い、いえ。それは。
みんなに散々心配され、でも私は怪我一つなく。
むしろ魔力を解放したせいだろうか?
実にさっぱりと爽快そうにしていたので、皆、目覚めた私を見て、安心してくれた。
聞くと私は丸一日、眠りこけていたようだ。
キルはというと、不死身だったが、相応に私の相手をするために、魔力を使っている。火傷も負っていたが、それは聖女により癒され、そして私と同じく、眠りこけていた。命に別状はないし、傷も癒えている。一度意識を回復した時に、シリルに対し、キルは自身が魔王であることを打ち明けたと言うが……。聞きたいことは山とある。だが疲れているのは事実だろうから、私のように目覚めるまで、一旦放置となった。
そしてセインはどうなったのかというと……。
「決闘の勝敗はもう着いていたも同然です。そこに横槍が入りました。しかも魔族による邪魔が入るなんて、最悪です。そこは素直に敗北を認めました」
目覚めた私のところへ訪れたセインとは、二人だけで話すことができた。
セインがそうしたいとシリルに求め、シリルもそれを認めた形だ。
「敗北を認めたということは……」
「オデット様を諦めるということです」
そう言った時のセインの悲しい顔は……。
一生忘れられないと思う。
「敗北を認めたセインに、シリルは何を求めたのだ?」
これに関してセインは盛大なため息をつき「悪夢です」という。
一体どんなことを要求されたと思ったら……。
「人間達に抵抗を試みる魔族の残党なんて、もうわずかです。シリルのパーティだって間もなく解散だと思うのに。そのメンバーに加われと言うのです」
「え、セインに魔族を討伐させるつもりなのか!?」
「いえ、違います。……オデット様の護衛につけと言われました」
これは解釈が難しい。
私の護衛にセインがつくということは。
シリルと私が一緒のところも、セインは見守ることになる。
恋敵であるシリルと、セインの想い人であった私の仲睦まじい姿を見せられるなんて、拷問ではないか? しかもセインにとってシリルは、勇者であり、かつての敵だったのだ。
その一方で。
人間からすると、アビサリーヌの騎士団の団長だったセインからは、辛酸をなめさせられている。できれば処刑したいところだろう。セインを守ることができる者がいるとしたら、シリルしかいない。セインに役目を与え、存在意義を持たせ、周囲を納得させるには……。
私の護衛は最適だった。
シリルはなんだかんだで、ヴィレンドレーの魔族の討伐にも成功している。セインを一応捕らえたことにもなっていた。その上で、国王にセインの処遇を自身に一任することを、求めたのではないだろうか。
セインをシリルが処刑させなかった理由は、ただ一つ。
私を悲しませないためだろう。
そうであったとしても。
シリルのこの采配、セインからすると「悪夢」というのも否定できない。
そこでふと思いつく。
私の護衛ではなく、キルの護衛につかせることだって、できるのではないか?
「セイン」
「何でしょうか、オデット様」
「……私からシリルに頼んでみようか? 私の護衛ではなく、叔父上の護衛にセインをつけてはどうかと」
名案だと思った。これなら役目と存在意義も両立する。さらにシリルと私がベタベタする様子を見ないで済むだろうと思ったのだ。
ところが……。
「い、いえ。それは。キル殿のお守りは、マーシャルソン殿で十分かと。わたしはオデット様を見守ります」
「でも、それは悪夢なのでは?」
「元々、一生オデット様を、見守ることができればいいと思っていました。わたしと結ばれることなど、あり得ないと最初から理解できています。ただ、今回、思いがけずチャンスが巡ってきて……。もしかしたらと夢を見たのは事実です。ですが現実もまた、よく理解しました。その結果、悟ることができたのです。わたしにとってオデット様は永遠の女神。オデット様の幸せが、わたしの幸せです」
銀色の瞳を伏せ、頬を少し赤くしたセインにそんな風に言われると……。
前世で言うなら、私はセインの“推し”になってしまったのではないか。
悪夢と言いつつ、見守りたいというなら、もう放っておくしかないだろう……。




















