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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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あ、待った!

 決闘の場となるコロン原生林は、この大陸で一番と言われる広大な森だ。

 人間ではなくても、魔族でも知っているくらい。


 トウヒやカラマツといった針葉樹林が多いが、ポプラの並木が広がるエリアもあり、そこはまさにメルヘン。だが沼地や湿地帯もあり、そこはホラー映画の舞台のようにおどろおどろしい。そして今回の決闘の舞台になるのは、数十年前に起きた噴火で、荒地になっている場所だ。


 そう。


 コロン原生林には火山も含まれ、それは定期的に噴火を起こしている。だが人里離れた場所であるため、自然に任せるままになっていた。


 冷えて溶岩が固まり、やがてどこからか種が飛んできて、草木が芽吹く。そうして森ができるかと思いきや! そのタイミングで火山が噴火するのだ。その規模は決して大きなものではないが、せっかく芽吹いた草木はそれでダメになる。


 よって決闘の場として選ばれた荒地は、ずっと荒地のままだった。


 黒い火成岩が広がるその荒地は、暗黒の国アビサリーヌの土地を思い出す。

 アビサリーヌは火山とは関係なく、黒い土地をしていた。


「決闘にはおあつらえ向きの場所だな。荒涼としたこの雰囲気。どれだけ派手に暴れようが、誰にも迷惑がかからない」


 転移魔法であっという間に市街地からここへやって来たわけだが。

 確かにキルの言う通り、ここに生物の姿はなく、魔族の残党と人間の戦いも、ここで行えばいいのに……と思えてしまう。


「シリル、この岩はとても硬い。転んだり、投げ飛ばされた場合、相応のダメージを喰らうじゃろうな。魔法のサポートも受けられんから、足元は気を付けることじゃ」


 決闘の約束の時間まで、まだ余裕があった。

 レウェリンとシリルは目の前の荒地での戦闘をシミュレーションしている。


「そうだな。これだけ硬いと、ジャンプして着地した時のダメージも考えないといけないな」


「そう。シリルは魔法のサポートなしでも跳躍力があるが、ここは砂地や草地ではないゆえに、足のダメージは加味した方がいいじゃろうな」


「それでいて滑らかな面があるから、滑りそうでもあるな。となると大剣でのふんばりが厳しいかもしれないな」


 しばらく検証した後、シリルはスモールソードを選び、キルに声をかけた。


「キル殿、少し動きたい。お相手願えるか?」


「! 私かい? 勇者の剣の相手なんて。無理、無理、無理!」


「ご冗談を。“斬撃の狼”と呼ばれたのは、キル殿であろう?」


 “斬撃の狼”……!

 その名は確かに女魔王だった私も伝説として聞いたことがあった。

 まさに狼のように敵を追い詰め、斬り伏せる。

 まさかそれがキルのことだったなんて。


「あー、オデット。そんな期待を込めた目で見るな。見ての通り、私はもうおじいさんだ。昔のようには動けんからな」


「何を言っているか、キル殿。その見た目で何がじいさんか。ほれ、この剣を使え」


 レウェリンに剣をパスされると、見事にキャッチしている。

 それだけでもう、期待できてしまう。

 キルは「見た目は魔術で若く保っているだけで、実際はがたがきているんだよ」とブツブツ言いながらもシリルと向きあった。


 互いに剣を構えたその瞬間。


「あ、待った!」


 キルが着ているクルミ色の上衣を脱いで、クリーム色のシャツ姿になった。


 「ビリッってなると困るからさ」とキルがウィンクするので、脱力してしまう。

 こんな飄々として、シリルの相手になるのかと思ったが。


「では始めじゃ」


 レウェリンがそう言った瞬間。

 キルの表情が変わる。


 ルビー色の瞳の眼光が鋭くなり、剣の構えは斬るではない。

 あれは……。


「レウェリン、あの動きは……」


「“斬撃の狼”とは程遠いのう。あれは“瞬砕しゅんさいの一撃”じゃろうな。セインは斬るより、突くの攻撃を得意としていると聞いているぞ。風をまとわせた剣の一撃を受ければ、甲冑は粉砕する。ゆえに“瞬砕の一撃”と呼ばれていると」


「つまり叔父上は……」


「セインの剣技を繰り出しているのじゃろうな。さすが剣豪。自身の得意とするところではない剣技もマスターしていると」


 実際の決闘では魔術の使用を禁じている。でも突きの攻撃を得意とするなら、“瞬砕の一撃”とならずとも、“断命の一撃”を繰り出しそうだ。


「これはいい練習相手じゃ。キル殿はガタがきているというが、そんなことはない。剣術指南役になった方がいいのではなかろうか」


 レウェリンの言葉に、強く同意だった。

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