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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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とんだご令嬢がいたものだ

「ははははは! とんだご令嬢がいたものだ。魔族も青ざめる毒を吐くな。間違いなく、そのご令嬢はシリルのことを好きなのだろう。そのシリルと婚約したオデットのことを許せないと思った。それは……そうだろう。突然現れたかつての敵国の王女が自分の想い人と結婚する。悪夢としか思えなかった。だからと言って、可愛い姪っ子にその言葉は……」


 そこでキルがニコリと笑う。

 嫌な予感がする。


「そういう気が強い女は落としがいがある」


「落とすだけ落として、捨てるのは、反動がこちらへ来るのでやめていただきたい!」


「そうか。まあそのまま嫁にもらってもいいが。幸い、私の隣は空いている」


 悪役令嬢と叔父であるキルが結婚?

 これにはため息をついて尋ねるしかない。


「叔父上がこの王都にいることは、おおやけになっていいのだろうか?」


「いや。異国から来た使える人材ということで、魔族であることは伏せている。魔族にしか、俺の正しい姿は見えていない。あの好々爺の魔法使いレウェリンが、そういう魔法をかけてくれた。アイツは凄腕の魔法使いだぞ。俺が子供の頃からその存在を知られていた」


「ヴィヴィアンヌ・エミー・デヴォンは、伯爵家の令嬢だ。しかも社交界でも有名。そのヴィヴィアンヌと結婚すれば、どうしたって目立つ。注目を集めると、身バレするリスクが増えるのでは?」


 するとキルは両手をあげ、降参を示す。

 「その通りだな」と呟いた後、こんなことを言いだす。


「そのヴィヴィアンヌ令嬢の毒気にやられたと思ったが、ピンピンしているな。ならばその元気なままで、シリルとちゃんと話すがいい。政略結婚だ、愛のない結婚だと言っているのは、当人ではないだろう」


 それは……その通りだ。

 だがそれこそ怖くもある。

 本人からハッキリとこんな風に言われでもしたら……。


「君への同情です。敵とはいえ、命があるのですから。あなた自身は、戦場で何かしたわけではないのです。ですが魔族というだけで、王族というだけで、死罪を言い渡されるなんて……。ですからこれは同情であり、愛情ではないです」


 いくら魔族の気質が非情と言われても、私には前世の記憶がある。人間としての気質も持ち合わせることになった。こんな風に言われたら、かなりのダメージだ。


「オデット」

「なんだろうか、叔父上」


 すると叔父上は、腕組みをして、ルビー色の瞳を私に向ける。

 そうやってじっと見られると、胸の内を見透かされているように感じてしまう。


「本当の気持ちなんて、本人しか分からない。推測するだけ、無駄だ。聞くんだ、シリルに。勇気を出せ。恐れるな。それに」


 そこでニヤリとキルは笑う。

 なんだかゴクリと喉が鳴る。


「強大な魔力を持っているとバレたら、狙われるぞ。面倒ごとに巻き込まれる。とっとと失くすに限る」


「! だが叔父上の場合、千年経ってようやく魔力が弱まったのでは!? そう簡単にうまくいくように思えない。……それに」「あー、往生際が悪いぞ、オデット!」


 これには「むう」と黙り込むことになる。

 確かに悪あがきをしている……と思う。


「とにかく話せ、シリルと。どうあがいてもオデットとシリルは結婚するんだ。夫婦になるしかない。ならば話すしかない。以上、終了だ!」


 最後はキルに押し切られ、会話は終了になってしまった。

 そしてキルは、魔法使いに作らせたという指輪を私に渡してくれる。

 ピンキーリングで右手につけるようにと言われた。何か困ったことがあれば、リングに埋め込まれた赤い宝石をこすると、私の位置がキルに伝わると言うのだ。

 これを渡してくれたのは、共に王族の血を引く、最後の二人のよしみだろう。

「ありがとう」とひとまず受け取った。


 その後、談話室を出ると、キルはひらひらと手を振り、去っていく。

 従者も連れず、実に自由人。


 一方の私は、キルのその後ろ姿が見えなくなったところで思い出す。

 セインの煽った毒について調べるため、ここへ来たのだった。

 魔術で作り出した毒なら、キルに聞けばよかった……と思ったが。

 魔王城の図書館にあった本が、禁書も含め、ここで読めるのだ。


 よし。

 時間もあるし、調べよう。

 セインが自身の魔術で作った毒。

 その毒を飲んだ結果。

 まるで眠っているような状態になった。

 苦悶の表情を浮かべているとか、苦しみで喉を掻きむしるとか、血を吐いた形跡もない。

 傷一つなく、穏やかに目を閉じているようにしか見えないというのだ。

 それでいてその体に触れただけで、その相手は死んでしまう……。

 しかもセインの遺体は腐敗することなく、生きているような状態をキープしているのだ。


 さらにその体を燃やせば、煙と共に毒が広がり、多くが命を落とす危険がある。土葬すれば、土が毒に汚染され、雨などを通じ、土地全体が毒に侵されるリスクがあった。


 よって王都へ運び、大神殿に安置し、そこで浄化を試みるという。


 死してなお、敵を苦しめるセイン。

 そこは魔族としてはあっぱれ。

 だが、もう永遠の眠りについたのだ。

 そこまで頑張らなくてもいいのに。

 そう思ってしまう一方で。

 そんな状態になってしまったからこそ、この王都に運ばれることになった。

 本来であれば現地で埋葬され、お終いなのに。


 セインはこうなることを予想していたのだろうか。


 魔王城にいた私は、敗北すれば捕らえられ、エルエニア王国の王都へ連行される。

 セインの遺体は王都へ運ぶしかない。


 人間の国の都で、魔族の女魔王と騎士団長が再会する。

 でも私は生きている。

 死んだセインとの再会なんて、願っていなかった。

 再び会うのなら、お互いに生きて、だ。


 パタンと開いていた禁書を閉じる。

 いくら調べても、セインのような症状を示す毒なんて紹介されていない。

 禁書に書かれていた毒についても、くまなく目を通した。

 でも見つからない。


 きっとセインは新しい魔術を思いついたのだろう。


 夕食の時間が近い。

 部屋に戻ることにした。


 ◇


 鴨肉のパピヨットを食べていると、部屋にシリルからの使いが尋ねてきた。

 食事中、急ぎではない場合を除き、使いは食事が終わるまで待機していることが多い。

 だがそのまま部屋へ通されることを希望したということは。

 急ぎである、ということだ。


 どうしたのか。


 そう思いながら会ってみると。

 現れたのは、女騎士レダだ。

 白シャツにグレーのズボン、シルバーのマントと見慣れた姿でそこにいる。

 私と同じく食事をしていたレオンも、レダに気がついた。銀の皿から顔を上げ、レダを見ている。


「王女様、お食事中、申し訳ありません」


「問題ない。もうメインを終えるところだ」


 そう言いながら、鴨肉を私は素早く口へ運んでしまう。

 人間たちと戦闘中、戦況報告を食事中に受け、そのまま会議になることも多かった。ゆえにササッと食事を終えるぐらい、お手の物だ。


「実は北部の都市ヴィレンドレーに、カイテリアが率いる魔族の軍が侵攻を開始しました。その数、三万。決して見て見ぬふりができる数ではありません」


「カイテリア……。ああ、セインの遠縁だ。弔い合戦を仕掛けるつもりだろう」


「魔王城にエルエニア王国の軍二万がいますが、そちらはそちらですべきことがあり、またこのカイテリアの蜂起を受け、他の場所でも何が起きるか分かりません。近くにいる軍をヴィレンドレーに全て向けるのはリスキーです。そこで、王都から援軍を送ることになりました」


 魔族と人間の数千年に渡るいくさは終結したはずだった。

 だがこう言った小競り合いは、一つ一つ潰していくしかない。

 いや、三万は大軍だ。小競り合いの域を超えている。


「カイテリアはまだ若く、血気盛んだ。人間で言うなら、十八歳ぐらいか。ただ、尊敬するセインが自害しているのであれば、負けを認め、投降するはずなのだが……。周りにいる魔族に煽られているだけだと思う。できればすぐに手に掛けず、話を聞いてやって欲しい」


 私が頼むとレダは、ニコリと笑う。


「さすが王女様。お詳しいですね。シリルには伝えておきます。それでですね、シリルが自身のパーティと三万五千の兵を率いて、ヴィレンドレーに向かうのですが……。今晩先に、婚姻関係を結んでおきたいそうです」

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