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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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その命ある限り、真心を尽くす

 なんだか勢いでここまで来てしまったが。

 初めて来たエルエニア王国の神殿に、圧倒されてしまう。

 暗黒の国アビサリーヌに、神殿などなかった。

 前世でもこんな神殿、足を運んだことなどない。


 すべてが白の世界。

 大理石の床と柱と屋根。

 柱に沿い、等間隔で、明かりとなる松明が並んでいる。


「こちらですよ」


 レダにエスコートされ、歩き出す。

 一歩後ろから、魔法使いのレウェリンもついて来ていた。


 オリーブの葉をくわえた、鳥の絵がレリーフとなっている両開きの扉の前で、レダが立ち止まる。


 レダが右側の扉を押し、レウェリンが左側の扉を押す。

 ゴゴゴゴと低音を響かせ、扉が開いた。


 中に入ると既に祭壇の前に、シリルがいる。


 儀礼用なのだろうか。

 真っ白の生地に、金糸による刺繍、金の飾りボタンと飾緒があしらわれた軍服を着ている。マントは鮮やかなセレストブルーで、そのコントラストが眩しく感じた。


 ゆっくりこちらを振り向くシリルの瞳は、空を映したかのような碧い色。

 魔族が好む黄金のような髪が、その動きにあわせ、サラサラと揺れる。


 鼻梁の通った端正な顔立ちに、微笑が浮かぶ。


 その微笑に胸が柄にもなくキュンと高鳴り、同時に緊張してくる。

 婚姻関係を結ぶために、司祭の前で誓いの言葉を交わし、書類にサインをするだけ。

 あと何かするとレダが言っていたが多分、大丈夫。

 深呼吸をして、落ち着くのだ。


 そうしている間にも、レダにエスコートされ、祭壇につながる真っ直ぐの通路を進むことになる。

 左右には長椅子が並べられ、最前列には……!

 フィオナとエルフのミルトンがいる!

 これには驚いた。

 まさかヒロインとその攻略対象が参列してくれるなんて。

 しかも桜色のドレスを着たフィオナは、私を見て笑顔で手を振ってくれている。アクアグリーンのセットアップを着たミルトンも、エメラルドグリーンの瞳を細め、見守ってくれていた。


 こうして通路を進み、ついにシリルの横に立つことになった。


「オデット王女……いや、今日からはオデットと呼ぼう。わざわざこんなに素敵なドレスに着替えてくれたのか?」


 シリルが上から下まで私を眺め、その瞳を輝かせる。

 褒められたことが嬉しいのに、同時に恥ずかしくなり……。


「これはレウェリンの魔法で……」


 なんだかぶっきらぼうに答えてしまう。


「魔法でこんなドレスを出せるのか。違うな。着ているオデットのおかげで、このドレスが映えているのだろう」


 これは殺し文句というのではないか。

 恋愛耐性がない私は、もう真っ赤になり、俯くしかない。


「シリル卿、始めますか?」


 レウェリンと同じぐらいの年齢の司祭が、シリルと私を交互に見る。

 着ている司祭服も白で、レウェリンとそっくりに見えてしまうが、髪と髭が銀髪なので、そこが区別のポイントに思えた。


 私がそんなことを考えている間に、シリルが「始めて欲しい」と答えていたようだ。司祭は手元の書物を広げ、夫婦になる二人への心得のようなことを話してくれていた。


 ちゃんと聞かなければと思うが、緊張は続いており、あまり頭に入ってこない。


 それでも。


 健やかなる時も、病める時も~という、前世でも聞いたことがある言葉が始まると、意識は必然的にそちらへと向かう。


 同時に心臓が信じられない程、高鳴っていた。


 まだシリルと話すことができていないのに。

 本当に婚姻関係を結んでしまっていいのか。


「……その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

「誓います」


 シリルの凛とした声が響き渡る。

 即答だった。迷いなどない。


「では……」


 司祭がそう言った瞬間。


「間に合った!」「ひぃ~」


 まさに私の誓いの言葉のターンで聞こえてきたこの声は!

 叔父であるキル、そして見知らぬ魔法使い。

 間違いなく、突然キルに請われ、転移魔法を使うことになったのだろう。


 ここにいるメンバーは皆、キルのことを知っているようだ。

 この突然の登場にも、動じることがない。

 司祭はチラリとキルを見て、シリルを見る。

 シリルはクスッと笑った後、「問題ない」という表情で司祭に頷く。

 司祭はそこで私へ向けて、誓いの言葉を告げる。


「……その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


 心臓がなんだか爆発しそうだった。

 一瞬、キルを見ると、ものすごい勢いで首を縦に何度も振っている。

 髪が乱れることを気にせず、何度も。


 そうか。

 まだシリルと話はできていないが……。

 いいのだな。

 お墨付きをもらえた気持ちになり、返事をしていた。


「……誓います」


 その瞬間。


 皆が温かい拍手を送ってくれる。

 あくまで婚姻関係を結ぶための書類にサインをするためであり、これは正規の結婚式ではない。

 後に盛大な式は行うと言われているが……。

 私はこれでも十分だった。

 胸がジーンとし、感動している。


「ではシリル様、オデット様。誓いのキスをどうぞ」


 うん、誓いのキス!?


 ドクドクと心臓が大騒ぎを始め、目が泳ぐ。


 そう言えばそんなことをレダが言っていたが、受け流していた気がする。

 それよりもっと進んだ段階まで今日あるのかと思い、そっちの件を気にして……。


 とにかく司祭の顔を驚きで見ていたが、背中からふわっと抱き寄せられる。

 シリルの方へ体がさらに近づき、そして――。

 スッと伸びたシリルの手が、頬に添えられた。


 シ、シリル……!


 こんな、みんなの前で、そんな!

 違う。

 誓いのキスは神聖なものだ。

 だから……。


 一瞬、シリルの瞳と目が合った。

 温かい眼差し。そして「大丈夫だ」と伝えてくれる。


「あ……」


 ふわりと感じた空気の動き。

 シリルの唇は、私の額へキスをしていた。


 額からじわんり伝わってくるシリルの体温。

 潤いのある質感も知覚していた。


 私が恥ずかしがっていると分かり、額にしてくれたんだ……。

 前世の弱気な自分が、この神対応に涙が出そうになっている。


 同時に、拍手が起きる。


「では最後にこちらへサインで終了です」


 脱力した状態で、シリルに支えられながら、婚姻証明書にサインをした。

 「確かに、受領いたしました」と司祭が微笑み、終了だった。

 本来だとこのサインのみなので、ものの数十秒で終わることだろう。

 でもシリルはちゃんと司祭を手配し、みんなのことを集めてくれていた。

 集めて……いや、巻き込まれて参列したり(レウェリン)、勝手に乱入した奴(叔父上!)もいたが。


 ともかく完了した。


「これで終了じゃな。今日は超過労働じゃ。もうとっと帰りたいから、ほれ」


 レウェリンがそう言うと、シリルと私の足元に魔法陣が広がる。

 「えっ」と思った次の瞬間。


 もう転移していた。


 間接照明のように明かりが抑えられた部屋は、すべてが紺色に思える。

 この部屋は……。

 天蓋ベッドの位置、ソファセットの位置、暖炉の位置。

 違う。

 これは青の塔に用意された私の部屋ではない。


「シリル、ここは……」

「モンド公爵家の屋敷だ。そしてここは自分の寝室だ」


 いきなり王城の敷地外に、しかもモンド公爵家の屋敷、それも寝室に転移させられるなんて!

 明日の早朝、北部の都市ヴィレンドレーを目指し、出発のはずだ。

 大丈夫なのだろうか?


 私が心配をしていると、シリルはベルを鳴らす。

 すぐに従者が来て、彼はペルとシアを呼ぶように指示を出していたが。


「ちょって待って欲しい、シリル!」

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