表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

第12話 護衛の道と、覗く深い闇

 Dランクへ昇格してから数日が経った。レオンは新たな地位を得たことにより、トルディアのギルドでも一段広い範囲のクエストを受けられるようになっていた。前までよりも難易度の高い依頼票が目につくが、そのぶん報酬はかなり大きい。

 しかし彼は、以前から話を持ちかけられていた商隊護衛の依頼に心を向けていた。相談を重ねた結果、仲間のマリスも「魔法素材が手に入りそう」と興味を示し、二人でパーティを組んで参加することになったのだ。


 護衛を依頼したのは商人ロイド。以前、レオンが初期のころに助けた知り合いでもある。ロイドは北方の国境地帯へ物資を運ぶために大きな馬車隊を仕立て、道中のモンスターを排除する“戦力”を募集していた。Cランク冒険者を雇うには高額すぎるため、Dランクでも信用できるレオンを指名してきたわけだ。

 こうしてレオンとマリスは“護衛パーティ”を名乗り、数日間の北方への旅に随行する形となった。長距離移動を伴う冒険は初めてで、しかも“守護騎士”の存在が広く知られた今、どう振る舞うかが課題だが、二人とも楽しみにしている部分もあった。



 出発の日。

 町の北門前に、ロイドの馬車が5台ほど並んでいた。どれも大きな荷箱を積み、各車に御者と助手が乗っている。ロイドがその陣頭に立ち、最終チェックに余念がない。

 レオンとマリスが到着すると、ロイドは「お、待ってたぞ」と手招きする。「道中は魔獣の出没が増えてるんで、頼むから油断はしないでくれよ。あと、一緒に同行する護衛要員がもう二人いるから、君たちだけで背負うわけじゃないから安心してくれ」


「護衛要員が他にも……ですか。良かった」


 レオンは胸をなで下ろす。二人きりで広範囲の馬車を守るのは難しいが、他の冒険者がいればフォローし合えるだろう。

 するとロイドが視線を向けた先に、軽装の剣士と弓使いらしき人物が立っていた。どちらもDランク程度の冒険者で、以前からロイドの護衛を兼ねていたとのこと。そちらが前衛・斥候を担い、レオンは補助と“切り札”の役目、マリスは後衛火力と回復魔法を担当という形で分担する。


「なるほど……ずいぶんがっちりした体制ですね」


「まぁ、北方の寒い地域には狼やオークなど凶暴な魔物が多いって話さ。あと盗賊の類いも出るかもしれないし、念には念を入れたいところだ」


 ロイドの言葉にレオンはうなずき、ぐっと身を引き締める。いくら“騎士の召喚”があっても、一人で複数相手にするのは限度があるし、長丁場の護衛では魔力の節約も重要だ。

 マリスは淡々と準備を整えながら、「途中の村には珍しい薬草があるらしいから、寄り道させてくれたら嬉しいわ」とロイドに提案。彼も「構わない。安全が確保されたら見てきていいぞ」と快く許可する。まるで商談と冒険がミックスした和やかな雰囲気だ。



 こうして五台の馬車を連ねた商隊は、早朝のうちにトルディアを出立した。ロイドをはじめ御者や助手が前後を固め、護衛部隊は左右と後方に散らばって馬や徒歩で移動する。道は整っているが、しばらく行くと森や小丘が続く地形になるため、魔物との遭遇率が高まるだろうという。

 レオンは馬に慣れていないので、歩きながら時々荷台に乗せてもらう形になる。マリスも一緒に行動し、キャンプや宿泊の段取りを話し合いつつ、魔物が来たときの連携を再確認している。


「もし複数の強敵が出たら……また守護騎士を呼ぶ感じ、になるのかな」


「う、うーん、そうなるかも。正直、見られたくない部分もあるけど、緊急なら仕方ないよね」


「そうね。今はDランクだし、ある程度は理解も得られると思うわ。あなたが闇の術者じゃないことは噂が広まってるし」


 マリスは力強く微笑む。彼女なりにレオンの力が独特だと認めつつ、異端視されることを少し心配しているようだ。だが、危機が迫れば使わなければ意味がない。レオンは軽く苦笑し、「本当に困ったら頼るよ」と答える。



 旅の初日は何事もなく終わった。緩やかな街道を北上し、小さな村で宿をとって一泊。道中に魔物の気配を感じたが、実害はなく、他の護衛たちも「意外と安全だな」と肩の力を抜いている。ロイドも「これだけ護衛がいれば魔物も尻込みするってわけさ」と得意げだ。

 翌日はさらに奥へ進む。丘の稜線に差し掛かったころ、先頭の斥候が「獣の足跡があるぞ」と警戒し始めた。地面に大きな狼のような足跡が点々と続き、血のついた毛が散らばっている。どうやら何かと戦闘したのか、あるいは仲間割れか……詳しくは分からないが、不穏な気配を残しているのは確かだ。


「気を抜くな。いつ襲われてもおかしくないぞ」


 剣士の護衛隊員が仲間に声をかける。レオンも短剣と小盾を再装備し、ロイドが乗る馬車の近くを歩く。マリスは後方の車に乗って魔術の準備を整えていた。

 すると、ちょうど昼に差しかかる頃、道の脇の森から大きな唸り声が響く。斥候が「来たか!」と叫び、護衛部隊が一斉に臨戦態勢をとる。現れたのは灰色の巨体をしたイノシシ型の魔獣——背に鋭い棘が生え、目は血走っている。明らかに普通の動物ではなく、亜種の魔物だ。


「まずい、あれは“スパインボア”……Dランク上位クラスの獣だ!」


「結構強力じゃない! どうする!?」


 護衛メンバーが焦る。スパインボアは突進力が凄まじく、剣士一人では受け止め切れない危険がある。馬車隊が囲まれてしまえば大混乱になるだろう。

 レオンはとっさに盾を前に出し、斜め方向からイノシシを牽制しようとするが、相手がブワッと唸って頭を下げた瞬間、猛烈なスピードで突撃してきた。斥候が矢を放つも、肩に刺さった程度では止められない。地面が揺れるほどの衝撃が迫り、仲間たちの表情が青ざめる。


(ここで騎士を呼ぶ……? いや、まだ1匹だし、みんなで連携すれば倒せるかもしれない)


 レオンはぐっと歯を食いしばり、騎士への頼みを一瞬ためらう。Dランク以上の力を得ているのなら、守護騎士以外の手段でも十分立ち向かえることを示したい気持ちがある。

 マリスが後方から呪文を発動し、炎の矢を放つ。スパインボアの突進がわずかに乱れるが、それでも突撃の勢いは止まらない。もう一度、レオンは短剣を握りしめるが、これだけの質量に正面から当たるのは危険すぎる。


「レオン、危ない!」


 斥候が叫ぶが、もう目の前——。一瞬レオンが盾を構えるものの、衝撃波で体ごと吹き飛ばされそうになり、苦痛のうめきが漏れる。だが、この瞬間、思わぬ救援が割り込んだ。

 剣士の護衛隊員がサイドから斬りかかり、ボアの足に一撃を叩き込んだのだ。痛みで狂乱したイノシシが方向をずらし、レオンに直撃する前に軌道が外れる。そこにマリスが二連続の炎魔法を叩き込み、やっと相手の動きが鈍る。斥候の矢も頭部を貫通させ、スパインボアは断末魔を上げて倒れ込んだ。


「よ、よし……倒したか!?」


「危なかった……レオン、大丈夫?」


 仲間たちが駆け寄ると、レオンは盾を押し返されて腕が痛むが、一応無事だ。なんとか守護騎士を呼ばずに対処できたのは喜ばしいが、負傷には要注意。本人は少し悔しそうに「もう少しで呼ぶところだった」と呟いた。



 こうして、スパインボアを討伐した護衛隊は被害を最小限にとどめ、馬車隊を再出発させる。今度はレオンが前衛に立つのではなく、味方の剣士が先頭を守り、彼が補助的にフォローする形に切り替えた。

 ロイドは「あんな大物が出るなんて聞いてなかったぞ……」と汗をかきつつ、「しかし皆が頑張ってくれたおかげで被害ゼロだ。大したもんだ」と笑う。レオンは盾を見つめ、「やっぱり俺一人で全部は無理だけど、みんなで連携すれば守護騎士を使わなくてもなんとかなる場合があるんだ」と微妙な安心感を得る。


(騎士がいなくても、ちゃんとやれるんじゃないか。もちろんピンチなら呼ぶけど、仲間との連携で危機を乗り越えられる道があるなら、それも悪くない)


 彼は視界の端でマリスがホッと胸をなでおろす様子を確認し、心が温かくなる。激戦の末、皆で勝利を掴む感覚——フラル洞窟での体験に近いが、今回は守護騎士を出さずに成し遂げたという達成感が大きいのだ。



 続く数日間、道中で小型の狼やコウモリ系の魔物に襲われることもあったが、護衛メンバーでうまく対処できた。マリスの魔法やレオンの攻撃も相乗効果で撃退し、守護騎士の出番はついに一度も訪れないまま北方の国境近い町へ到着。

 ロイドの取引は滞りなく進み、結果的に死傷者ゼロという大成功に終わる。報酬も期待以上に弾んでくれ、レオンとマリスはDランク相応以上の収益を得られた。これによって、彼らはさらに装備や道具を充実させられるようになるだろう。


「本当に助かった。いや、すまん、あのイノシシは想定外だったが、君たちのおかげで何とかなった」


 ロイドは満足げに礼を言い、宿で小さな祝杯を上げる。マリスは「採取した魔法植物もなかなかいい感じだったわ」と笑い、レオンは「ぎりぎり守護騎士の出番なく済んだけど、これは皆が頑張ったおかげです」と謙遜する。

 こうして、守護騎士の力を使わずとも仲間との連携で大物の魔獣を倒した経験が、レオンに大きな自信を与えた。騎士を頼るだけでなく、普通の冒険者としても戦闘力が磨かれつつあるのだ。



 数日後、無事に再びトルディアへ戻って来た馬車隊は、ギルドへの報告を済ませて解散する。ロイドが「またお願いするかもしれない、頼むぞ」と握手を交わし、マリスは魔法植物を売却したり研究に回したりして満足そう。

 レオンはひとり宿に戻り、久々に自室でくつろぐ時間を味わう。守護騎士なしで大きな魔物にも勝てると分かったことは大きいが、だからといってあの力が不要になるわけではない。たった一匹のスパインボアでさえギリギリだったのだから、本当に強大な敵と対峙したら、また呼ぶ必要があるだろう。


(やっぱり“守護騎士”は俺の最終手段……でも、仲間と助け合うことができれば、そこまで依存しなくても……)


 そんな風に考えを巡らせていると、ふいに宿の廊下から足音が近づき、コンコンとドアがノックされる。戸を開けると、ギルドの若い男性職員が立っていて「レオンさん、すみません、ギルドから呼び出しがありまして」と告げてきた。


「呼び出し……何かありました?」


「いえ、詳しくは分かりませんが、上級職員の方が『王都からのお客様が来ている』とか……。できるだけ早くギルド本部に来てほしいそうです」


 王都、という単語に胸がざわつく。まさか、あの「騎士召喚」の噂が王都の耳に入り、何らかの調査が始まるのだろうか。噂には聞いていた懸念が早くも具現化しつつあるのかもしれない。

 レオンは一瞬躊躇するが、拒否しても仕方ないし、むしろこの流れは不可避だろうと思い、職員に「分かりました。すぐ向かいます」と返事する。ドアを閉めて装備を整えながら、軽く深呼吸して落ち着こうと努める。


(王都の役人か騎士団か。あるいは魔術師ギルドの派遣かもしれない。いずれにせよ“守護騎士”のことで問われるに違いない……)


 不安が込み上げる一方で、「ここで逃げるわけにはいかない」と覚悟を決める。フラル洞窟のシャーマンを討ったことで、一躍注目を集めたのだ。いつかはこうなると、半ば予想していた。

 守護騎士の真相をどこまで話すか——それはまだ決めていないが、少なくとも「危険な闇術ではない」という点を説明できるだけの自信はある。仲間たちやギルドの職員も証人になってくれるだろう。



 そうしてレオンは宿を出て、ギルド本部へ向かう。晴れ渡る青空の下、いくつもの視線を感じながら通りを歩く。守護騎士を持つ召喚士として、人々の興味と疑念の混在がついて回るのは仕方ない。

 “これから先、もっと大きな事件や強敵と遭遇し、王都の騎士団や貴族との関係も深まっていくかもしれない。最弱職と嘲笑されていた頃とは別世界の道だ。だけど、もう後には引けない”——彼は胸中でそう自分を励ましながら、ギルドの扉を押し開ける。


 迎えてくれた職員の表情には緊張が走り、ロビーの奥に何名かの国章付きの人影が見える。どうやら王都からの役人が本当に来ているらしい。

 少し肌寒い空気を感じながら、レオンは軽く拳を握りしめる。守護騎士が背中で静かに見守っているような錯覚を覚えつつ、次なる幕開けを感じさせるその気配の中へ足を進めた。

 最弱と呼ばれた召喚士が、名実ともにDランクとして認められ、そして今度は王都勢力の視線を受ける——その新たな扉の先に、どんな運命が待つのか。大きく物語が動き出す予感に満ちた、一日が始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうか?

毎日投稿予定ですので、ぜひブックマークをよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ