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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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たまらなく……

 口の中に広がる、酸味と甘みと溢れる果汁。

 もぎたて感のある香りも知覚している。

 この味の記憶は、魔族に転生してからではない。

 前世のものだ。

 暗黒の国アビサリーヌは、どこの国とも交易していないので、こんな南国の果実は手に入らない!


 そう、今、私の口の中には、シリルが食べさせてくれたパイナップルが入っていた。

 くいっと私の顎を持ち上げたシリルは、パイナップルを食べさせてくれたのだ。


「レダから聞いていた。アビサリーヌは交易している国がないから、チョコレートなんてめったに手に入らないと。ならばフルーツもそうだろうと思い、海路で運ばれた南国のものを用意していた。オデットが喜んで食べてくれるだろうと思って」


 私はじっくり味わい、パイナップルを飲み込むと、目を輝かせることになる。

 言われてテーブルに置かれた銀皿を見ると、確かにそこに並ぶのは……。


 アプリコット、ラズベリー、ピーチに加え、パイナップル、パッションフルーツ、キウイフルーツ、グアバ、マンゴーと、南国のフルーツが勢揃いしていた。


「オデットのために用意したものばかりだ。良かったら、楽しんでくれ」


「ありがとうございます!」


 前世でもパッションフルーツは、あまり食べた記憶がない。

 ここはありがたくパクパクといただく。

 この酸味もそうだが、噛みしめた時の種のパリパリとした食感がたまらなかった。


 これまたあまり食した記憶のないグアバ。こちらは白い果肉でシャキシャキした食感が、洋ナシに似ているかもしれない。味もそこまで主張がない。パッションフルーツの後の箸休めに、丁度いい気がした。


 続いてキウイフルーツ!

 前世ではお手頃価格で手に入ったので、よくヨーグルトに入れて食べていたが、この世界では珍しいフルーツに分類される。果肉の色が濃い……と思ったら、完熟していたようで、ものすごく甘い!

 パッションフルーツの直後に食べないで良かったと思う。


 仕上げはマンゴー!

 安いものは安く、高いものは高い。

 前世では国内産マンゴーは驚くほど高かった。味もまさにピンキリだった記憶があるが、はてさて。


「あ、甘い……!」


 果肉は口のなかでとろけるようで、つるっといけてしまう。

 これ、絶対にタルトにしても美味しいやつ!


 完全に前世のモードで食べていると、シリルが「オデット」と私の名を呼び、振り返ると……。

 唇の端についたマンゴーの果肉を、ナプキンで綺麗にふいてくれた。

 そこで気が付く。

 どうぞ、と言われ、無心に食べていた。

 隣にシリルがいるのに、完全に南国のフルーツに夢中になっている。

 しかも……南国フルーツは、マンゴー一切れを残し、すべて平らげていた。


「シリル……すまない」

「? どうした、オデット」

「共に生きることを誓ったばかりなのに。私は……自分の食欲を優先させ、その……もうこれしか」


 ぽすっとシリルの手が頭にのせられ、驚いてその顔を見ると、彼の空を映したような瞳が優しく細められていた。


「オデットは王女だったのだろう? もっと堂々としていてもいいものを。なぜそんなに謙虚なんだ? 悪い意味では言っていない。感動している」


「そ、それは……」


 私の中に、女魔王としてのオデットと、前世日本人としての私が混在しているからだろう。


「オデットのそんな優しいところが……たまらなく好きだ」


 照れることなくストレートにそんな風に言われ、もう全身が熱くなる。

 そこでふと気づく。

 シリルはどうも私のことを昔から知っている……そんな風に思えるのは、気のせいなのだろうか?


「君の気持ちが晴れるなら、その最後のマンゴーは自分がもらってもいいか?」


「そ、それは勿論!」


 そこでシリルにフォークを渡そうとしたが、緊張していた。

 「あ」と思ったら、絨毯の上にフォークを落としている。

 スプーンがあるが、それはパッションフルーツ用。

 こんなことのために、シアやペルを呼んでもらうのは申し訳ないと思った。

 かといって私のフォークを使ってくれ……なんて言えるわけがない。


 するとシリルが、私の腰をぐっと抱き寄せた。

 いきなり腰を抱き寄せられ、驚いたが、だからと言ってそれ以上どこかに触れることはない。

 抱き寄せた後、すぐに腕は離れている。


 ただ耳元で「そのマンゴーをフォークですくって」と囁かれたのだが。


 まず距離が近い!

 声がダイレクトに耳へ届いたように感じ、落ち着かない。

 しかも声だけではなく、ふわりと息が耳に触れたのだ。

 何とも言えない歯がゆい感覚に、胸が震えている。


 り、理性が飛びそう……!

 悶絶しながらも、マンゴーをフォークですくわないと!――そこで手を動かすと。

 その私の手に、シリルの手がふわっと重なった。


「マンゴー、いただいても?」

「……ど、どうぞ……」


 先程の耳元での囁きに、完全に力を持っていかれている。一方のシリルは、私の手を包み込んだまま、マンゴーをすくったフォークをそのまま自身の顔へ近づけ、パクリと頬張る。


 その瞬間の距離の近さに、眩暈がしていた。

 これは異性耐性がない私の閾値が、超えた結果だろう。

 シリルはそこまで変なことはしていない。

 それにマンゴーを食べ終わると、元の位置に座り直している。

 そうではあっても。


 いろいろ近かった。

 シリルという存在を思いっきり感じてしまったのだ。

 感じた結果……。

 ソファの背もたれに身を預ける。

 なぜだろう。

 もっと触れあってみたいと思っていた。

 耳元での囁き。

 あれがもし愛の言葉だったら、どんな気持ちになるのだろう?

 腰を抱き寄せたまま、耳元で彼の吐息を感じ続けたら……。


 そんな妄想も膨らみ、自分が自分ではない気持ちになっている。


「疲れてしまったか?」


 ソファにもたれる私を、心配そうにシリルがのぞき込んでいた。

 その顔は清廉そのもので、さっき妄想した妖艶なシリルとは、全然違う。

 むしろ妄想の中で愛の言葉を話させ、吐息をはかせ、いろいろしてしまったことを……猛省する。

 猛省した私は、少しでもシリルの役に立ちたいと思った。


「問題ない。それよりシリル。北部の都市、ヴィレンドレーで暴れているカイテリア。奴について、私が知る情報を伝えておく。少しでも戦局が有利になればと思うから」


 そこでカイテリアが過去にとってきた戦略など、一通り話すことになった。

 シリルは熱心に話を聞いてくれる。


「なるほど。魔獣の召喚が得意なのか。では歩兵を前線で動かすのは、危険だな」


「はい。最前線には罠を仕掛け、後方から弓兵、そして魔法使いとエルフを配備した方がいいと思う」


「そうだな。……オデット、いろいろ教えてくれて、ありがとう。カイテリアには投降を促し、なんとかして王都へ連れ帰るようにする」


 これには「ありがとうございます!」だった。

 ただ……。


「私が言ったからと、無茶はしないでほしい。カイテリアが、私の知るカイテリアではなくなっている可能性だってある。私の希望を優先させ、シリルが傷つくようなことは……あってはならないと思う。というか……」


 こんな感情が溢れるのは、初めてのことだった。

 戦場に行く魔族のことは、何度も見送っている。

 セインのことなんて、死地になるのでは?という場所にも、何十回も送り出しているのに。


 シリルが人間だからだろうか。


 人間は脆いと分かっているから。いざとなった時、魔術を使えないから、身を守ることができないと思ってしまうのではないか。


 ――「戦場に向かうが、結婚もした、絶対に生きて戻って来る……」


 不意にレダの言葉を思い出してしまう。

 生きて戻ることを意識しないといけない程、危険なのだ。

 そう戦場は……人間にとって、魔族以上に死と隣り合わせの場所なのだ。 

 そんなところにシリルを行かせるなんて……。


 これまで何十回と激闘を経験し、シリルはここにいるのだと思う。

 数々の勝利を収め、シリルはとても強いと分かっている。

 それは頭で理解できていても……。


「シリル!」

「どうした、オデット?」

「……絶対に生きて帰って来て欲しい。無茶はしないで欲しい。ちゃんと元気な姿で帰って来てくれ!」


 セントの死を聞いても、涙を数粒こぼしただけなのに。

 今は涙がボロボロとこぼれ落ちていた。

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