平和に生きて欲しい。
ベッドに仰向けになった私を、シリルの天色の瞳がのぞきんでいる。
その目に、まさにドキドキした表情の私が映りこんでいた。
「ただ自分の腕の中にオデットを抱きしめ、休息したかった。そうすることで心が癒される。それは自分にとって、とても大きな意味を持つ」
ふわりと空気の動きを感じ、気が付くとキスをされていた。
でもそれはやはりあっという間で、横になったシリルに抱き寄せられている。
まるで綿菓子を食べた後のようだ。
そのキスはあっという間で、甘く切ない。
もっとその味を感じたいのに。
もどかしさとじれったい気持ちが残る。
だが……。
その胸に顔を寄せると、規則正しいシリルの鼓動を感じた。
昼寝さえも有言実行。ちゃんと眠りについている。
もっと綿菓子を食べたいと、おねだりはできない。
ねだる? 誰が? 私が? まさか!
そもそもそんな、ねだるなんて無理だ……!
一気に血流がよくなって、体が熱くなってしまい、深呼吸をすることになる。
シリルの寝息以外は、天幕の布越しに外の喧騒が小さく耳に届く。
すべてを遮断しているわけではない。だが大きな音を押さえる魔法が、この天幕にはかけられていると、シリルからは聞いていた。
静まった頭でぼんやり考える。
私はただそばにいて、こうやってシリルの腕の中にいればいいのか。
シリルだからなのか。
それとも男性は皆、こんな考え方をするのか?
前世の気質が出て、何かしないとダメなんじゃないかしら?と思ってしまうが――。
無理をしなくていいのだろう。気づいて自分ができることがあればやればいい。
懸命に何かしなくちゃと慌てる必要はないんだ。きっと。
そこでそっとシリルの胸に触れる。
眠っているので、筋肉は弛緩していた。おかげで胸筋がないみたいに柔らかく感じる。
でも力をぐっと入れたら、私が拳で叩いても、弾き返すぐらい強靭になるはずだ。
そういえばシリルが十五歳で、騎士として従軍した時。
私に会ったことがあるとお義母様は言っていた。
一体いつ会ったのか、聞いてみたいと思っていたことを思い出す。
セインとの決闘が終わったら、聞いてみよう。
それにしてもセインは私を取り戻し、何をしたいのだろう?
もうアビサリーヌは滅びたし、復興なんて無理だ。
どこか新天地を見つけ、そこで第二のアビサリーヌでも建立するつもりなのか。
いずれにせよその時、私を祭り上げる必要はないのに。
セインの名だけで、十分、残された魔族は集まるだろう。
いや、そんなことはせず、平和に生きて欲しい。
そんなことを考えていると、いつの間にか瞼が重くなっている。
シリルから遅れること五分後。
私も眠りに落ちる。
そして――。
「シリル様、時間です」
テトの声に起こされる。
「分かった」と素早く応じ、シリルはすぐに上体を起こす。
まだ少し寝惚けた私の額にシリルが「チュッ」とキスをするので、一気に覚醒できた。
「テト、装備を身に着ける」「かしこまりました」
「私も手伝います!」
こうしてセインとの決闘に向け、シリルの準備が始まった。
いざとなってもそばにはレウェリンがいてくれる。
ゆえに機動性を優先し、シリルが身に着けるのは、革製の胴鎧、籠手、そして脛当てだ。胴鎧の心臓のところだけ、甲冑と同じ金属が使われている。
テトと手分けし、装備を身に着けるのを手伝い、そして手入れの終わった短剣などもベルトへと収めて行く。最後にモンド公爵家の紋章のついた留め具で、はおったマントをとめた。
「ありがとう、オデット。おかげで準備が早めに終わった」
シリルが黄金の髪を揺らし、綺麗な笑みを浮かべた時。
「シリル総司令官、カイテリアが率いる軍は大幅に撤退です。西の門から多数の魔族が逃げ延びたようなので、追跡を続けます。……いよいよですね」
「ブラウン指揮官。午後、カイテリアが動くことはないと思うが、もしもの時はハビエット指揮官と共に、ミルトンとレダとも連携をとり、動いてい欲しい」
ブラウン指揮官が「イエス、サー」と背筋を伸ばす。
レウェリンとキル、マーシャルソンが現れ、ミルトンとレダもやって来た。
ハビエット指揮官は西の門から部下を連れ、魔族の追跡に加わっている。
「では後は任せたぞ」
キリッとした表情のシリルが、集まったみんなの顔を見た。























































