のらりくらり
私が目覚めた後、シリルは今回の事後処理で、外出が増えてしまう。
帰宅は深夜になることもあり、数日、シリルとほんとど顔を合わせることができなくなってしまった。
でも仕方ない。
今回もいろいろあったのだから。
そうしている間にキルが目覚めた。
黒のワームと黒のギガースを殲滅したのは、キルということになっている。
かつその時、私は大量の黒のワームと恐ろしい黒のギガースに囲まれ、意識を失ったことになっていた。よって私に対するヒアリングはなく、それはキルに集中する。
そこは申し訳ないなぁと思いつつも。
キルは自身の身分を偽っていたのだ。しかも不死身であることを私に知らせず、いかにも「自分はもうダメだ……」みたいな雰囲気を醸し出していたのだから……。長時間の聴取は、耐えてもらうことにした。
その聴取の合間に、つまりは昼食をキルととることができたのだ。
会議室に缶詰状態だからと、キルは城の中庭の東屋での昼食を提案した。
そこでローズレッドの濃淡のグラデーションになったドレスを着て、中庭へと向かうことになった。東屋に続く小径を歩きながら頭上を見上げると、レッドドラゴンによる火災もなくなり、よく晴れた空を見渡すことができた。
護衛を兼ね、私をエスコートして歩くセインは、自身の髪色と同じセットアップに空色のマントを身に着けている。その姿は秀麗であり、中庭に面する廊下を歩く貴族や使用人の女性達が、チラチラと見ている様子が伝わってきた。
前世では。例え推しがいても、日々の生活の中で出会いがあれば、結婚する人は、結婚している。セインが私を推しとして応援してくれるのは嬉しいが、彼にだって幸せになって欲しい。いつかこのセインの銀色の瞳を虜にする令嬢が現れてくれればいいのに。
そんなことを考えているうちに東屋へと到着した。
「やあ、オデット、よく来てくれた!」
珍しくハグで迎えられ、面食らうが、アンティークグリーンのセットアップ姿のキルに、チークキスをする。
東屋の中には、アイアン製のテーブルと椅子が置かれていた。
テーブルには白いクロスが敷かれ、既に美しい花と共に、大皿に乗せられた料理が並べられている。
肉と魚料理、焼きたてのパン、ポテト……。
香辛料の、食欲をそそる匂いが漂っている。
まずは着席し、食前酒で軽く乾杯となった。
東屋から少し離れた場所に、セインとシアとペルが待機している。
「シリルから聞いたと思うが、そういうことだ」
キルは早速肉料理を自身の皿に取り分けながら、そう切り出した。
「そういうことだ」で全部済ませるところは、キルらしいというか、なんというか。
でも本当に。
キルが魔族の始祖であり、初代魔王であるが、でも知るのはシリルと私と本人だけだ。
その一言で済ませるしかないだろう。
「ずっと身分を明かさず、生きているのか?」
「そうだな。最初の頃は、皆、私を知っていた。だが人間達との戦が始まると、次第に命を落とす者も増え、私を知る者も減っていく。それに子沢山だから、上が詰まっていると困るだろう? そこでまあ、初代魔王から退き、後はのらりくらりやってきたわけだ」
「自分を知る者が減ることは、寂しいことではなかったのか?」
白身魚のフライを食べながら尋ねると、キルは「ははははは、そうきたか」と朗らかに笑う。
「しつこく浮気を責められることもないし、大きな失敗も忘れてもらえる。それに新たに私を知る人もできるわけだから。寂しいなんてことはない。まあ、ただな。心から愛した人間の女がいても、どうしたって別れがきてしまうということだ」
思いがけずこのキルの言葉には、ドキリとすることになる。
シリルは人間なのだ。
だが乙女ゲームにおいて、ヒロインであるフィオナに選ばれた攻略対象は、魔王討伐の成果と共に、長寿のギフトが与えられる。フィオナが聖女であるからこそ、与えられるギフト。しかしシリルはヒロインに攻略されていない。
長寿ギフトは……手に入れていないだろう。
そうなると私は……キルと同じ。
心から愛したシルとは別れを迎え、でも私は生き続けることになる……。



















