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第11話 新たなランク、そして揺れ動く噂

 ゴブリンシャーマン討伐から数日後。

 トルディアの冒険者ギルドでは、歴史的ともいえる大規模クエストの成果を検証するため、大勢の職員が連日忙しく書類を整理していた。フラル洞窟の制圧により、周辺の魔物被害が激減すると見込まれ、町の商人や住民がひと安心する一方で、成功に貢献した冒険者たちには多大な報酬と加点が与えられ、ギルドの序列が大きく変動しようとしている。


 その中でも際立って注目を浴びているのが「レオン」の存在だった。最弱職としてFランクにいた彼が、突如“騎士の召喚”を披露してゴブリンシャーマンを仕留めた中心人物として噂になり、ギルド内では「レオンは何者だ」「実はCランク並の実力を秘めているらしい」など憶測が飛び交っている。

 当人としては、もともと隠すつもりだった切り札が思いのほか目立った形になり、若干困惑もあるが、すでに後戻りはできない。ギルドが正式に評価を行い、レオンをDランクに昇格させることを決めた時点で、彼の名前は一躍有名になり始めていた。



 その朝、レオンはギルドへ行き、無事にDランク昇格の手続きを完了させる。受付職員が新しいギルドカードを手渡してくれ、そこには「レオン(召喚士) D」という誇らしい文字が刻まれていた。ずっと最弱扱いされていた日々を思えば、大きな進歩だ。

 しかし本人は浮つく気持ちを抑え、淡々と笑みをつくる。周りを見渡すと、大勢の冒険者たちがささやきあいながら彼を見ているのが分かる。視線には好意や興味、時には僅かな嫉妬が混じっていて、レオンは落ち着かない気分になる。


「おめでとう、レオン。これでDランク冒険者か。君ならもっと上を目指せると思うけど、焦らずにな」


 先に待っていたグラウトが軽く肩を叩き、笑いかける。彼らのパーティメンバーもすでにシャーマン討伐の功績によりDランクまたはEランク上位に昇格が決まり、皆それぞれ装備の新調や休養を取りながら、次の目標を考えているところだ。

 レオンも「はい、ありがとうございます」と素直に頭を下げる。フラル洞窟での激闘は、確かに大きな一里塚だった。守護騎士の力が明るみに出たことで周囲の注目も集まったが、仲間には概ね歓迎され、当面トルディアを拠点に活動を続けることにしている。



 しかし、いつまでもその晴れやかな雰囲気が続くわけではなかった。

 昇格祝いの宴が一段落した翌日、レオンはギルドのロビーで奇妙な噂話を耳にする。「あの召喚士、すごい力を持っているらしいが、どこかで“禁術”を使っているんじゃないか」とか、「王国の騎士団が目をつけているらしい」など、あまり好ましくない内容だ。

 直接的に攻撃的な視線を向けてくる者はいないが、“騎士を呼び出す力”は通常の召喚術をはるかに超えていると思われる。中には「闇の秘術に通じている可能性がある」などと言い出す者もおり、黙っていても自然と疑念や不安を抱く冒険者は少なくないようだ。


「……やっぱりな。あれだけ派手に使えば、いろんな憶測が出るか」


 ロビーの一角で噂話を聞きながら、レオンは溜め息をついた。仲間やギルド職員の中には信頼を示してくれる者も多いが、一方であまり関係のない者たちは好奇心や疑惑を募らせる。今は何も行動を起こしていないが、もし王国の役人や魔術師ギルドが興味を持てば面倒なことになるかもしれない。

 そう思っていると、背後から静かな声がかかった。振り向くと、マリスが心配そうな顔で立っている。彼女は同じパーティメンバーとしてレオンの秘密を大雑把に知っているが、詳しい由来までは把握していない。


「ねえ、レオン……いろんな噂が飛び交ってるね。私としては、君が危険な力を振るってるわけじゃないと分かってるから、気にしなくていいと思うけど、もし何かあれば相談してね」


「……ありがとう。正直、不安だけど、みんなが信じてくれるならまだ大丈夫かな」


 マリスは微笑み、「あなたはギルドにとって貴重な存在よ。今やDランクだし、あまり気にしすぎることはないわ」と言ってくれる。彼女自身、魔術の研究者という立場から“召喚士”の能力に興味はあるが、闇術だと決めつけるような態度はない。

 レオンもそれに少しほっとし、「ありがとう、実は王都から何か問い合わせが来るんじゃないかとビクビクしてた」と打ち明ける。するとマリスは鼻で笑い、「それも時間の問題かもね。でも私が見たところ、あなたの騎士は邪悪な力とは無縁だと思う」と背中を押してくれた。



 その日の午後、レオンは気分転換も兼ねてソロの小クエストを探すことにする。以前と違い、Dランクとして受けられる依頼の幅が広がったため、ギルドの掲示板には未経験の中規模クエストもいくつか載っていて、興味を惹かれる内容が多い。

 例えば「アデルの森の最奥にいる巨大イノシシの討伐」「迷宮化しつつある遺跡の踏破」など。どれもそれなりに危険だが、報酬もFランクの頃と比べて桁が違う。守護騎士の力があれば、一度試してみる価値があるかもしれない。


(ただ、Dランクといえどもソロで挑むにはキツい場合もある。できれば仲間と組むか、短時間決戦で片づけられる依頼がいいけど……)


 新しい挑戦に踏み込むかどうか考えていると、ロイドという商人仲間がタイミングよく姿を見せ、「レオン、いいところに!」と手招きする。彼は最近、町を中心に交易を行いながら、何度か護衛依頼をレオンたちに持ち込んでくれた人物だ。

 ロイドは意気込んだ様子で、「実は新しい取引先が北の国境付近にあってな。そこまで商隊を率いて行きたいが、モンスター被害がひどいんだ。護衛を頼みたいんだが、どうだ?」と切り出してくる。


「護衛依頼、か。町の外の街道は最近どうなんです?」


「最近は魔獣の目撃が増えてるらしくてな。Cランク以上の実力がほしいとこだけど、俺は費用を抑えたくて……いや、君ならDランクでも大丈夫だろうし、あの騎士もあるし」


 結局そこに行き着くのか、とレオンは内心苦笑したが、護衛は危険度に見合った報酬が期待できるし、そろそろ次のクエストを受けたいと思っていたところでもある。名声を高めるという点でも、商隊護衛は悪くない選択だろう。

 ただし領地をまたぐ長距離護衛となれば日数もかかり、モンスターの種類も多様化する可能性がある。レオンは「念のため他の仲間を誘えませんか」と提案する。するとロイドは「そうだな、マリスかグラウトに声をかけてもいい」と頷く。



 こうしてレオンは、次の目標を“商隊護衛”に定める可能性を感じつつ、ギルドで仲間を探すことにした。すぐにマリスが興味を示し、「護衛しながら北方の魔法植物を採取できるかも」と喜ぶ。グラウトは「長期間の遠出はちょっと……」と難色を示したが、場合によっては彼ではなく別の仲間を探す道もあるだろう。

 いずれにせよ、守護騎士をめぐる噂は拡大し、簡単にはソロ活動もしにくくなるかもしれない。だが、もう騎士の力を隠し通す段階は過ぎているとレオンは感じていた。

 騎士の存在を知られた以上、これからはいろんな意味で“注目の召喚士”として生きていかねばならない。王都や他のギルド支部が彼に興味を示す可能性は高いが、焦って遠方へ逃げても意味がない。むしろいずれ起こり得る“魔王軍との衝突”に備えるため、力を蓄える時期なのだろう。


(“未来の自分”は、もっと魔王軍が活発化する未来を知ってると言ってた。今は町やギルドで認められ始めた段階だけど、近い将来さらに大きな波が来るかもしれない)


 レオンはぎゅっと拳を握り、心の中で守護騎士に語りかける。まだ召喚の必要はないが、常に背後で自分を見守ってくれているあの存在に「大丈夫、俺はもう逃げない」と宣言するように。

 脳裏にふわりと温かな応答のイメージが返ってきて、静かに頷く。仲間と行く商隊護衛か、あるいはさらなる大物モンスター討伐か。Dランクとしての活動がいよいよ本格化するのだと実感し、胸の高鳴りを感じる。


「もう最弱じゃない。……でも、まだ道半ば。もっと強くならなきゃいけないし、そのために新しい挑戦を重ねるしかないんだ」


 まるで決意を噛みしめるように小声で呟き、ギルドのドアを開けて外に出る。澄んだ空が眩しく、通りを行き交う人々の笑顔がいつもより晴れやかに見えた。

 いずれこの街を出て王都や他の領地を巡る日が来るにしても、いまはここでDランク相応の仕事を着実に積み、守護騎士との協調やパーティでの連携をさらに磨く段階だろう。敵はゴブリンだけでなく、いつか魔王軍など大いなる闇が迫る可能性があるのだから、のんびりしてはいられない。



 少し先の未来には、勇者パーティとの再会や王国の役人からの召喚術調査、といったイベントが待ち受けているかもしれない。噂が広まれば、それだけ未知のトラブルを引き寄せるリスクもある。でも、それが冒険者としての運命なのだ。

 レオンは革鎧を軽く叩き、自分を奮い立たせる。今までの苦悩や孤独は、もう遠い過去のようだ。仲間の励ましと守護騎士の力によって、彼は堂々とDランクを名乗り、新たな挑戦へ向かおうとしている。

 その小さな背中には、「未来を変える大いなる責任」と「現実に生きる仲間への思い」が同居していた。いつか魔王軍が世界を脅かすなら、最弱の烙印を跳ね返した彼が、さらなる高みで戦う日が来るかもしれない。そう遠くない未来に——


「俺は、もっと強くなる。きっと、この力で、みんなを守りたいから……」


 そう呟く声は誰にも聞こえないが、腕の紋章がじわりと温度を帯びて応えるように感じた。かつてはただの“追放者”だった少年が、いまは“Dランク召喚士”として成長を続け、時空を超えた騎士と共に、新たな物語の扉を開こうとしているのだ。

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