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第22話 合流の兆しと、伏流の闇

 あの夜の激戦から数日後。トルディアの空気には依然、張り詰めた緊張感が漂っていた。黒服の闇術者が再度村を襲った上、森で待ち伏せしていたレオンたちと衝突したものの、逃げられてしまった――その余波が、ギルドや神殿騎士団の間でじわじわと広がっている。

 魔王軍本隊の動きはまだ見えないが、局所的な闇の襲撃や印刻が散発的に報告されており、「本格的な侵攻の前段階ではないか」と囁かれ始めている。あるいは、組織的な闇術者の集団が、この地域を足がかりに勢力を伸ばそうとしているのかもしれない。

 そんな情勢の中でレオンは腕の呪いを抱えながらも、日々仲間たちとクエストに励んでいたが、心の底には落ち着かない思いが残る。いつまた黒服の男が攻撃してくるか分からない以上、単純な仕事すら命懸けかもしれない。何より、闇の術者による民間への襲撃をこれ以上放置すれば、被害が増えてしまうに違いない。



「王都の騎士団が、近いうちに大規模な偵察隊を組織するとか聞いたけど、あれって本当なのかな」


 ある昼下がり、ギルドのロビーでマリスが話を振る。すぐ隣ではグラウトが「どうやら本当らしい。勇者パーティが王都へ戻って、闇勢力との対処を協議してるって話だ」と真面目な顔で答えた。斥候と女剣士も興味津々に耳を傾ける。

 レオンはそのやりとりを聞きつつ、黒服の男のイメージが頭から離れない。この先、大規模偵察が行われるなら、あの男を捕捉できる可能性も高まるが、同時に自分が巻き込まれる確率も増すわけだ。王都や勇者パーティが本格的に動き出したら、否が応でも“騎士召喚士”として期待を寄せられるだろう。


「まぁ、俺としては神殿騎士団とも連携して、あいつを追ってるんだけど……結局、連絡待ちの状態だし。王都の動きが加われば、そっちとも一緒にやらないといけないかもしれない」


 レオンが苦々しく呟くと、マリスが小さく息を吐く。「どちらか一方に肩入れするのは難しいわよね。王都だろうが神殿領だろうが、レオンを独占しようって話が出ないとも限らないし……」

 グラウトも頷き、「そうだ。おまけに黒服の男が魔王軍と繋がってるかどうかも判明してない。もし魔王軍なら、勇者パーティにも絡んでくるだろうし……。何にせよ、俺たちが勝手に動いて捕まえられるような相手じゃない」と肩をすくめた。



 その日の夕方、そんな話をしながらギルドのロビーにいると、神殿騎士団のイザベルが息を弾ませて駆け込んできた。彼女はレオンを見つけるなり、「また闇術者の痕跡が見つかった」と顔を曇らせる。

 聞けば、森の外れの一部で新たな“闇の紋様”が描かれており、近くの小動物や獣がいびつな姿で倒れていたという。どうやら魔物や野生生物を汚染する術式が使われた形跡があり、その付近で黒いローブの男らしきシルエットが目撃されたとする村人の証言があるらしい。


「彼はまだこの辺りをうろついてるのね。……もし大規模な召喚を狙っているなら、本当に危険だわ。私たち神殿騎士団も大隊を投入できるほど人が足りないし、王都の騎士団と合流するしかないんじゃない?」


 イザベルの言葉に、レオンは心が揺れる。もし王都の偵察隊と神殿騎士団が合流すれば、かなりの戦力が集まるだろう。そこに自分が加われば、今度こそ男を捉えられる可能性がある。しかし、それは同時に神殿領や王都への“依存”を深める決断になるかもしれない。

 考えあぐねた末、レオンは仲間の顔を見渡し、静かに言う。「俺はもう、街や人々を巻き添えにしたくない。だから……もし神殿騎士団と王都騎士団が本格的に“合同で動く”なら、そこに参加するよ。あの男を捕まえるために、守護騎士の力を出し惜しみしたくない」



 マリスやグラウトたちも、その決断を支持してくれる。「そりゃ、王都や神殿領に巻き込まれすぎるのは嫌だけど、あの闇術者を放置してたら無辜の人々が犠牲になるのは目に見えてる」とグラウトが口火を切り、マリスも「私も反対しない。要は、レオンが都合よく利用されないように注意すればいいだけ」と笑顔で応じる。

 イザベルは深く頷き、「ありがたいわ。実はもう、王都側と連絡を取り始めている。幸い、勇者パーティや騎士団も最近になって周辺被害を把握しており、動員を検討しているらしい。具体的には、数日中にここトルディアで打ち合わせをする予定だとか」と語った。

 数日後——つまり、意外にも近い将来に、神殿騎士団と王都騎士団がトルディアで“闇対策会議”を開く可能性がある。そこで黒服の男の脅威を共有し、一斉捜索を行う方針が立てられるに違いない。もしそれが確定すれば、レオンも参画することになるだろう。



 ところが、その夜になってさらなる風雲が動く。深夜、レオンたちが宿で休んでいると、突如としてギルドから「緊急事態だ」と叩き起こされる。慌ただしい騒音に目を覚まし、廊下へ出ると、ギルド職員が青ざめた顔で駆け寄ってきた。


「大変です! 神殿騎士団の小隊が街道で襲撃を受けたとの情報が入りました! 闇術者と思わしき集団が待ち伏せしていたようで……まだ詳しい状況は分からないけど、数名が重傷を負っているとか……」


 仲間たちも宿の部屋から飛び出してきて、驚きと怒りをあらわにする。イザベルや神殿騎士団のメンバーが巻き込まれた可能性が高い――彼女が直接危険に晒されているかもしれない。レオンたちは急ぎ装備を整え、状況を確かめようとギルドを出る。

 と、そのとき、外へ駆け出した先で、負傷した神殿騎士の一人が血まみれの姿で倒れ込んでいるのが目に入った。街の警備兵が慌てて介抱しようとしているが、騎士は息絶え絶えだ。彼はレオンの顔を見てか細い声で呼びかける。


「れ、レオン……さん……イザベル副団長が……奴らに捕まった。闇術者が、魔物と共に襲ってきて、我々は……」


 言葉はそこで途切れ、騎士は意識を失った。周囲が騒然となる中、レオンは衝撃で心臓が鷲掴みにされた気分を味わう。

 イザベルが捕まった? あの神殿騎士団小隊がまとめて襲撃されたというのか……もし黒服の男の仕業なら、既に容赦なく術をかけているかもしれない。



「くそ……これで奴らが神殿騎士団を人質に取るような事態になったら大変だ。早く救出しないと……」


 グラウトが歯噛みし、マリスも「イザベルたちを助けなきゃ」と目を潤ませる。斥候や女剣士は武器を握りしめ、「夜中だけど、すぐに出撃しようよ」と焦りを滲ませる。

 レオンは動揺を抑え、ギルド職員と情報を擦り合わせる。どうやら街道の外れで騎士たちが襲われ、負傷者が必死に駆け戻ってきたらしいが、残りは捕縛もしくは追撃中とのこと。場所は森の近くで、昨夜のうちに突発的な戦闘が起きたらしい。

 ほかの冒険者たちも駆けつけ始め、「救出隊を編成しよう!」と叫んでいる。だが夜闇の森は危険であり、闇術者相手では中途半端な人数で行けば殲滅されかねない。神殿騎士団からの増援はまだ来ないのか——急ぎ連絡を取っているが時間がかかるようだ。



「行くよ、みんな。イザベルを放っておけない」


 レオンが声を上げると、仲間たちも即座にうなずく。街の他の冒険者も数名が志願してくれそうだが、あまりに闇術者が多いなら危険だ。ともあれ、時間をかけて大勢を集めている間にイザベルたちが殺されるかもしれない。

 「とりあえず、俺たち先遣隊が出る。後から神殿騎士団や街の兵士が来るまでの間、状況を確認するしかない」と決め、グラウトやマリス、斥候、女剣士ら5人のパーティに加え、数名の志願冒険者が追従する形で夜闇へ消えていく。

 レオンの胸には激しい不安と怒りが渦巻いていた。あの黒服の男が再び姿を現し、今度はイザベルを人質に何か企むのか。それとも闇の儀式に利用するのか。考えるだけで胃が痛むような感覚だ。だが守るしかない――“宝鍵”を託してくれた彼女を見殺しにするなど、断じてできない。



 深夜の街道を駆ける小隊は、馬車を使わず、徒歩で懐中ランプを持ちながら全速力で森へ向かう。途中、顔見知りの冒険者数名が合流し、合計十人ほどの集団になった。だが森に近づくにつれ、空気が冷え、嫌な静寂が漂う。

 斥候が痕跡を探すと、明らかに複数名の足跡があり、地面に赤黒い血痕が点々と残されている。さらに進むと倒れた神殿騎士の装備品が落ちており、どう見てもただ事ではない。ここから先、魔物の死骸が散見される一方、人間の姿は見当たらない。

 やがて、木立の向こうに微かな光が見えた。火種かランプか、何らかの照明が使われているらしい。その周囲には人影のような黒いシルエットがうごめいているのが見え……そして、中央には横たわる複数の人影。たぶん神殿騎士たちだ。

 ゾッとする気配が背筋を撫でる。黒服の男がそこにいるのかもしれない。レオンは仲間と視線を交わし、静かに武器を構える。闇夜の森での救出戦は、まさに一瞬の油断が命取りだ。


「……やるしかない。もしイザベルが捕まってるなら、一刻を争う」


 レオンは覚悟を決め、仲間たちが頷く。短剣と盾を握る右腕が震えるが、痛みはもう忘れている。もし危なくなれば、守護騎士を呼ぶしかない。

 一歩ずつ足を進め、茂みの陰から様子を窺う。そこには複数の闇魔物が徘徊し、うつ伏せに倒れた神殿騎士らしき人物の周囲を囲んでいる。だが、肝心の黒服の男は見当たらない――と思った矢先、少し奥のほうにローブ姿の影が動くのが見えた。あれだ、間違いなく――。

 そして、その傍らには……なんと、イザベルの身体が倒され、魔力の鎖のようなものに縛られている。彼女は必死に何かを叫んでいるように見えるが、声は小さく、闇術で封じ込められているのかもしれない。


(くそっ……今度こそ逃がすわけにはいかない)


 レオンは胸中で拳を握りしめ、仲間に合図を送る。グラウトが大きく頷き、マリスが詠唱を開始、斥候が弓を番える。突撃のタイミングを合わせ、森の闇に飲まれないよう、静かに呼吸を合わせた。

 夜の死線が今ここに展開されようとしている。黒服の男がこのままイザベルと騎士団員たちを連れ去って闇の儀式へと供物にするなら、決して許せない。

 レオンは紋章を意識しながら、最後に小声で「頼むよ、“未来のレオン”……」と囁く。男の闇術は凶悪だが、守護騎士と仲間がいれば、必ず勝てると信じて突撃の瞬間を待つ——もう後には引けない。ここでイザベルを救えなければ、何のための“力”か分からない。


 漆黒の森に微かな月光が差し込み、無数の魔物のうごめく気配をかき分けて、一行が歯を食いしばる。暗雲が広がる夜空の下、運命を懸けた救出戦が始まろうとしていた。

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