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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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率先して動ける君に

 ぎゅっと抱きしめたシリルだったが、すぐに私から体をはなす。


「テト、昼食の用意を進めてくれ。今から午後の決闘に備える」


 そこからはセインとの決闘に向け、準備が始まった。

 その合間に地上戦の様子を確認し、シリルは次々に指示を出す。

 魔族たちは多くが逃走を始めているが、その際、建物の破壊や市民への攻撃も行っている。そこはきっちり捕縛するように命じていた。


「二十分程、休む。テト、時間が来たら、起こしてくれ」


 天幕の外で、武器の手入れをしていた。

 私もそれを手伝っていたが、まさに終わったタイミングで、シリルが昼寝をすると告げた。


 昼寝が終わったら、防具を身に着け、いよいよ転移となる。


「オデット」


 寝室に入ろうとしていたシリルが呼んでいる。

 天幕の入口の布は上にあげた状態なので、寝室の入口まで見通すことができた。


 立ち上がった私は、手にしていた短剣を鞘に収める。


 短剣なんて、いつ使っていたのかと思ったら!

 地上に落ちたレッドドラゴンと戦っている際、何度となく魔族に狙われていたというのだ。その応戦で、短剣をナイフ投げのように扱っていたと聞き、いろいろな意味でビックリだった。でも一緒に手入れをしていたテトによると、シリルの短剣は重心を調整しているため、むしろ投擲に向いているのだという。


 ということでその短剣を武器係の兵士に渡し、私は急いで寝室へ向かう。


 先に寝室に入っていたシリルは既にマントをはずし、上衣を脱いでいるところだった。

 駆け寄った私は上衣を受け取り、ハンガーにかけ、ラックへかける。

 振り返るとシリルは、シャツの袖のボタンをはずしていた。

 昼寝をするため、いろいろと服を緩めているようだ。


 そこで私は、昼寝の後に装備することになっている、革製の胴鎧キュイラス籠手アームブレース、そして脛当て(レッグアーマー)をローテーブルへ並べた。


 ズボンのベルトをはずし、さらにシャツのボタンもいくつかはずしたシリルが、ベッドに腰かけている。


「ラベンダーのこうでもたくか?」


「ありがとう、オデット。だが昼寝だ。ラベンダーの香をかいでは本格的に眠ってしまいそうだから、たかなくていい。それよりもこっちへ来てくれ」


 なんだろう? すぐに横になるのかと思ったが……。


「マッサージでもするか? 手のひらや指のマッサージは気持ちいいぞ」


 そう言いながら、ベッドに近づくと、シリルは「そうなのか」と自身の手を見る。

「座らせてもらう」と断りをいれ、シリルの隣に腰を下ろした。


「手を」


 言われるままに差し出されたシリルの手を見て、今さら驚く。

 あれだけの大剣を扱い、槍も投げている。

 勿論、グローブをつけている。それにレウェリンの魔法で回復もされているのだろうけど……。

 それでも改めて見ても、手が実に美しい。


 「失礼する」と言いながら、両手でシリルの右手をとり、親指を使い、付け根や指に圧をかけていく。


 すべすべとして艶もあるし、潤いも感じられた。

 肌もピンと張っている。

 もっとゴツゴツしているかと思ったが、そんなことはない。


「……気持ちいいな」

「だろう?」

「これは誰かに習ったのか、オデット?」

「まあ、そんなところだ」


 前世であれは誰に教わったのだろう? ともかく友達同士でも気軽に手のマッサージをやっていた気がする。特に親指と人差し指で指先をぎゅっと挟み、少しふってからはなすと、されている方はスッキリするのだ。


「……驚いたな。何かやってもらうために呼んだわけではないのに。上着をかけ、防具も準備し、マッサージまで……申し訳ないな」


 自然とシリルが左手を差し出している。

 これは「気に入ったので、左手も頼む」という合図だ。

 良かったと思いながら、その左手をとる。


「すべて大したことではない。何もできず、むしろこれぐらいしかできず、申し訳なく思っている」


「オデット。君は暗黒の国アビサリーヌでは、王族の一人だった。上着をかけ、防具を準備するなんて、しないでいい身分だ。ましてやマッサージをするなんて……」


 そう言いつつもシリルの目は、マッサージをする私の手に注がれ、手から力が抜けていく様子が伝わってきた。リラックスできているようで、良かったと安堵する。


 シリルが気持ちよさそうに息をはき、そしてこんなことを言ってくれる。


「率先して動ける君のことを尊敬している。だがただそばにいてくれるだけで、構わないんだ」


「そうなのか」


 丁度、一通りのマッサージが終わり、シリルを見上げた。

 天色の瞳が、とろけそうに甘くなっている。

 ドキッとするの同時に、私の体はベッドに倒れこんでいた。

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