↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/60

何かタッセルのようなものを掴んでいた

「オデット、大丈夫だ。君がいろいろ情報を教えてくれた。間違いなく、討伐は上手くいく。終わればすぐに戻る。そんな泣くほど心配するような」「そんなことはないっ!」


 ナプキンで私の涙を拭おうとしているシリルの手を掴んでしまう。


「戦場では何が起きるか分からない。不測の事態が起きて当たり前だ。簡単に片付くと思った戦で足元をすくわれる。そんなことばかりだ。絶対なんてないのだから……」


 その瞳に驚きの色を浮かべていたシリルだが、すぐに優しい表情に変わる。


「そうだな。自分が間違っていた。……抱き寄せてもいいか? そんなに涙をこぼすオデットを放ってはおけない」


 こくりと頷くと、シリルは「まずはその涙を」と、ナプキンで頬をぬぐってくれる。その上で私のことをふわりと優しく抱き寄せた。


 自然と体から力が抜け、シリルの胸に身を預けている。

 シリルは私を落ち着かせるように頭を撫で、そのまま背中も撫でてくれた。

 そうやって触れられることで、不思議とドキドキするより、癒されていると感じている。


 そして……。


 彼の心音が聞こえてきた。


 生きてここにシリルがいると分かり、心底安心できる。

 同時に。

 こんなにもドキドキとしているのは……きっと私が急に泣いたので、心配させてしまったのだと思う。


 シリルに声をかけようと思ったが、まだ涙が出そうだった。


 もう少し落ち着いてからにしよう。


 そんな私の気持ちが、シリルにも伝わっているのだろうか?

 シリルは何も言わず、私の背を撫で続けている。


 そこから五分ぐらい経ち、シリルが遠慮がちに声をかけてくれた。


「オデット、もう涙は収まったか?」

「はい。……急に、取り乱して、申し訳なかった」


 シリルの顔を見上げると、黄金のような髪がサラッと揺れ、彼の額が私の額に重なった。


「あやまる必要なんてない。あんな風に心配してもらえて……嬉しかった」

「シリル……」


 凪いだ海のように完全に静まっていた心臓が、一瞬にして大騒ぎになっている。

 これでは心臓が持たない……と思った私は、シリルに提案していた。


「……顔を洗ってもいいだろうか?」

「勿論。バスルームに案内しよう」

「だ、大丈夫だ。この寝室にはドアが三つしかない。配置的にバスルームはあれだと分かっている」


 そう言うと私はシリルからはなれ、バスルームと目星をつけていた部屋へと向かう。

 扉を開け、中に入ると……いきなり明かりがつくことに驚く。

 前世のようなセンサーライトなんて存在しない。

 よってこれは……魔法で明かりがついているんだ。


 便利だなと思いながら、大理石で出来た洗面台に向かう。

 水甕の水を使い、顔を洗って、タオルを掴もうと、手を動かすと。

 何かタッセルのようなものを掴んでいた。


 次の瞬間。


 いきなり目に見えない力でバスルームの方へ引っ張りこまれ、着ていたドレスをあっという間に脱がされてしまう。しかも下着まで!


「えええっ」という声を出そうとしたら、そのままいきなりバスタブに体がふわりと運ばれる。あまりに驚き、声が出ない。同時にバスルームに明かりが灯り、バスタブは丁度いい温度のお湯で満たされていく。


 さらにスポンジが勝手に背中やら腕やらを流してくれる。


 な、何が起きている!?


 完全にパニックになっている間に、体の泡が落とされ、今度は髪が洗われていた。人の手のような感触があるので、自分の手を伸ばすが、そこには何もない!


 そうこうしているうちに髪が洗い終わったと思ったら、頭上から突然お湯がふってきて、全身を洗い流した。ビックリしたところでバスタオルが飛んできて、あれよあれよという間に水気がなくなる。髪はタオルをターバンに巻いたような状態になり、そして……。


 バスルームを出ると、タオルドライされながら、歯磨きをすることになった。

 タオルドライが終わった髪には、どこからか吹き出す温風が当てられ、どんどん乾いてく。


 魔法だ。

 このバスルームには”自動入浴システム”という、前世でさえなかった魔法がかけられているんだ……!



 最終的にシリルのぶかぶかのバスローブを着せられ、入浴は完了となった。

 ちゃんと体も髪も洗い終え、しかも髪の乾燥までしてくれる。

 こんな自動入浴システム、前世でもなかったというのに!

 魔法は実に素晴らしいと思った。


 しかし。


 このぶかぶかバスローブでは、前世で言うなら平安時代の姫君のようだ。裾を引きずることになるし、袖も長すぎる。


 そう思っていたら!

 脱がされたドレスがいつの間にか寝間着に戻っていた。

 まだ零時は回っていない。

 ドレスを魔法で変身させるのは、あまり得意ではないと、魔法使いのレウェリンは言っていた。もしかすると魔法の効き目が甘かったのかもしれないが、これは好都合だった。


 急いで寝間着に着替え、そしてバスルームを出ると、シリルが安堵した表情で私を見た。


「入浴魔法が発動したようだな」

「すみません。私が何か余計なものに触れたようで……」

「自分が先に注意しておけばよかった。驚いただろう? ……しかし、その寝間着は? 魔法でそんなものも用意されていたのか……?」


 シリルが驚いた様子でソファから立ち上がり、私の着ている白いシルクの寝間着を眺めていた。


「あ、元々着ていたドレスは、この寝間着をレウェリンの魔法で変えていただけだ。どうやらその魔法が解けたようだ」


「なるほど。そうなるともうドレスはないのか。よし。明日の朝に着るものは、別途用意させよう。それと使いを出して、公爵邸ここにいることは、青の塔の者には既に伝えてある。誘拐されたと心配させることになるからな。そこは大丈夫だ」


 いろいろとちゃんと動いてくれていたことに、改めて感動してしまう。


「シリルはいつもあの入浴魔法を使っているのか?」


「……時間がない時はそうだな。少し早いが、部屋に案内させようか?」


 そうか。なるほど。ちゃんと私を別室へ案内してくれるのか。

 ペルの言葉で、そういう流れになるのかと思ったが、ちゃんと配慮してくれた。

 それはキルが「オデットは、手に触れられるぐらいなら大丈夫だろうが、それ以外は徐々にだろうな。ゆっくり慣らしてやってくれ」とシリルに伝えてくれたからだろう。


 なんだかんだで叔父であるキルに助けられていると思う。


 ということで「分かった」と答えかけ、「待てよ」と考えることになる。


 沢山の花束が届けられたということは。

 私が公爵邸ここにいることを、知る人は多いのだろう。

 つまり婚姻関係を結ぶ書類にサインし、夫となった騎士であり勇者であるシリルの屋敷に私がいることは、周知になった。当然だがそれは国王陛下の耳にも届くだろう。


 だが結局、部屋は別々で休んだ……となれば、それもまた彼らに伝わる可能性がある。


 いや、公爵邸の使用人だ。口は堅いと思う。忠誠心も強いはず。

 結婚したばかりのシリルと私が別々の部屋で休むことになっても、それをペラペラ話すようなことは……ないと思う。ないと思うが、もしも話されてしまった時には手遅れだ。


 やはり政略結婚、愛のない結婚と噂は広まり「魔王の娘は無理矢理結婚させられた、お救いしなければならない!」という、魔族の残党たちの戦うための大義名分になりかねない。


 それはダメだ。


「シリル。もしものことを考えると、私はこの寝室で休んだ方がいいと思う」


「!! それは政治的な配慮か?」


「そうです。……一応今夜は……(ごくりと唾を呑み)初夜になるのだろう?」


 「初夜」という言葉を口にするだけで、心臓が止まりそうだった。

 シリルは口元に笑みを浮かべ、「そうだな。では自分も入浴をしよう。ナイトティーはこの部屋に用意させよう」と言い、ベルを鳴らす。


 部屋に来た従者にテキパキと指示を出すシリルを眺めながら、この判断で間違っていないはず……と自分に言い聞かせる。


 一方のシリルは、従者が部屋を出て行くと、バスルームへ向かう。


 その背中を見送り、ふとあの入浴魔法で瞬時にドレスを脱がされたことを思い出し、シリルもそうなるのかと考えた瞬間。


 シリルの裸……いや、何を想像しているのだ、私は!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●9/2発売●
バナークリックORタップで書報ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●本編完結●
バナークリックORタップで目次ページ
やらかしてしまったモブ令嬢です
『やらかしてしまったモブ令嬢です 』

●新連載●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生!婚約破棄で推しと家族が闇落ち!回避したいだけなのに
『悪役令嬢に転生!婚約破棄で推しと家族が闇落ち!回避したいだけなのに』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●出版社特設サイト●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!②
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!② 』

●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

●[四半期]推理(文芸)2位●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

●現実世界の恋愛物語●
バナークリックORタップで目次ページ
せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~
『せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~ 』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。