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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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18/60

同情? 愛情?

 今晩先に、婚姻関係を結んでおきたい。


「え、えええええ」


「驚かれますよね。無理もないと思います。ですがエルエニア王国では割とよくあることなんですよ。ずっと戦争状態が続いていましたよね。よってすぐに婚姻関係を結べるように当人同士の意思のみで、書類にサインすればいいんです。勿論、王女様と勇者の結婚ですから、盛大なお式は後日、しっかり執り行います。ですが、既に国王陛下から許可は出ていますし、簡易で司祭を呼び、参列者は……まあ、私でしょうか。ともかく神殿でシリル様が」


「ちょって待て!」


 椅子から立ち上がり、レダの両肩をがっしり掴む。


「こ、婚姻関係を結ぶというのは、そ、その書類にサインを結ぶだけか!?」


「はい。基本的には。あとは人により、司祭を立ち会わせ、誓いの言葉とキスぐらいする方もいますかね」


「そ、そうなのか。それだけか……」


 レダは指を顎に当て「うーん、そうですねぇ」と考え、「それだけだと思います!」と微笑む。


「何せ明朝一番で出発が決まり、実は今、準備に皆さん、追われています。本音を言わせていただければ、婚姻関係なんて結んでいるところではないだろう!なんですよ」


 それはそうだろう。これから戦に向かうというのに。

 しかも総大将も同然なのに!


「でもだからこそ、でもあるのです。戦場に向かうが、結婚もした、絶対に生きて戻って来る……そんな意味あいも含め、婚いうわぁぁぁ」


 掴んでいたレダの肩を思わず大きく揺らし、尋ねてしまう。


「そんなに今回の討伐は危険なのか!? カイテリアはただの青二才だ。しかも率いているのは残党のはず。生きて戻れない程、危険だというのなら、私も共に向かおう! 私がカイテリアを説得する」


「お、王女様、おち、落ち着いてください」


「だがシリルが命を落とすかもしれないのだろう! それを黙って見過ごすわけにはいかない! シリルを死なせるわけにはいかぬ。だから私もヴィレンドレーへ行く!」


 次の瞬間。

 ぎゅっとレダに抱きしめられ「?????」と固まる。


「王女様はそこまでシリルのことを……。シリルの部下として感無量です。ですが王女様、安心してください! 有象無象の統率のとれない残党など、造作もなく倒せます。今回、婚姻関係を急いだのは、王女様の身の安全のためです」


「へ?」


「王女様が、とある令嬢からいろいろ言われたことは、侍女からシリルに伝わっています」


 それはもしやヴィヴィアンヌのこと……だろうか。

 そうなのだろう。


「彼女のような妬みもそうですが、魔族に対する偏見だってないわけではありません。今はシリルも王都にいて、フィオナ様やミルトンの婚約、戦勝のお祝いムードもあり、表に出ていませんが……。魔族に夫や息子を殺された……という声もゼロではないのです。そんな状況の中、王女様をそのまま置いて王都を出るのが、シリルは心配だったのですよ」


「なるほど。シリルの……勇者の伴侶という盤石の立場になれば、さすがに恨みを持つ者も手を出せないと?」


「そうです。しかも国王陛下が直々に二人の結婚を認め、しかも既に成立した婚姻関係ともなれば……。もし王女様に手を出せば、それは国王陛下の意向にも逆らう、反逆の意志ありと認められます。そうなればこの国で生きていく意思があるならば、迂闊に手を出すことはしないでしょう」


 残していく私のためを考えて、シリルは急遽婚姻関係を結ぶことを決めた。

 これは私が殺されないようにするための、同情なのだろうか?

 それとも……愛情と捉えていいのだろうか?


 同情だろうと愛情だろうと、婚姻関係を今から結ぶ――は決定事項だろう。

 それならば言われた通りにするしか……。


 ――「往生際が悪いぞ、オデット!」


 叔父であるキルの声がよみがえる。


 同情なのか、愛情なのか。

 それはシリル本人に聞くしかない。



 神殿へ向かうことが決まると、侍女とレダの間で小さな一悶着があった。


 それは……。


「盛大なお式は後日挙げることは理解しています。今日は司祭立会いの元、書類にサインを入れることがメインなのでしょうが……。せめて白いドレスに着替えてからではダメですか!?」


「うーん。でもドレスって着替えるのに時間がかかりますよね? それにドレスを着替えたら、やれ髪型を変えたい、お化粧も整えたいとなりませんか。それに侍女の皆さんは間違いなく、磨き上げたくなると思うのです。プロフェッショナルとして。つまり一度手をつけたら、完璧にするまで止めることができないのでは?」


「うっ、それはおっしゃる通りですが……」


 この様子をレオンを抱っこし、眺めていたが。

 私にとって、一生に一度のことと、知り合ったばかりなのに、侍女も頑張ってくれている。

 どうしたものかと困っていると、レダが「分かりました。こうしましょう!」と提案した結果。


 部屋に魔法使いのレウェリンを呼ぶことになった。

 突然呼び出される形になったレウェリンだが、いつもの白のローブで、手には杖を持っている。「まったく魔法使いの扱いが荒いのう」とぼやくレウェリンに、レダは呼び出した理由を説明した。


 つまりは急遽、シリルと私は婚姻関係を結ぶことにしたので、衣装をなんとかしたい。レウェリンの魔法でドレスを着せ、髪型を何とかして欲しいということだ。


「なるほど。お祝いごとの協力を惜しむつもりはないのじゃが……。女性のドレスや髪型を変える魔法……範疇ではないんじゃ。よってまず、基本となる色にあわせ、白の寝間着に着替えてくれんかのう」


 寝間着に着替えるなら簡単だ。これにはレダも「着替えましょう」と同意する。

 そこで衝立の中、侍女に手伝ってもらい、まずはドレスを脱ぐ。その間にレウェリンが説明してくれた。


「魔法使いはオールマイティでどんな魔法でも使えるわけではなく、得意・不得意がある。わしは服飾に関しては素人じゃからのう。しかも魔法のレベルも低いから、今晩零時を過ぎたら元の寝間着に戻る。それでも構わぬか?」


「構いません!」と侍女が鼻息荒く返事をしている。その後は、レダとレウェリンが髪型について話していた。その間に寝間着への着替えは完了だ。


 綿の白い寝間着ではない。シルクの寝間着は、デコルテが見えるデザイン。手首までの袖は、そこだけがシルクシフォンになっている。身頃はウエストでシェイプされ、足首まで隠れるフレアロングスカート。これをドレスに魔法で変えるのは最適だと思えた。


 「では」とレウェリンが言うと。

 瞬きしている間に、寝間着がドレスに変わっている。


 スカート部分は、ふわふわの白のチュールが何層も重ねられ、裾にはフリル、しかもそこに立体的な小花がいくつも飾られている。ウエストの背中側に、ドレープ状になったリボン。胸元は大きく開き、身頃には銀糸による美しい刺繍まであしらわれている。しかも長袖は、白のロンググローブに変わっていた。


 髪はアップで、ちょこんとティアラまで乗せてくれている。


「うーむ、どうなんじゃ?」


「「完璧です!」」


 侍女たちとレダの目がハートになっている。

 姿見を見た私も、思わず頬が緩む。

 これはもうウェディングドレスと言っても過言ではない。

 自信がない、得意ではないというが、そんなことはなかった。

 レウェリンの魔法はパーフェクトだと思う。


 レオンまで目を大きく見開き「すごいですにゃん」という顔でこちらを見上げていた。


「王女様、こちらをお持ちください!」


 侍女の一人が、部屋にあった花瓶の花をリボンで結わき、ブーケのようにしてくれていた。

 赤い薔薇の美しいブーケだ。


「では神殿までお送りしましょう」


 そう言っている間にも、転移に必要な魔法陣が、レウェリンの足元に広がる。

 転移の魔法は難易度が高く、一人ずつに対して魔法陣が用意されると聞いていた。

 だが、今、魔法陣はレウェリンの足元にしかない。


「レウェリンの転移魔法では、一度に三人は転移できます。神殿なんて目と鼻の先ですから、あっという間ですよ。行きましょう、王女様」とレダが私をエスコートする。


 こうしてレウェリン、レダ、私の三人が魔法陣の中に立ち、レオンを抱いた侍女が見送ってくれている――と思った次の瞬間には。


 神殿に到着していた。

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