアを掃討する。もし黒服の男が見つかれば、速やかに合流して包囲する――そんな大規模作戦を想定しているようだ。
アレンがテーブル上に広げられた地図を見ながら「闇術者が森か遺跡か、あるいは廃墟に潜伏している可能性が高い。魔王軍の痕跡と繋がっているなら、近隣で新たな儀式を起こしてもおかしくない」と静かに言う。
聖騎士セドリックは相変わらずレオンに対してあまりいい顔をしていないが、場を弁えてか黙って地図を凝視し、魔術師セシリアが「この辺りの霊脈が歪んでるという報告があるわ。最優先で確認すべきでしょうね」と補足する。
◇
結局、長い議論の末に以下の方針が決まった。
・王都騎士団の本隊が森の北側から大規模に進軍し、魔物を掃討する。
・神殿騎士団は別ルートで森の東側を捜索し、闇の印が見つかった地点を重点的に調べる。
・レオンたち冒険者チームは森の西側を担当し、黒服の男の痕跡を探しつつ、もし発見すれば速やかに合図を送って包囲する。
・勇者パーティは本隊と共同行動し、決戦時には中心的な役割を担う形。
・いずれも森の深部で黒服の男を発見次第、合流して囲む体制を築く。
こうして作戦は概ね固まったが、細かいタイミングや連絡方法はまだ詳細を詰める必要がある。とはいえ、形としては“王都+神殿+冒険者全体”が協力して闇術者を追い詰める初の大規模作戦だ。
イザベルが「これなら今度こそ捕まえられる……そう信じたいわ」と力を込めた声で言い、レオンも頷く。勇者パーティのアレンはレオンにやや複雑そうな視線を向けたが、とにかく表面上は協力モードが整った。
◇
会議後、テントを出て夜の風に当たるレオンに、アレンが静かに近づいてきた。「……レオン、久しぶりだね。君がここまで大きな力を得ているなんて、正直驚いてる」
レオンは微妙な距離感を保ちつつ、「そっちこそ、勇者としてすごい進歩をしてるんだろう? 俺と一緒にやる気はないんだよね」と苦笑まじりに言う。セドリックの存在もあるし、追放の記憶は未だに生々しい。
アレンは申し訳なさそうに瞳を伏せ、「本当にあのときはごめん。でも今回は、闇術者を止めるために力を合わせたい。君が嫌なら無理にとは言わないけど……君が加わってくれると助かるんだ」と言う。
レオンは短くため息をつき、「分かったよ。今は闇術者討伐が最優先だしな」とだけ答える。個人的なわだかまりは残るが、この場では大義のため、協力するしかないだろう。
◇
そして作戦開始は数日後に決定。王都の部隊や神殿騎士団、そしてトルディア周辺の冒険者が森の各ルートを封鎖するように配置され、闇術者とおぼしき気配を徹底的に洗い出すことになる。
レオンたちも準備のため、短い時間で必要物資を整え、仲間と作戦の最終確認を行う。騎士を呼ぶ場合、短時間で勝負をつけなければならないという制約をみんなで再認識しつつ、前線で魔物を捌く役割分担を固める。万が一、黒服の男に先回りされるなら、合図を送って王都または神殿騎士団の助力を得るのが最善だ。
「正直、怖いわね……。でも、こんなに大きな連携なら、いくら奴も簡単には逃げられないだろうし」
女剣士が不安を滲ませながらも、期待を込めて言う。斥候は地図を広げ、「何か秘密の拠点があるなら、森の北東あたりかもしれない。廃墟の村、遺跡、沼地……そこを重点的に攻める感じかな」と推測する。
レオンは頷いてみせるが、心の奥では別の予感が渦巻いている。仮に黒服の男が想定以上の戦力や魔王軍の援護を得ていた場合、こちらの作戦も崩される恐れがある。大規模戦になれば、短時間しか行使できない“守護騎士”では対応しきれない場面が出るかもしれない。
(それでも……やるしかない。逃げられてばかりじゃ、さらに被害が広がるだけだ)
◇
夜の帳が降り、作戦開始は間近に迫る。レオンは宿の部屋で装備を点検し、腕の軽い痛みを念入りにほぐす。仲間は隣室で同じく仕度をしている。神殿騎士団のイザベルや王都の赤獅子隊も、すでに町に駐留しており、明日か明後日には最終の合図を出して一斉に森へ進軍する手はずだ。
守護騎士を万全の状態で呼べるよう、魔力を温存して睡眠を取る。頭には不安と緊張が渦巻いているが、あと少し。これが今度こそ“闇術者との決着”に繋がるかもしれない。
(黒服の男……この世界を歪める時空の力を狙っているとか言ってた。もし俺が捕まったら、その力を逆に利用される可能性がある。……そんな未来は絶対に嫌だ)
紋章を握り、目を閉じる。すぐそばに騎士の存在を感じ、わずかに体が温まるような気がした。いつか本当に魔王軍が顕在化し、大戦が始まるなら、自分はその中心で戦わねばならないだろう。仲間との連携を信じ、王都・神殿とも協力しながら、いずれ魔王をも超える脅威に立ち向かう。
その第一歩が、今回の“闇術者”討伐だ。失敗は許されないし、成功すれば世界に安堵をもたらす一手となるだろう。そうしてレオンは眠りへ落ち、闇に沈む意識の奥で、未来の騎士と手を取り合うイメージを思い描いた。
◇
翌朝、町の空気がぴりりと張り詰める。神殿騎士団、王都騎士団、そして勇者パーティや多数の冒険者が街道の各所に集まり、いよいよ森の内部へ向けて出発の準備をしている。広場には兵や荷馬車が列をなし、飲食物や薬品を積んで長期戦に備える様子が見える。
レオンのパーティも最終チェックを行い、グラウトやマリスが「行くぞ」と頷き合う。斥候と女剣士が「準備OK」とそれぞれの武器を抱えて微笑む。
周囲には勇者パーティの姿もあり、アレンが一瞬視線を交わして会釈する。細かいわだかまりはあれど、この作戦で共に闇術者を討伐できれば、大きな成果につながるだろう。たとえセドリックが嫌な顔をしていようと、今は空気を読んで黙っているらしい。
「いざ、森へ……。今度こそ、あの男を逃がさない」
レオンは小さく言い聞かせ、紋章に意識を向ける。騎士が静かに共鳴し、熱が腕を駆け巡る。隣でイザベルが「一緒に頑張りましょう」と微笑み、王都の騎士も「頼むぞ、召喚士」と声をかけてくる。
こうして、大規模な合同捜索が幕を開ける。もし男が潜む拠点を突き止められれば、決着の時は近い。王都や神殿、冒険者が一丸となって挑む形になり、黒服の男が更なる闇の儀式を企んでいるなら、これが正面衝突の舞台になるはずだ。
そして、守護騎士を召喚する〈最弱から成り上がった召喚士〉レオンは、自ら選んだ仲間と共に、その戦いの中心へ踏み込んでいく。時空の禁忌を抱えながらも、魔王軍の気配を感じる闇を切り裂くために——いよいよ運命の分岐点が近づいていた。
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