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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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44/60

凄まじい殺気

「お見事です、シリル卿であれば、勝利間違いないしです」


 そう言うとキルは、膝から崩れ落ちる。

 手から落ちた剣が、先に地面に倒れた。


「叔父上!」


 私がその体を支えると、キルは……。


「子供は少なくとも四人、男女それぞれ二人は欲しいな。できれば息子の一人のミドルネームに、キルとつけてくれ、オデット。君とシリルの子供だ。きっと可愛いに違いない。くはっ」


「ほれ、キル殿、傷は既に治癒できておる。突きの一撃じゃったから、服は穴しかあいとらん。今日の記念にそのままでいいじゃろう」


 レウェリンに肩を叩かれ、キルは「はは、そうですか」と頭を掻いて、立ち上がる。

 私は心配して損をしたと思いながら、キルのことは放置し、剣の手入れをしているシリルに駆け寄った。


「シリル、水を」

「ありがとう、オデット」


 シリルは革の水袋を受け取り、喉を鳴らして飲んでくれる。

 乱れたブロンドと額に浮く汗。

 上気した頬、全身から感じられる戦闘直後の体温の高さ。


 平時の上品な雰囲気から一転。

 このなんともワイルドなシリルは、見ていてなんだか体が疼く。

 多分、男性フェロモンが全開で、完全に本能がノックアウトされている。


 それにしても。


 キルとの手合わせは、練習、の域を越えていたと思う。

 真剣勝負そのもので、最後は本当にキルは、シリルに敗北していた。


 最近のシリルは、魔獣との相手を任されることが多く、振るうのは大剣。しかも腱を断絶し、動けなくするような攻撃が多かった。ゆえに最終的にキルを突きの一撃で倒したのは「意外だ」とレウェリンは言い、私はとにかくシリルが素晴らしく感動していた。


「シリル、では回復させようか」


 あ、レウェリン!

 待ってほしい。私、今のシリルに抱きつきたいのだが……。


 そう心の中で思い、我慢する。


「オデット、私にも水を」「どうぞ叔父上」


 視線はシリルに向けたまま、水袋をキルに差し出す。

 シリルのブロンドは、いつも通りのサラサラで、額の汗も消えている。

 頬もいつも通り、オーラのような男性フェロモンと熱気も、落ち着いてしまった。

 普段の朗らかで爽やかなシリルがそこにいる。


「オデット、暑そうだな」


 そう言ったシリルが私の頬に手を添えたと思ったら、可愛い音を響かせ、頬にキスをした。シリルを見て頰を赤くしているのがバレてしまった。

 それにしても。

 さっき水を飲んだからだろうか?

 シリルの唇がヒンヤリと感じて気持ちいい。

 頬ではなく、唇でこの涼感を知覚したい……とシリルを見上げたその時。


 熱烈な抱擁をシリルからされ、心臓が爆発しそうになったのは一瞬のこと。

 強風の音に耳が震え、シリルに抱きしめられていなかったら、黒い火成岩の上を転がり、全身打撲と擦り傷になるところだった。


 ありえない強烈な風。これは……。


「貴様! オデット様から離れてください」


 押し殺したこの声。

 もう感じる、凄まじい殺気を。


 シリルの胸の中から顔をあげ、数メートル先にいるセインの姿が目に飛び込んできた。


 セインは闇色のローブを羽織っていたが、自身の風の魔術により、フードは脱げていた。

 アイスブルーの美しい髪が、乱雑に風になびいている。

 眉はキッと上がり、銀色の瞳には、強い怒りが感じられた。


「あ……」


 セインの左腕には、矢が刺さっている。

 それを彼は顔色一つ変えずに引き抜いた。


 赤黒い血が、しぶきとなって飛び散り、思わず目をつぶる。


「その怪我はどうしたんだ……?」


 シリルが尋ねると、セインは口角を上げ、皮肉な表情を浮かべる。


「決闘の前は、ルールは適用されない――なのでしょう?」


「まさか」


「それは誤解だよ、セイン」


 キルが一歩前に出た。


「今朝、カイテリアが率いる魔族の残党とエルエニア王国の兵は、激しい地上戦を繰り広げた。城塞都市ヴィレンドレーから逃げ出す魔族もいたんだ。建物を破壊し、人々を傷つけながらね。彼らを阻止するため、兵は動いた。君はそういった魔族の一体と、見なされてしまったのだろう。あのセインだからと狙われたわけではない」


 なるほど!

 セインが受けた矢は、流れ矢か、ただ単に逃走する魔族の一体と思われ、放たれたに違いなかった。


「いくら決闘の前に、ルールが適用されていないからと言って、ここへ向かう君を害するような命令を、シリルが指示するわけがない」


 キルの説明は妥当なものに思えた。だがセインは……。


「そんな言葉に、騙されるわけがないですよ」


 セインは引き抜いた矢を片手で折り、パラっと荒地の上に放り捨てた。

 左腕からは血が流れ落ち、黒い火成岩の上に、血だまりを作っている。


「キル。貴様は魔王の弟でありながら、人間の奴隷になりさがった、魔族の恥さらしです。貴様の言うことなど、信用できないですよ。アビサリーヌの崩壊も、オデット様が人間の手に堕ちたのも、すべての原因は貴様にあります。この決闘が終わったら、次はキル、貴様に復讐です」


 いつも冷静沈着なセインが、こんなにも感情を露わにすることに、驚きを隠せない。

 怒りが先に立ち、とても事態を落ち着いて判断できているようには思えなかった。


「あーあ。ダメだな。今のセインには、何を言っても無駄だ」


 キルはくるりとセインに背を向ける。

 真っ向勝負を挑んだ時。

 こんな風に背を向けられると、セインは絶対に許さない。


 すぐに仕掛けてくるかもしれなかった。


 「シリル」と思わず、その顔を見ると、彼は真剣そのものの表情でセインを見ていた。

 その様子を見て、私も慌ててセインを見る。


 セインは奥歯をぎゅっと噛みしめ、キルの挑発に耐えた。

 感情のコントロールができていない……と思ったが、そんなことはないようだ。

 ギリギリの狭間で、セインが動いているのだと思えた。


「貴様たち人間は、魔族を悪と決めつけ、聖人ぶりますが。だが貴様たちこそ、薄汚い真似を沢山しているではないですか。魔族の女を襲う兵士を、何千人と見てきました。決闘で正々堂々勝負と言っておきながら、矢を射かけるなど、お手の物でしょう。ですがそんな小賢しい罠に、屈するつもりはないです」


 セインが剣を抜いた。

 だがシリルは――。


「レウェリン」「御意」


 それはもうあっという間のこと。

 レウェリンの治癒魔法で、セインの腕の怪我は瞬時に治っている。


「そんな情け、不要です」「勘違いするな」


 シリルの凛とした声が、セインの言葉を打ち消す。

 セインは銀色の瞳を細め、シリルを睨んだ。


「手負いの魔族と決闘し、勝利したところで、自分の名誉が汚れるだけだ。勇者と言われるが、自分は騎士でもある。正々堂々勝負すると決めたからには、フェアでいきたい。腕以外にも、脇腹、太もも、背中。すべての傷は治癒できている。……始めようか」


 シリルの言葉に、衝撃を受ける。


 セインは闇夜のような色の、足首まで隠れるローブを着ていた。そして足元は黒い火成岩。血が体を伝うように流れていては、そんなに傷があったことに、全く気づけなかった。きっとここまでに来る間に、何本もの矢を受け、それは既に抜いていたんだ……。


 というかまさに満身創痍の状態で、セインはここまで来ていたことになる。


 事前に何か言うつもりはなかった。だがシリルの手にそっと触れ、その顔を見る。

 シリルは分かってくれたようで、頷いてくれた。


 そこでセインに向け、どうしても言いたい言葉を告げた。


「セイン! 決闘は止めるつもりはない。ただ、無茶はしないでくれ……。私は自分の意思でエルエニア王国にとどまっている。それにシリルのことを……愛しているんだ。強制されたり、魔法で無理矢理ではない。シリルと共に平和に生きたいと思っている。同じようにセインにも、平和に生きて欲しいと思っていることを……忘れないでいてほしい」


 私のこの言葉を聞いた時のセインの表情は……。

 銀色の瞳に浮かぶのは、まさに悲壮感。

 だが。

 瞬きをして開けた瞬間。

 そこには氷のような冷たさしかない。


 バサッとローブを脱ぎ捨てたセインは、まさに身一つ。


 血の痕が残る白シャツに、スリムな黒のズボン、そして手には剣。

 ベルトに短剣やナイフを帯びているが、それ以外の武器はない。


 シリルも静かに剣を抜いた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―
『悪女に全てを奪われた聖女―絶対絶命からの大逆転―』

●もふもふも登場します●
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周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~
『 周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~ 』

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『運命の相手は私ではありません!~だから断る~』はモブ転生した私が溺愛を回避しようとするお話です。

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『悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』は勿論ハッピーエンド!

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断罪回避を諦め終活した悪役令嬢にモテ期到来!?~運命の相手はまだ原石でした~
『完結●断罪回避を諦め終活した悪役令嬢にモテ期到来!?~運命の相手はまだ原石でした~』は終活で断罪回避!?

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『断罪終了後の悪役令嬢はもふもふを愛でる~ざまぁするつもりはないのですが~』の目次ページへ飛びます

●全13話完結●
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ざまぁは後からついてくる~悪役令嬢は失って断罪回避に成功する~
『完結●ざまぁは後からついてくる~悪役令嬢は失って断罪回避に成功する~』は、騙される!

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溺愛されても許しません!~転生したら宿敵がいた~
『溺愛されても許しません!~転生したら宿敵がいた~』は、稀代の悪女にされ、断罪寸前の公爵令嬢、かつての宿敵と皮肉な再会!

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悪役令嬢は徹底して悪女を演じる~おーほっほっ!は卒業したい!~
『完結●悪役令嬢は徹底して悪女を演じる~おーほっほっ!は卒業したい!~』は悪役令嬢の本音満載です

●全9話完結●
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破廉恥な行為で悪役令嬢は婚約破棄と断罪回避を試みる~地味なざまぁもできていた~
『完結●破廉恥な行為で悪役令嬢は婚約破棄と断罪回避を試みる~地味なざまぁもできていた~』は浮気婚約者とチートヒロインに負けません!

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『【完結】断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと気づきました!詰んだ後から始まる逆転劇』もおススメです☆

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『絶体絶命の崖っぷち悪役令嬢~断罪している場合ですか!?~』は、背景にあの曲が流れる!?

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浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~
『完結●浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~』断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾。

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ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~
『完結●ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~』はサクッと読める全4話

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悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】
『悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】』はサクッと読める全5話!

●全12話●
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『完結●裏設定アリの推しの婚約者!?悪役令嬢はヒロインの登場を切望する』は初の〇〇〇作品です!

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婚約破棄の悪役令嬢、断罪回避に成功!しかし~これ、何エンドですか!?~
『婚約破棄の悪役令嬢、断罪回避に成功!しかし~これ、何エンドですか!?~』は雑草魂で断罪回避!

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断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ第二弾
『完結●婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告した』一気読みがおススメです☆

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断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~
読者様の声に応え『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』続編公開&完結!

●ラストは仰天展開!●
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ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??
本編全20話『ずぼらな悪役令嬢×空から降って来たヒロイン=溺愛ルート??』

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完璧悪役令嬢は25人に振られ断罪回避に成功する
『完結●完璧悪役令嬢は25人に振られ断罪回避に成功する』
ペルソナQ、メダロットのあかうめ先生描き下ろし表紙絵

●一二三書房WEB小説大賞●
●二次選考中●
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断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』断罪終了後シリーズ第一弾。本家本元!

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モブなのにフラグ回避・やり直し・イベントがあるなんて、聞いていないのですが……(焦)
『モブなのにフラグ回避・やり直し・イベントがあるなんて、聞いていないのですが……(焦)』
オススメ!

●じれじれ溺愛系●
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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです
『完結●聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです』
もお楽しみください!

●商業化決定●
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悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

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